とても善良で穏やかな、勧善懲悪と愛の物語。

生家では虐げられ、伯爵令嬢としての立場に見合う教育を受けることなく下働き同然の生活。
治癒の力に目覚めたことで、王家に聖女(及び王太子の婚約者)として取り立てられ、従軍。
力を振るい過ぎたために死に至る病を得、さらに王太子は“真実の愛”によって義妹と婚約することとなったため、厄介払いとして王家から出される運びとなったお陰で、奴隷を買う権利を与えられたり今後住まう屋敷の治外法権が認められたりといった融通が効くこととなったものの、余命は一年。
……という物語の前提となる設定を書き出すだけで、いかにも悲壮美の主人公といった感じなのですが、主人公・ラフィーア嬢は悲愴感を見せません。
善良で慈愛の心を持つラフィーア嬢は、役割を果たすためには上手にブラフをかけることもできる賢明な人物です。
早過ぎるとはいえ晩年を迎えている者の達観なのか、こういった泰然たる人物であるから聖女の力を神から与えられることとなったのか。
とにかく、主人公のラフィーア嬢が、感情的な甘さや攻撃性に駆られて心や言動を乱す小人物ではないところを、魅力的だと感じました。
穏やかな読後感は、完成した伝承のようでもあります。