付き合って一日でフラれたけど何やかんやあってガチイケメンと知り合いになれました

神澤直子

第1話

「別れよう」


 昼休み、校舎裏、風はまだ涼しいけれど初夏の日差しが肌を焼くじんわりと汗ばむ陽気。


 私--近藤なおは今、いったい自分がどのような状況にあるのかを考えあぐねていた。


 今目の前にいるのは片山雄介先輩。身長183cm体重85kg、バスケ部のエースでかなりのイケメン。


 なんで私は今この先輩に別れを切り出されているのか。


 --そうだ、昨日……。


 私の記憶が正しければ、私は確かこの先輩に告白をしてOKを貰っている。ダメで元々の告白だったがまさかの結果で、その後連絡先を交換して夜はそれなりにラブラブなやりとりをしていたはずだ。


 --え、私、昨日何か粗相でもした……?それともただの心変わり……?


 不安になって先輩を見る。


 こんな話をしているのに先輩は妙に上機嫌でニコニコと私を見ていた。普通別れ話ってもっと神妙な面持ちでするものではないの?私にはこの先輩が何を考えているのかが全くわからない。


 呆然としている私に先輩がダメ押しで言った。


「聞こえてなかったみたいだから、もう一回言うね。別れよう」


 2回も言わなくても聞こえてますよ、と私は思ったが言葉が喉に詰まって出てこない。なんとか絞り出すように言った。


「な……なんで、ですか?」


「ああ、理由?」


 あっけらかんとした風な先輩。「俺さあ」と続けた。


「俺、前の彼女と別れたのが三日前なのね。で、ちょうどこのタイミングで君から告白されて。別に今好きな子がいるかって言われたらそう言うわけでもないし、まあ君もブスってわけではないし、まあいっかって思ってOKしたわけ。でもさあ、今日の朝一年A組の松本理奈ちゃんってわかる?めちゃくちゃ可愛い子。あの子に告白されたんだよね。正直さ、あの子と君を比べたら月とスッポンなわけよ。だからあの子と付き合いたいんだよね。だから別れてよ。……ああ、まあ二番目でいいって言うんだったらそれでも構わないんだけど」


 私は呆然とするしかなかった。今の私の顔、口をポカンと開けて絶対とんでもないまぬけ面。


 私は確信する。この男、とんでもないクズのクソ野郎だ。


 何も言えないでいる私の肩をポンと叩いて、先輩は「そういうことだから」と去っていってしまった。




 近藤なお 15歳。人生初の失恋。




 去って行く先輩の背中を見送って暫くポカンとしていたが、だんだんと腹の底からグツグツとした何かが湧き上がってきた。


 先輩が可愛いからって言う理由で松本理奈ちゃんを選んだのは仕方無いと思う。だって私だって先輩の何が好きかって言われたら『顔』としか答えようがない。私だって顔が好きで告白したんだから同じ穴の狢だ。


 たしかに松本理奈ちゃんは学校中の噂になるほどの、いや地元で話題になるほどの美少女なのだ。嘘か本当かはわからないけど、東京の芸能事務所からスカウトされたなんて話も風の噂で聞いたりもする。


 それに比べて私は自他共に認める普通の顔をしている。美人でもないし、ブスでもない。所謂モブ顔。普通を絵に描いたような顔。ちょうどいいブスですらない。雑踏に紛れたらわからなくなりそうなそんな顔。


 でも、それにしたって昨日の今日というのは酷すぎる。何の悪びれもなく幸せの絶頂から奈落の底まで叩き落とされた気分だ。


 --もしかしたら、傷が浅いうちにという配慮なのかもしれないけど。


 きっとモテモテな彼はこんな経験を何度もしているのだろうし、そういう経験から導き出された最適解がこれなのだ。


 私はなんとか自分を納得させようとした。


 でもやっぱり湧き上がってくる腹の虫がおさまらない。


 --こういう時は……。


 私はつかつかと校舎裏に植えられている樹に近づいた。腕を振りかぶる。


「でやああああああ!」


 ゴンッと鈍い音が辺りに響いた。


 私の手から腕へ痺れるような痛みがじんわりとのぼってくる。これが自分の負った心の痛みだ、と私はその痛みを噛み締めた。

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