第2話 特訓

 カリーナと出会い三ヶ月が経った──


「ルイス様、次は何をすればいいでしょうか?」

 カリーナは俺の予想通り天賦てんぷの才の持ち主だった。

 戦闘、礼儀作法どちらにおいても、たった一週間で自分の物にし、戦闘においてはまだまだ未熟だが、礼儀作法においてはどこに行っても困らないくらいにはなっていた。

「そうだな、目隠しをして俺の魔法を避けろ」

 俺はカリーナを立派な手駒にするために日々特訓していた。

 特訓するときには飴と鞭を使い分けているため特に問題はない。

 え? ちゃんと使い分けられているかだって?

 もちろんだとも! 

 剣術の練習が終わったら、すぐ筋トレ。体術の練習が終わったら、すぐ筋トレ。休ませることなくすぐ筋トレ。

 この三つを繰り返しているから問題ない。

 えっ? 休ませたらどうだって? 

 否! 断じて否である! 甘すぎる、チョコレートくらい甘過ぎる! まだ飴と鞭が全然足りていない! 

 例えるならば、飴は筋トレ、鞭はトレーニングだ! 

 月月火水木金金、大日本帝国には休みなど存在しないっ! 

 おっと、ここはそもそも異世界だから違うか。

 いや、違わない! 根性があれば何でもできる!! 筋トレは全てを解決すると俺は考えている。

「そんなんでへこたれるな。それでも俺の専属の騎士か? こんなんで折れる奴は俺のもとには必要ないぞ」

 俺は、【リナ】に向けて呆れながら告げる。

 リナとは俺がカリーナにつけた愛称である。

「も、ももも、申し訳ございません! ルイス様! このカリーナをどうぞ如何様にもして構いません! ですから、ですから! どうか私を捨てないで下さい!」

 リナは必死に頭を地につけ、土下座し懇願する。

 いい気味だ。そうだよ、駒は駒らしく俺に従っていれば良いんだよ。

「なら、俺を乗せて腕立てだ! それをもって罰としよう。いいな?」

「はっ、このカリーナ。ルイス様の寛大なるお心に感謝申し上げます!」

 カリーナは膝をつき俺にこうべを垂れる。

「よし、なら早速始めるぞ」

「はっ!」

 その後も俺とリナはトレーニングを続けた……主にリナが。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆


 私、カリーナは幸せである。

 なんてたって、ルイス様に救けて頂いて(調教じみた)以来、私はルイス様専属の騎士になろうと心に決め忠誠を誓った。

 出会って間もない頃の私はルイス様に牙を向けて、“胡散臭い野郎”だと思い、殺そうとした。

 しかし、私はルイス様に呆気なく敗北した挙げ句、トラウマ級の快感を植え付けられしまいました。

 はぁ、またあの嘔吐プレイをさせて貰えるでしょうか……。あれから、クセになってしまい体が疼いてしまうのです〜。

 ……と失礼。話が逸れてしまいましたね。

 相変わらずルイス様のメニューはとても厳しいものです。

 覚悟はしていましたが、私の想像を遥かに超えるハードメニューで今もまさに死にかけている。

「ハアッ、ハアッ」

「そんなんでへこたれるな! それでも俺の専属の 騎士か? こんなんで折れる奴は必要ないぞ」

 そう言われた瞬間、私は顔面を真青にした。

「も、ももも、申し訳ございません! ルイス様!  このカリーナをどうぞ如何様にもして構いません! ですから、私を捨てないで下さい!」

 私にとって助けて下さられたルイス様に嫌われて、捨てられてしまうことが──他の何よりも恐怖だった。

 何故なら、国同士の戦いで敗戦し、スラム民に落とされ、王女として、騎士としての誇りを全て失い絶望していた私のことを救って下さったのだ。

 今は、そんな私を救ってくれた(嘔吐プレイで)ルイス様に仕えて、絶対なる忠誠を捧げる。

 これが今の私に唯一残された生きる意味であり、価値であった。

 しかし、ここでルイス様に愛想を尽かされ捨てられてしまえば、私は生きる意味をなくし、すぐにでも自決をするだろう。それだけ私はルイス様にものすごく心酔している。

 ルイス様のご命令とあらば、盗み、裏工作や殺し何でもする。

 もちろん、死ねと言われればすぐにでも剣を抜き、自分の首を斬り落とすつもりだ。

 そして、私に苦痛があることがあるとすれば、ルイス様に捨てられる。これだけである。

 それ以外の苦痛なんてそれに比べたらどうということはない。

 もし、ルイス様に殺されるというのであれば、それはもはや、ご褒美以外に何と言えるだろうか。

 否、ご褒美そのものである! 私はそれを従者として、甘んじて受け入れよう。

「なら、俺を乗せて腕立てだ! それを以て罰としよう。いいな?」

「はっ、このカリーナ。ルイス様の寛大なるお心に感謝申し上げます!」

 私は自分を救ってくれたルイス様に跪き、さらなる忠誠を誓うのだった。



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