魔王と聖女の約束は来世で

水蓮

第一章 幼少期編

第1話 追憶《ミアside》

 瓦礫の中、死にかけの男と女が、約束をした。


「絶対、世界中に名前が轟くくらい有名になってね。ちゃんと、見つけるから」

「ああ。お前もな」


 男が答えると同時に、今までなんとかバランスを保っていた瓦礫が落ちてきた。


◆◇◆◇◆◇


 セルキア村に生まれた、ミア・セルキア。それがの私だ。

 そう、今世。私には前世の記憶がある。


 前世の私はその魔力の多さから聖女と呼ばれ、教会で働いていた。

 しかし、孤児出身だったため、血統を重視する貴族たちには煙たがられていた。

 そんな目の上のたんこぶな私が、魔王の再来が予言されると生け贄になるのは当然の流れだった。

 表向きは、『これ程の膨大な魔力を持つ者がこの時代に生まれたのは、魔王の生け贄になる宿命だから』という、無関係の民衆からすれば納得できる理由で。


 魔王城に連れていかれたら、後は放っておかれた。逃げても良いが好奇心が勝り、魔王城を探索した。

 すると、ある部屋の中から物音がする。

 そうっと中を伺うと、黒髪に灰色の瞳の男がなにやら机にかじりついている。それだけ聞くと普通の男のようだか、翼と角を持っている──魔族だ。


 しばらく眺めていると、ふと目が合った。あっ、と思ったら捕まえられていた。


「お前は誰だ?」


 怒った様子もなく、ただ普通に尋ねてきた。だから私も答えられた。


「私は魔王様への生け贄となりました、ミケイラと申します」

「生け贄? どういうことだ?」

と、いうわけでことのあらましを説明した。


「なるほど。……しかし、生け贄など欲さないが」

「やはりですか。……ところで貴方は誰ですか?」


 魔王側から生け贄を欲していないことに加え、予言でも一言も触れていない事柄だったので、想定内の答えが返ってきた。

 そこで、ずっと気になっていたことを訊いてみた。


「……! 気づいていなかったか。俺がその『魔王』だ。名をジークハルトという」


 魔族だとはその容姿から察していたが、まさかの魔王本人だった。


 生け贄になったはずなのに、人に会ってはまずいだろう、ということで、城に泊めてもらうことになった。


 泊めてもらえることになってすぐ、ジークハルトが魔術バカなことに気がついた。

 私も魔力が多いため、魔術式を作っては試して作っては試して、と実験した結果、かなり魔術に詳しくなっていた。

 ジークハルトとは馬が合って、共に魔術の研究を進める上で、彼とは相棒のような友人のような関係になった。

 名前もジークと呼ぶようになった。



 ジークと魔術を研究していたある日、城が大きく揺れた。

 あわてて外を見ると、兵士がこの城を攻撃している。

 魔術を使おうと思ったら使えなかった。魔力はあるのに、自分の意志で操れないのだ。それはジークも同じようで、二人揃って何も出来なかった。


 天井が崩れてくる。一刻の猶予もない。


 私とジークは死に際にある約束をした。

 それは来世で有名になって、お互いを探すということだ。

 そのために、今世の記憶を魂に結び付けて、来世でも覚えておけるようにした。


 名前も分からない。顔も分からない。

 だから、目印に『有名になる』のだ。言葉が世界中に届くように。


 もし同じ時代に転生できても、世界は広い。死ぬまで会えなくても不思議ではない。

 だから、世界で知らない人はいない程有名にならなければいけない。もう一度、ジークに会うために。

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