お互い地元民ですものね

 アラサー女子カレンがスーパー銭湯で再会したのは、地元中学のクラスメイトだった藤原セイジだった。


「へえ、弁護士事務所勤めの税理士さん! 税理士事務所じゃないのね」

「クライアントは地元の会社法人が多いからね。将来的に税理士事務所を併設するための布石として雇われた感じ」

「へえ〜全然わかんなーい」


 カレンにわかるのは、彼が何やら期待の出世株ということぐらいだ。


「お前、そういうとこ変わってないなあ」


 当の本人は気分を害したふうもなく笑っている。

 とりあえずカレンはメロンソーダ、セイジはウーロン茶で乾杯した。




 この後、互いに予定も特になかったので、食事しながらの近況報告だ。


 カレンはレディース向けの野菜多めの和御膳を。

 セイジは天ざる蕎麦を大盛りで。


「副業疑惑で上司からパワハラ? それで胃を痛めて通院って……ヤな感じだな」

「まったくだわ。まあでも、そのお陰で平日の真っ昼間から優雅にスーパー銭湯なわけよ」

「優雅って。まあ、優雅だよな」


 土日祝日だと小さな子供連れの利用客も多いから、こんなゆっくりのんびりはできない。


「スーパー銭湯、ここは初めて来たけどいいわねー。ここ、近くにゲームセンターもあるから客質悪いかもって気にしてたけど、そんなこともなかったし」

「そりゃ、入館料をわざわざ払って来る客だからなあ。そういう意味では穴場なわけだ」


 聞いてみると、セイジはカレンと同じでまだ地元の実家住まいとのこと。


「青山は引越したんだろ?」

「あ、知ってたの? うちはあたしが就職するのに合わせて両親が田舎にUターンよ。駅から離れたアパートで一人暮らし」


 最寄駅から徒歩20分、バスなら8分だ。

 遠いけれど、徒歩圏内にコンビニもスーパー、ドラッグストア、百均、病院、銀行など生活に必要なものがすべて揃っていて便利だった。


 しかもギリギリ都内で、家賃は管理費や共益費込みで5万ポッキリ。

 既に社会人で仕送りのないカレンにはありがたいお値段だった。


「えっ。俺らが通ってた中学近くの交差点の裏じゃないか、そこ!」

「そうよ?」

「灯台下暗しか……」


 互いに地元民、家同士は10分と離れていない。




 あれこれ話したが、カレンのトラブルについて弁護士事務所勤めらしい助言をセイジから頂戴した。


「副業ってさ、明確な規定があるわけじゃないんだ。もし次に同じこと言われたら、口頭でなく書面で会社側から貰えますかって頼んでみたらいい」

「! それいいね!」


 そもそも、会社の総務が問題ないと言っているカレンの趣味を、難癖つけてくる上司のほうが異常なのだ。


「話を聞いた限りだと、その上司には個人情報を渡さないほうがいいと思う。聞いてるだけでイヤな感じするしな」

「まったくだわ……」


 とりあえずセイジ案だ。


 とはいえ、カレンの所属する庶務課の部長から、件の問題の飴田課長に注意はされているはず。

 明日からはまた平穏無事な会社員生活に戻っているはずだった。


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