パワハラ、始まる

「……マジでパワハラ、きた……」


 まさかのまさか、きた。


 何と、あれから件の上司飴田からは延々とパワハラを受けることになってしまったのだ。


 部署や社内で顔を合わせるたび「副業禁止、詐欺をしているようなものだ、何をしているのか自分に報告しろ」と詰め寄られる。


 下手をすると、一日何回も何回も。


 カレンの勤め先は東京、東銀座に本社のある老舗菓子店。

 部署は庶務課。この会社で庶務課は社内の雑務を一手に引き受ける雑用係だ。

 他部署に出向いて事務作業やパソコンへの打ち込み作業を行うことも多いのだが、上司に目をつけられてから何だかんだ理由を付けて庶務課に留められている。


 それで、嫌味や意地悪、脅しのようなことを言われ続けるのだ。


 だが、あまりにも度を超えていて、社内で目撃した他部署の社員からも上司飴田の態度に苦情が出た。


「これで大人しくなるかクソ上司!?」


 期待したが、甘かった。


 それで更に「お前が報告して来ないから!」と更に常軌を逸した態度を取られることになった。




「ほんと、何なのあの上司……どんだけあたおかなのよ……」

「あはは、そういうこと言わない。またどこで誰が聞いてるかわからないからね」

「はあい」


 やんわりと出来の良い同期たちに嗜められ、宥められた。

 こうして休憩時間に社内のカフェスペースに来れる僅かな時間だけが救いだ。


 だが、このほんの数日でもうカレンのストレスは危険区域だ。

 日中、午後になると偏頭痛がしてくるようになった。


「飲み行く? 個室のあるお店、取っておくよ」

「行く! やはり持つべき者は優しき同僚!」

「まあワリカンだけどね〜」




 終業後、他部署の同期たちと飲み会に繰り出した。

 お洒落なイタリアンバルだ。

 お通し代わりにオリーブが出てくる辺りに都心みを感じる。


「乾杯! ……えっと、何に?」

「今日はあたしの愚痴聞き会ですよーかんぱーい!」


 そう、カレンのクソ上司パワハラの相談会なのだ。


「副業とかそんなんじゃ全然ないの。仕事帰りに区民会館の教室で習ったアクセサリー作りに毛の生えた程度で。完成品だって区民会館の学童や子育て支援コミュニティのママさんたちにお分けしたりで……」


 出品アプリへの登録と出品販売は、カレンが通う区民会館の、ハンドメイド作品サークル講師からの勧めだった。


 サークルは会社のある東京の東銀座から徒歩圏の区民会館での、地元民による小さなサークルだ。

 ブランド街銀座から徒歩十数分、そんな場所にある区民会館の地元サークル。超穴場である。


 まだ若手で優しいイケメン先生の主催するサークルだったが、地価の高い地域という地域特性なのか参加者は品の良い高齢者が多い。

 講師は若かったがそれ以外の出会いがない。文句があるとすればそこくらい。


 そんなハンドメイド作品サークルで、毎週カレンは趣味のアクセサリー作りに勤しんでいた。




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