ラブコメみたいなツンデレ美少女幼馴染が少しずつ素直になったら。

惚丸テサラ【旧ぽてさらくん。】

第1話 ツンデレ幼馴染との遭遇





「ごめんね正也くん。実はこれドッキリっていうか……前のあれ、嘘コクだったんだ」

「………………」



 ———嘘をつく人間は馬に蹴られて死ねば良いと思う。それが俺、今年で高校二年生になる本堂正也ほんどうまさやの嘘偽らざる本音だった。


 このことをクラスメイトや友達に言えば「大袈裟すぎ」やら「真面目だねぇ」やら冗談に思われて一蹴されてしまうが、俺は至って大真面目。友人や大切な人同士でふざけるのならばまぁ百歩譲って許せるが、大小関係なく相手を傷付ける嘘をつく奴がとにかく俺は大嫌いだった。


 漫画やラノベでそういった場面を目撃する度に何度主人公やヒロインを殴りつけたくなったことか。照れ隠しが代名詞な「ア、アンタなんて好きでもなんでもないんだから!!」なんて言い放つツンデレヒロインなんて特にである。


 さて、それはともかくデート後にこうして目の前で謝罪しているクラスメイトのめす畜生はどうしてくれようか。



「一応確認だけど高槻たかつきさん、それは嘘じゃないんだよね?」

「う、うん。ほら、正也くんって結構律儀で真面目だよね? す……あんまり目立たない男子に告白して一ヶ月間付き合うって罰ゲームで、友達の中であたしが選ばれたってゆーか……」

「そっか」



 なんとも悪趣味というか、嘘コクということはきっと俺のことは元から好きではなかったのだろう。クラスで1番可愛いギャル美少女とはいえ、わざわざ学校の休日を犠牲にして俺とのデートに消費するなんて、よっぽどバカである。今日だって高いお金払って映画を見に行ったり、ランチを食べたり、こうして遊園地に遊びに来たり。嘘コクで付き合ったにしては費用対効果に見合ってないのではなかろうか?


 まぁ今となってはもうどうでもいいが。



「で、でもさっ。私、元々これチャンスだと思っててっ! じ、実はね、私前から正也くんのこと———!」

「あ、もういいよ。もう満足したから別れようって話だよね?」

「…………え」

「短い間だけどありがとうございました。———最低だね、高槻さん」

「ち、ちょっ……っ!」



 俺は背後から遠のく高槻蘭たかつきらんの声を無視して遊園地を後にする。


 彼女のエスコートとしては遊園地に置き去りにするという最悪の行為なのだろうが、どうせ嘘コクで付き合った偽物の関係だったのだ。だいぶ良い雰囲気だったし、彼女としてデートを重ねるうちに明るくて気遣いの出来る良い可愛い女の子だと思ってきていたのだが、こうなってしまっては仕方がない。


 今回は美少女の皮を被った腹黒女に弄ばれた授業料だと思って切り替えよう。







 デートで結構遠出したので電車に乗って帰路に着く。歩き慣れた夕暮れに染まる茜色の道を歩いていると、もうすぐ自宅に到着する安堵からか溜息が出た。今はとにかくゆっくり休みたい。



「はぁ…………」

「うわっ、ちょっとアンタ、なに辛気臭い顔してんのよ?」

「げ、華恋かれん……」



 足取りが鉛のように重い俺に前方から話し掛けてきたのは、幼馴染である一人の少女。


 彼女の名前は藤宮華恋ふじみやかれん。艶やかな黒髪をツインテールに結い、端正な顔をしたスレンダーな体型をしている同級生の女の子である。性格はその言葉の端から読み取れるようにとても高飛車で負けず嫌いで、その切れ長の瞳はまるで猫のようだと感じたことは既に両手では数えきれない程だ。そして女の子らしい柔らかい華奢な体躯をしているが実は華恋の実家は空手道場。毎日父親からしごかれたおかげで高校一年生で黒帯の有段資格を得た、空手少女の一面も持つ。


 どうやら高校でもよく男子、女子問わずから告白もされるらしい。中には彼女に失恋して恨みを積もらせた多数の男子が彼女を襲い掛かるも瞬く間に返り討ちにし、「アタシと付き合いたかったら一対一で勝つことね!」と言い放ったとしても有名な美少女である。その綺麗な容姿と誰も寄せ付けない強さを見せつけたことから、華恋は高校で『戦女神アテナ』様と呼ばれている。


