第42話 ワルキューレ


「泰明、率直に言う…ワルキューレ候補生と練習試合をして貰う」


いきなり言われても意味が解らない。


『ワルキューレ』ってなんだ?


名前からして強そうな相手にしか思えない。


「神代様、貴方は俺のボス…それは間違いない…だがどんな相手かも解らないのにいきなり練習試合と言われても困る。まぁ練習という事は試合で無いから『殺しあい』では無いんだよな?」


一瞬目が泳いだ気がする。


こう言う顔をする奴は碌な者じゃない。


最近、なんとなく解ってきた。


「いや…殺人鬼どうしが戦うのだ。甘い事をいうな、殺しあい以外に何があると言うんだ?」


「神代様、それの何処に『練習』の余地があるんだ? どちらかが死ぬ様な戦いを『練習』とは言わない」


「まぁ、そうとも言うが…」


何となく解かってしまった。


恐らく相手は神9に近い存在の候補生。


そして『練習』は相手にとっての『練習』


つまり格下の俺を殺す事で練習する…そう言う事だ。


「悪いけど、それはパスさせて貰う、俺の義務は会社での仕事と試合に出る事だけの筈だ…それは義務に入っていない筈だ。まして得体の知れない相手と殺し合いはしたく無い」


「確かにそうだが、君の次の大会は日本最強殺人鬼決定戦、プロの部だ、神9も全員ではないが出る大会だ…そこで死にたくなければ此処での経験は必要だ…大丈夫だ!神9から1人引率も出す…殺されないようにするから、此処で経験を積むべきだと思うが…」


ハァ~仕方が無い、やるしかないのか…


「解った、そこ迄言うなら受けるよ、命の保証はしてくれるんだよな?神9が引率なら」


「…善処する」


「保証…」


「…善処する」


神9より強いのか?


まさかな?


◆◆◆


「あの…サクヤヒメ…様…なんで俺にしがみ付いているんですか?」


「あんた…馬鹿なの?! ワルキューレの所属団体に行くんだよ…怖いよ…」


「あはははっ、何を言っているんですか? 日本最強の神9、そのサクヤヒメが…まさかワルキューレたちの方が強いなんて事無いでしょう?」


「…あの」


「チクショウーーっあの時阿弥陀で隣を選べばこんな事にならなかったのに…私はまだ死にたくないんだーーー」


なんだ、このサクヤヒメの怯えよう。


詳しくは聞いて無いが…神9なんだから、ある意味日本ランカーって意味だよな?


まさか…


「あの、サクヤヒメ…危なくなったら、飛び込んで助けてくれるんですよね?」


「ででで出来る訳ないだろう? 基本生死問わず、ギブアップ無しなんだから…それに飛び込んだと同時にワルキューレが飛び込んできて私は死ぬわ…1つの死体が2つに増えるだけだよ」


「冗談ですよね? あの…候補生だから…あははは強く無かったりして…」


「強いよ…恐らく、候補生でも、アマテラスやツクヨミ位だと思った方がよいよ…」


話が違うじゃないか?


「あの…助けて…」


「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理」


「あの…」


「セコンドにつくだけだ…タオル投げても終わらないし…死ぬまで勝負だから…何も出来ない」


「それじゃ」


「死んだら…死体だけは持ち帰ってやるから…安心しろ」


「安心できるか…神代の奴覚えていろよ」


「貴様…神代様に向かって…」


「うるさい…騙されたんだ、怒って良いだろう!」


「あははは…ご愁傷様…うん怒って良いよ…(ボソッ)死んじゃうから」


「今…死ぬとか…」


「言ってない…言ってないから」


「怖いから、俺逃げ…」


「逃がさないわ…神代様から頼まれているから」


「クソッ、監視役だったのか…このリムジン内側からあかないし…」


「まぁ、頑張ってね…もし勝ち残ったら神代様が『非売品、アマテラス等身大フィギュアサインつき』をあげるって…」


「要らないよ」


「なっ、アマテラスは引退したから今後も発売は絶対されないんだからね…ちなみに私達のも没になったから当分ないわ…しかも、実際に最後の試合で着ていたコスチュームつきなんだから…神9ファンなら生唾ものなんだから…」


元最強殺人鬼の等身大人形…怖いだけだ…


「もう逃げられないなら…仕方がない…神代様に連絡が取れるようにして置いて…」


「何かする気」


「さぁ」


何か秘策を考えないと…死ぬ事に…


◆◆◆


「此処がワルキューレの練習場か…随分煌びやかなんだな」


「そりゃ、殺人鬼系アイドルだからね…華麗で綺麗でそれで残酷に強い…そうしないとスポンサーがつかないから」


「成程…神9と同じだ…」


金髪や銀髪の凄い美人がざっと15人程いる…ワルキューレって13人、候補生が3人だから16人居ないといけない筈だが1人足りない。


「どうした少年、思わず見惚れてしまうだろう? ワルキューレ達は美しいからな」


「そうですね…」


多分、こんな殺伐とした環境で出会うので無ければ…間違いなくそうだ。


だが幾ら凄い美女でも俺を殺しに来る相手に見惚れたりしない…


「そうだろう…そうだろう…俺の名前はマイケル、ワルキューレのオーナーでマネージャーもしている」


「そうですか…それで俺は…」


「ああっ、候補生、二人との試合だ…尤も2人と戦うには1人に勝って殺せればだけどな…あはははは、無理だ」


「あの…3人では」


「今朝、1人死んだからな…だから2人だ」


死んだ…


「…」


「君も聞いているだろう? 我々の試合は『片方が死ぬまでやるデスマッチ』だからな…当たり前だろう?」


そう笑いながらサムズアップされても困る。


「それなら…ちょっとルールを変えて貰ってよいですか?」


「命乞いは無理だぞ…ははは」


「ワルキューレ13人と候補生2人とのハンデマッチ…を希望します」


「何を言っているんだ…死ぬ気か?」


「泰明、なに言っているんだ…やめろーーっ」


「それは私のワルキューレを馬鹿にしているのかい」


「いや違います…練習を見ててもう勝てないのはほぼ解りましたから…どうせ死ぬならハーレムで死にたい…そう思ったわけですよ…ただ一瞬で死んじゃうのも悲しいから3分間、受けに回って貰うハンデが欲しい…どうですか?」


「死にたいのか…どうせ死ぬならハーレムを味わいたい、そういう事だな?」


「そう言う事です」


駄目か…


「はははっそれならOKだ、君の最後の3分間が楽しめるように、服も薄着にさせてやろう…地獄のハーレムを楽しむが良い…ああっ、その願いを叶える代わりに動画を撮影させて貰うが良いか?」


「良いですよ…その代りこちらも動画を撮らせて下さいね」


「OK」


こうして…また俺の死闘が始まる。



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