第34話 ウサギは我ら


「鈴木くん、それは本当なのか?」


「ええっ泰明係長は本当に、凄いですよ…」


俺の仕事は裏社会の絡む揉め事の解決だ。


その仕事の解決の為にだけ作られた部署…それが総合企画部。


其処の長がこの俺リチャードだ。


部長の地位に高額な年棒と自由、それと引き換えに危ない仕事をしている筈だったが…


嘘だろう…


相手が武闘派ヤクザだからと言っていきなり後頭部を殴り拘束。


借金のかたにまだ小学生位の少女を取り上げアダルトDVDへ出演させ…売春をさせようとした…


それだけじゃなく、母親に指の請求。


指一本100万円で買い取る話をしたと言う。


その脅しに屈しお金を貰ったら…もう要らないとばかりに、ヤクザごと母子を殺した…


今迄、殺しの現場に同行した社員は居ない。


どうしようもなくなった時には神代様に依頼して裏で殺人鬼に手に処分をして貰っていた。


だが、今回は違う…鈴木の目の前で…殺しが行われた。


これは完全に我々が巻き込まれた事になる。


「本当にそれを泰明係長が行ったのか?」


「嘘を私が言っていると思っているのですか…嘘なんて言いませんよ、全て誓って本物です」


神代様は一体何をもって、此処に泰明係長をねじ込んできたんだ。


今迄は法律スレスレで仕事をしていた筈が『完全に犯罪者』の仕事をしている。


お金を返さなかったなら兎も角…返したのに家族皆殺し。


最早グレーゾーン処じゃない。


完全な黒だ。


今迄この部署はグレーゾーンで動いてきた。


最早これは…企業の一部署の話じゃない。


私の範疇を遥かに超えた物だ。


俺は飾り物の上司。


真のこの部署の支配者は泰明なのかも知れないな。



「「「泰明係長、おはようございます」」」


まぁこうなるわな。


泰明は紛れも無い殺人鬼なのだから…


どうれ…


「昨日は大活躍だったみたいじゃないか? 今日は夕方に相談があるから、それまで自由にしてて良いよ?なんなら16時まで遊びに行っていて良いからね」


「ありがとうございます」


何がウサギな物か…ウサギは我らで此奴は狼。


そこを履き違えたら…死ぬ。


此処はもう昨日までと違う。


私の城ではもう無い。









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