 ———そして、俺は久しぶりに話すそんな彼女が苦手だった。



「なんだよ、高校に入学した時に話し掛けるなって言っておいて自分からは話し掛けるのかよ。相変わらず自分勝手だな、お前は」

「ふん、折角良い気分で本屋から帰ってきたのに、前から死んだナマズみたいな草臥くたびれた顔したアンタがいるのが悪いんでしょ? ほーんと最悪」

「なら話し掛けなければ良かったろ。じゃあな」

「…….ま、待ちなさいよっ」



 淡々と別れを告げて華恋の横を通り過ぎようとした瞬間、急に俺の手を握って呼び止める。女の子らしい柔らかい小さな手に思わずどきりとしてしまう俺だったが、それを表情にはおくびにも出さずにじとっとした視線を彼女に向ける。


 華恋は何か言いたげな表情を浮かべていた。相変わらずの綺麗な顔に鈴の音のような凛とした声だったが、その瞳の奥に様々な感情が揺らいているように見えるのは気の所為か。まるで俺に聞きたい事があるが聞けない、どこか逡巡しているようにも見えた。


 やがて十秒にも満たない間そうしていただろうか。良い加減痺れを切らした俺は瞳を細めながら言葉を言いあぐねている華恋に声を掛けた。



「何? 言いたいことがあるならさっさと言えよ」

「うっ…………」

「今日は色々疲れたんだ。家に帰ってゆっくりしたいんだけど」

「———べ、別にっ!!」



 しばらく俯いていた華恋だったが、勢いよく顔を上げるとキッと俺を睨みつける。掴んでいた俺の手を離すと、彼女は人差し指を俺の方に突き付けながら言葉を続けた。



「別にアンタのことなんて好きでもなんでもないけれど! 愚痴の一つくらい聞いてあげないこともないわ!!」

「あ?」

「だーかーらっ、この華恋様がアンタのち〜〜っぽけな悩み事を聞いてあげるって言ってんのっ!! その、なんか、あったんでしょ? それとも何、私には言えないようなコトなのっ?」

「いや、別にそういう訳じゃないが……」

「なら良いじゃない。じゃ、じゃあ早速アンタの部屋に行くわよっ!」

「待てよ」



 とんとん拍子に進む話に少しだけ唖然としてしまう俺だったが、このまま華恋に押し切られる訳にはいかない。


 俺は、幼馴染である藤宮華恋ふじみやかれんのこういった強引さや自分勝手が苦手だった。昔は『まさちゃん大好き!』とか『将来大人になったら結婚するのー!』とか言ってだいぶ可愛げがあったのだが、現在ではまるで幻だったかのように見る影も無い。


 確か今のようなツンツンした性格になってしまったのは中学校に入学してすぐの頃だったか。始めはすぐに治るだろうと思って軽く考えていたのだが、ある日中学の教室で華恋がよく一緒に行動していた女子らと彼女が会話をしている場面に遭遇してしまったのだ。


 きっと会話自体は女子がよく話題にしがちな恋愛話だったと思う。確か一緒にいた女子が幼馴染である俺との関係を華恋に追求してきたんだったか。俺が嘘に嫌悪感を持つようになったのはこの時に言い放った華恋の言葉がきっかけだった。



「———俺のこと、大っ嫌いなんだろ?」

「……そ、それはっ」

「一緒に登下校したり、出掛けたり、遊んだり……俺と一緒にいるのは仕方なくで、実は苦痛だったって言ってたじゃないか」

「…………っ」

「『側にいると落ち着く』なんて俺に嘘をついてた癖に。ふん、いったいどういう風の吹き回しだ?」



 当時の様子を思い出して、俺は吐き捨てるように言葉を紡ぐ。


 変わらないものはないとはいえ、これからも幼馴染として変わらず華恋と仲良くしていけると思っていた。それどころか、俺は幼馴染以上の関係を望んでいた。


 ———そう、元々俺はこう見えて幼少期から彼女に好意を抱いていたのだ。


 こう言っては大変癪だが、華恋は控えめにいっても美少女の類に入る。好意を抱いたきっかけは特にはないが、一緒に過ごす時間が長ければ長いほど、彼女に惹かれていった。まぁ、今となっては俺の頭の中がら今すぐ消し去りたい過去、つまり黒歴史なのだが。


