第6話

 数日後、加奈子は工藤さんから電話がありこの日にセンターに来てねと言われたものの空白の十年はどう埋めればいいのだろうかと悩んでいた。


 ただでさえ短期間で異業種の転職を繰り返して大したスキルを身につけたわけでも無いし大きな役職に就いたわけでも無い……資格も普通自動車免許のみだ。


 子供が小さいうちに在宅でいろんな資格をとるママもいたが自分にはなかなか合うものも続くものがなかったが一つ何か身に付けたかった、と後悔している加奈子。


 もう何度もそう思いながらも書き終えた履歴書を封筒に入れた。



「ママ、お仕事見つかりそう?」

 大我がやってきた。

「どうかなぁー。ママ、仕事に行っても大丈夫?」

 前も話したが大我は頷く。しかし……。


「いやだよぅ、ママ仕事行かないでー」

 やはりと幼稚園児の相馬はふくれっつら。


 幼稚園は夕方の五時までは格安で預けられるがそれ以降の時間になると就労証明書と共に複数の条件があり、近くに両親の親や親族がいない、規定以上の時間働いている、週に三日働いているが条件で規定時間も週の労働時間も少なめのためこのままでは五時以降の保育は無理だ。

 だが加奈子はそれ以上働かないと無理だからとそれ以上働けないか交渉次第ではできると思っていたが加奈子と謙太の両親は隣町だが二十分で幼稚園にたどり着くことができる。


 第一関門クリアならず、と肩を落とした。

「でもお預かりでお友達もたくさんいるじゃ無い、みんなと遊んでてね」

「りらちゃんも太郎くんもみんな保育園行っちゃったよ」

 はぁ、そういえば……幼稚園の預かりの条件に脱落してキャリアを伸ばしたいママ友たちは保育園に転園した人もいることを知っていたが、保育園に預けるほどの金はない……。今から転園したら制服や用品も総入れ替えでさらにお金がかかる。


「でも龍太くんとかりんちゃんはお預かりだから大丈夫!」

 と相馬は変なポーズ取り、機嫌も直ってほっとした加奈子。

 大我に関しては小学校の帰り道にあるセンターに寄って貰えばオッケーと試算した。


「ママ、頑張ってね」

 大我は長男らしくすごくしっかりしている。あんな小さかった子が、と加奈子は胸が熱くなる。

「ありがとう! がんばるね!」

 とそれを他所にソファーで横になってだらしなく寝ている謙太。


 加奈子はタオルケットをかける気持ちは一切なかった。こんなだらしない男、なんで一緒にいるのだろうかと。


 ふとうどん屋にいたあの青年を思い出す。謙太と正反対の長身でイケメン。

 謙太は背が低いが昔はもう少しまともだった、と思いつつも外見と同時に中身まで朽ち果てるのか、もともとこんな人間だったのか。


 加奈子はあの青年が気になって仕方がない。結婚して子供ができてから推し活はお金がかかる、そう思ったと同時期に推しが結婚したため推し活も卒業できた。

 息子2人に恵まれ推しはもうできないものだと思っていたが……。


「あの人が推し?」

 ふと思うがもうあの青年とは偶然の出会い、会うことなんてもうないだろうと諦めた。

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