勇者中学生【勝彦】十四歳☆メタバースな虫異世界でマンガ学園入学に向けて受験修行中

楠本恵士

勝彦くん「あなた、こちらの世界の高校……難しいわよ、その程度のジャンプ力じゃ」

第1話・ケ・セラ・セラなんとかなるさ……たぶん

虫喰むしくいくん、あなた……このままの成績だと、こっちの世界の高校は難しいわね」

 カミキリムシの触角が、ツインテール髪のように下がったベータ種虫人の、担任女性教諭が呆れた口調で十四歳の虫喰 勝彦に言った。


 来年受験の実感が、希薄な勝彦は気楽なもんだった。

「はぁ、オレ高校ダメですか……笑えます、あはははっ」

「笑いごとじゃない! あなた、なんでそんなに他人事なの……受験は来年よ! 少しは緊張感を持ちなさい」

 母親と担任教師を交えた三者会談。

 頭に虫の触角を生やしただけの、ガンマ種虫人の息子の勝彦に、イナゴの触角を生やしたベータ種虫人の、イナゴ母親は軽くタメ息を漏らしながら担任の女性教諭に相談する。


「高校、なんとかなりませんか先生? 推薦入学とか」

「そうは言っても、秀でた特技でもない限りは……虫喰くん、なにか特技とか推薦入学をアピールできるモノある?」

「オレ、跳躍力15メートルあります」

「たった、15メートルのジャンプ力じゃあねぇ。せめて、30メートルくらいの高さまでジャンプできないと──他に得意なコトは? 趣味とか」

「壁にラクガキ、オレ、将来バン○シーみたいになるので」

 勝彦の言葉を聞いて、ヒクッヒクッと頬を抑えた怒りで引きらせる、カミキリムシベータ種の虫人の女性教諭。

「そう……あなただったの……たま─に学校の壁に、影絵みたいな変なラクガキ描いていたのは」


 担任教諭のカミキリムシの触角が生えている頭の左右に、カミキリムシの複眼が現れ。

 眉間の上あたりに、カミキリムシの大アゴが現れる。

 担任の女性教諭が、怒っている時に現れる特徴だった。

 女性教諭は、三者対談室に常備されている。ハリセンで勝彦の頭を引っ叩く。

 バチィィィィッ!

「いてぇ、なにすんだよ暴力教師!」


「うるさい! なにがバン○シーよ、世間に認められなければ自己満足の単なる迷惑なラクガキよ、職員会議で防犯カメラを設置するかどうかの議論がされているのに……まさか、ラクガキの犯人が、うちのクラスの生徒だったなんて……虫喰くんは、将来どうするつもりなの?」


 鼻をほじくりながら答える勝彦。

「んーっ、特に何も考えていないけれど、イベント的に死んで異世界に転生でもできたら、いいかなぁと」

 女性教諭の二発目のハリセンが、勝彦の頭に炸裂する。

 バチィィィィッ!

「親の前で、死んで転生なんて言うな! もう少し真面目に自分の将来のコトを考えなさい……本当にあなたは、将来どうなりたいの?」

「んーっ、自堕落な無職生活で一生終わるとか。中二は自由フリーダム! 虫喰 勝彦が無職人生に突入するのは、中学卒業後すぐ」

「あなたねぇ……はぁ、怒る気力も失せた」

 呆れ返る女性教諭。


 ハンカチで涙を拭いながら、頭部をイナゴ頭に部分変身させるベータ種虫人の母親。

 勝彦の母親は、テーブルに両手をついて、コメツキバッタのように女性教諭に頭を下げる。

「すみません、すみません、アホな息子で、すみません」

 耳の穴をほじくりながら、他人事の勝彦。

「母さん、こんな暴力教師に頭を下げるコトないよ」

 今度は、母親がハリセンをつかんで息子の頭を叩く。

 バチィィィィッ! 

「誰のせいで、イナゴ頭にまでなって、謝っていると思っているの!」


 カミキリムシの頭に部分変身した、女性教諭が勝彦の母親をなだめる。

「まぁまぁ、お母さん……こちらの世界の高校はムリでも、メタバースな虫異世界の高校のマンガ専科なら……なんとか、マンガ修行の受験冒険しないといけませんが」

 勝彦は、自分の触角を撫でながら、やる気がなさそうな返答をする。

「メタバースな虫異世界って、等身大サイズのまんまマダラカマドウマの、じっちゃんがいる。あの世界?

小学校の夏休みには、よく遊びに行ったけれど……あの虫異世界って、どうやって誕生したんだっけ?」

 カミキリムシ頭の女性教諭は、呆れたようにカバーがスケルトンで透けて見えるパソコンを起動させる。

「授業で習ったでしょう」

「聞いてなかった……覚えていない」

「まったく、ほらっ、もう一度よく読んで勉強しなさい」

 勝彦の方に向けた、カバーの表側にメタバースな虫異世界の成り立ちが、文章となって表示された。

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