28話 ユナと雫
「ということでこれが戦利品」
ユナは雫に持ち出してきたものを見せた。
「え、明らかにマント以外のものもあるようだけれど」
「うん、マント見つけたら近くにいろいろあったからついでに持って来ちゃった」
「ついでにって、そんな簡単に言うけど一国の城に潜入するなんて……。まあユナだものね。本職はこっちみたいなものだって前に言っていたものね」
「そういうことだし、細かいことは気にしないで。今回は結果が全て」
久しぶりに使った魔法もあったし、カンが鈍らないようにたまには本職もやっておきたい。
……これを日本でやろうと思うと、最近はカメラとか電子機器が多いから別の技術が必要になって面倒なところがある。人の目だけなら簡単に誤魔化せるのに。
「そうね、これで当面は落ち着くと思っていいのよね。それはリョウに渡すの?」
「そのつもり。でも直接渡すのはおかしいし、枕元にでも置いておこうかな。季節外れのクリスマスみたいに」
「こっちにはクリスマスの文化ないからあんまりピンと来ないけれど……赤い服きた髭の老人が不法侵入して物品を置いて去っていくイベントだったかしら」
そういえば雫は向こうの記憶が戻っていないんだっけ。面白い偏り方をしている。
「間違ってはいないけど随分偏った知識だね、それ。赤い服のおじいさんはイメージで、実際にプレゼントを置くのは両親とか家族。あと子供はその認識だけど、ある程度の年頃になると別の意味が出てくるかな」
「というと?」
「恋人とかと一緒に過ごす日みたいなところがある」
「そう、なのね」
雫は何か思うところがあるように見えた。
「とりあえずわたしの役目は終わり?」
雫は話を変えるようにそう言った。
「うん、ありがと。助かったよ。この借りは必ず返す。困ったらいつでも呼んで。行けそうなら必ず駆けつけるから」
「期待してる。……ね、まだ時間あるわよね。少し話さない?」
「そうだね、行く前はバタバタしてあまり話せなかった」
予定よりスムーズに済んだから確かにまだ時間に余裕はある。
「そうなのよ。わたしはもっとユナと話したかったのに」
雫はそう言いながらお茶とお菓子を取り出した。がっつり話し込む気満々だった。
「これ、今朝作ってきたの。時間が取れたら一緒に食べようと思って」
「雫の手作り。久しぶりだね」
「ユナが帰ってから暇だったから結構スキル上げたのよ。意識しなくてもランダムに良バフ着くくらいに」
「それはすごいね」
ランダムでもバフが着くような料理なんて滅多にできるものじゃない。よっぽど努力したのか元々適性があったのか。
わからないけれど、雫の作ったものなら警戒の必要もないだろう、とお菓子に手を伸ばす。
……サクサクとした軽い食感なのに濃厚な甘さ、それでいてさっぱりとした後味。ひとくち食べただけなのに全身に広がるような錯覚を味わう事ができた。
そしてランダムバフは……
「耐火、かな」
「わたしは防御アップね。今はバフなんか必要ないんだし気にしなくていいんじゃないかしら」
「それもそうか。ねえこれ美味しい」
バフを抜きにして味の感想を言う。そしてついでにお茶を飲む。
こちらの世界で好まれて飲まれているのは紅茶の類いだけれど、雫のいれてくれたものは緑茶だった。やはり日本人としてはほっとする味だ。
もしかしたら前に紅茶はあまり好まないって話をしたのを覚えていてくれたのかもしれない。
お茶とお菓子を楽しみながら雑談に勤しんでいるといつの間にか日も傾き始めていて。
名残惜しいけれど、そろそろ戻らないといけない時間になってきた。
「またなにかわたしに出来ることがあったらなんでも言ってね」
「うん、頼りにしてる」
実際勇者の発言力は未だに健在だから一声かければ動いてくれる人はたくさんいる。僕にとってのルーみたいに。……多分昔の仲間にはルーが連絡取ってくれてて僕がこっちに来ていることは伝わっているだろうし、こちらからアプローチしておくべきかもしてない。
そこまで言った時に少し引っかかってることを思い出した。
「そういえば、今魔王ってどうなってる?一応、今回も魔王討伐ってことで呼ばれたんだけど、あれからまた沸いた?」
「えっ、そうなの?少なくともセレスティスでは聞かないわね」
「リースベルトの方だけなのかな。前回の時はほぼ干渉しなかったからよく分からないんだよね」
「近付きにくい所あるものね。……わたしのほうでも調べてみるわ。なにか分かったら連絡する」
「助かる」
ユナと雫はそう言って別れた。
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