42話 リースベルト王都へ
「ユーナちゃん」
王都が見えてきた頃、サリーは青い顔でユーナの袖を掴んだ。
「どうしたの?」
ユーナも小声で訊き返す。
「王都、どう見える?」
「?……特に出てきた時と変わってないと思う、けど」
3人で発った時、ユーナが1人で来た時と変わりは無く見える。そう思いながら返答し、水晶眼のことに思い立った。
「もしかして、変わって見える?」
「うん。王都全体が煙に包まれてるというか……灰色の靄がたっているというか」
そう言われて見直してみるけれど、ユーナの目には以前と変わらぬ王都にしか見えなかった。
「直接的な悪意ではないけれど、良い感情は持ってないって感じなのかな。分からないけど警戒するに越したことはないと思う」
「分かった。気を抜かないようにするね」
ちなみにここまでの道中は特に問題はなかった。
歩きとはいえペースが速かったから少し疲れが出てきているといった程度。
鍛えているユーナはもちろん平気だったが、並の体力しかないであろうサリーも水晶眼の効果のひとつ、生命力強化の影響もありペースを保っていた。
このまま行けば予測通り、日が沈む前には到着しそうだ。
ーーーーーーーーーー
「例の女2人、こちらへ向かっているそうです」
例の城の一室で、大臣は王へと報告していた。
「うむ。ところでセレナータはどうしている」
「報告によりますと、兵士を二手に分け、セレナータ姫は勇者と共にオブシディアンに残ったようです。追加の兵士を送りますか?」
「必要ないだろう。要請があれば送ってやるといい。あやつも求められた役割程度分かっておるだろうからな。
それよりも、だ」
王は言葉を切り、ニヤリと笑った。
「準備は出来ているだろうな?」
その言葉に大臣も悪い笑みを返す。
「もちろんでございます。寝室の方でも、地下の方でも、今すぐにでも使用出来るよう整えております」
「地下の準備も出来ているのか。ならば多少反抗されても楽しめるであろうな」
王は声を出して笑った。
「むしろそちらの方が本命でしょう」
「間違いあるまい」
その一室では、男たちの黒い笑い声が響いていた。
ーーーーーーーーーー
「少々ここでお待ちください」
王都へ着くと、護衛は門へと向かった。
門番へ話を通すのであろう。
「どう?」
護衛が離れると、ユーナはサリーに声をかけた。
「見え方は変わらない。けど、あんまり気分がいいものじゃないね、ちょっと憂鬱かも」
見え始めた時は青ざめていた表情も、少しは落ち着きを取り戻していた。
「調子が悪いなら、まだ引き返せると思うけど」
ユーナはちらりと門の方を伺う。
護衛も門番もこちらを気にしていない。
「やっぱり気が進まない?」
「正直に言うと、そう。危険だと分かっている所に乗り込むのはどうしても、ね」
ユーナ1人であれば、罠であってもわざとかかった振りをして目的を探るのは簡単だ。けれど、サリーを危険な目に会わせたくはなかった。
「でも、今から逃げられるの?」
いくら今こちらを見ていないとはいえ、振り向けば見える位置にいるのだ。その心配はもっともだった。
それでもユーナは、
「森に入れば撒く自信はあるよ」
そう返す。
隠密行動やそれに類する事はユナの得意とする事である。もし1人であれば、例え目の前にゼロ距離でいたとしても余裕で脱出することが出来る。
仮にサリーを連れてでも、視界を遮るものが多い森であれば難易度はそう高くない。
あの程度の護衛、もとい兵士や門番くらいならば、ものの数秒で撒けるだろう。
「ユーナちゃんの心配は分かるけど、私はこの悪意?、その原因を知りたいの。訳も分からず悪意を向けられる覚えはないよ。
勝手に連れて来られて勝手に嫌われるのは筋違いだもの」
サリーの意思は固かった。
「危険なところに付き合ってって強制したいとは思ってないけれど、一緒に行ってくれると心強いな」
サリーにそう言われて、断れるユーナではなかった。
「分かった。行こう」
サリーにそう答え、門番との話を終えた護衛がこちらへ戻ってくるのを認識しながら、改めて気を引き締めた。
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