 実は元々俺のことが嫌いだったのか、それとも多感な時期故の心境の変化だったのかはわからない。だが嫌いだったのならば『なんだか、正也の側にいると落ち着くし安心するわね』なんて嘘で塗り潰された言葉を、俺が好きになった笑みで言って欲しくなかった。盗み聞きするような形で、彼女の本音を知りたくなかった。


 それ以来、俺は嘘をつく人間に対し酷い嫌悪感を抱くようになってしまった。もしかしたら俺にも至らないところがあったのかもしれないが、何もかも全て幼馴染の所為にしたいと思ってしまう程。


 だから、俺は幼馴染である華恋が苦手だ。



「だ、だって、それはあの子らが正也のこと気になりだしたから……っ」

「? はっきり喋れよ」

「う、うるさいうるさいうるさいっ。アンタは黙って私の言う通りにすれば良いのよっ!!」

「めんどくさ」



 顔を真っ赤にしてもじもじしたかと思えば、ご自慢のツインテールを振り乱して地団駄を踏む華恋。こちらを睨みつけるその潤んだ瞳はまるで威嚇する猫のようだ。因みに漫画やラノベのようなツンデレヒロインを体現したかのような口調や仕草だが、ツンデレな女の子が漫画などに登場する度に殴りつけたくなってしまったのは華恋の所為だと言っても過言ではない。


 俺は盛大に溜息を吐くも、心の中ではとある事を考えていた。



(……なんで、こんな風になってしまったんだろうな)



 もし華恋がツンツンした性格でなかったら。そう考えたことは一度ではない。時が経ちこうしてお互い高校二年生になった以上、もはやそんな未来が訪れる可能性はゼロに近いのは勿論理解している。今更考えても仕方ない事だと思うのだが、もっと別の……仲良く過ごす未来もあったのではという考えが頭をよぎってしまうのは俺のどうしようもない未練か。


 いくら苦手意識があるとはいえ華恋のことが嫌いになれないのは、そういった一縷の望みに縋ってしまっているからなのだろう。


 そんな甘えたことを考えていたからだろうか。次の瞬間、俺が華恋に言葉を紡いだのは無意識だった。



「…………フラれたんだよ」

「へっ?」

「だから、彼女と今日一日デートして別れてきたんだよ」



 別にやましいことはないものの、謎の気まずさから俺は目の前の華恋からそっと視線を外す。


 実のところあの雌畜生に嘘コクされて付き合ったので彼女と言うべきか定かではないのだが、内容としては間違っていない筈だ。俺も見る目がなかったというか、たった数回話した程度のギャル美少女に告白されてほいほい付き合ったのは黒歴史確定である。



(ん…………?)



 暫く俺は華恋から目を逸らしていたが、いつまで経っても反応がない。てっきり華恋ならば声に出して相手を小馬鹿にしたり呆れた感情を見せると思っていたのだが、そういったリアクションを全く見せないのは珍しい。不思議に思った俺はちらりと彼女の方へ視線を向けると、衝撃的な表情を浮かべていた。



「—————————」

「お、おい、華恋……? どうして、お前が……」



 なんと、華恋は今まで俺が見た事ないような絶望した表情で一筋の涙を流していた。戸惑いながらも言葉を続けることが出来ない俺は、初めて見る彼女の表情に思わずずきりと心が痛む。


 すると、目の前の華恋はその綺麗な唇をそっと開いた。



「ねぇ正也」

「お、おう」

「いつから、付き合ってたの……?」

「えっと、ちょうど一ヶ月前辺り……かな」

「そっ、か。知らなかった……。呼び止めてごめんなさい。……じゃあね」

「あ、あぁ……」



 普段のツンツンとした性格は鳴りを潜め、彼女らしからぬ消え入るような弱々しい声で別れを告げる。とぼとぼと元気のない様子で歩みを進める彼女の背中を、俺は呆然と見つめながらぽつりと言葉を漏らしたのだった。



「な、なんだったんだ……?」



 ———このとき、俺はまだ気付かない。いつもツンツンしてて可愛げや愛想の一つもない幼馴染が、この日を境に少しずつ素直になっていくことを。俺はまだ、知らない。


 この物語は、過去にすれ違ってしまった幼馴染との距離を少しずつ縮めていく青春ラブコメである。



















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以前お伝えしていた新作ラブコメです。よろしくお願いします。


5/14(日)…設定を高校三年生→高校二年生に変更します。


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