第4話

 謙太は出勤し、子供たちもそれぞれ小学校に幼稚園に行き部屋の中は一気に静かになり家事をいつものようにこなしていく加奈子。もう同じようなルーティーンで慣れっこである。


 しかし今日はいつも以上に早く進める。なぜなら友人とのランチがあるからだ、と言っても友達はそこまで多い方ではない加奈子だが高校からの友人の瑠美とは細々と付き合いは続けている。

 他の友人たちは結婚して子供ができたり仕事をしていたりでスケジュールがなかなか都合つけられなくなったのもある。仕事はしているが結婚をしていない留美とは連絡が取れやすい、唯一加奈子の過去から近況を知っている一人である。


 洗濯も終えて晩御飯も下ごしらえと焼き魚で済むものにして掃除も終えて身支度もして出かけた。


 久しぶりの友達とのランチ。いつも子供連れでお座敷で個室、そこに友達だけでなく子供たちがたくさんいる。友達と話をしたいのに途中で子供たちが邪魔したり喧嘩をしたりしてランチを終えた後はぐったりと疲れたことも多かった。

 お子様セットを注文したり一つのものを子供と分けたり。


 今日はお座敷でも個室でもない、かといってカフェでもない。

 だが加奈子は選びきれず留美がうどん屋にしようと決めてくれたのだ。

「かけうどんひとつ、あ、小さいので」

 と一番安くてうどんの麺だけ。

 それを見た留美が

「野菜のかき揚げとあとひとつ何か好きなの入れてあげるから」

「いいよ、素うどんがいいの」

「誕生日プレゼントちゃんとあげれてないから。健康は食からよ」

「……はぁい。じゃあとり天」

「まぁまぁバランスよし」

「ありがとう」


 ジムトレーナーの留美。ガッチガチに栄養学をやっているわけでもないのだがせっかくの子供抜きのランチで流石に素うどんだけでは目も当てられないと思ったのだろう。


 席に座った二人。

「こないだの高校の集まりいかなかったのって節約?」

 留美が早速切り出した。先日誘われていたものの加奈子は行かなかった。その理由はいつもの高校のメンバーの集まりだがもうほとんどが子供達も幼稚園と小学校に行ったのにも関わらずに子供を連れて公園で遊ぶということでそこがいやで断った。


 とにかく今は大人と話したい、遊びたい、なのに公園でってなると大人同士で喋ることもできるが子供が怪我しないよう行方不明にならないように見守っていなくてはいけないのだ。


 だなんて説明するのはめんどくさいと留美には言わない加奈子。留美も深堀はしない。

「日曜だったし謙太さんに言うのもね、俺の昼ごはん用意してよぉー冷凍ピラフなんて食べないよって」

「そうそう、それもあるんだよ」

「ふはは、そうだと思った。でも手作りとか色々切り詰めて加奈子もやるよねー」

「今しかないでしょ、自分働かず夫からもらう生活費からコツコツやってきたんだけどね」

「食費高騰でさすがの加奈子も……」

「そう、無理ー私の今までの努力も無駄の泡!」

「そりゃ、素うどんにしたくなるわ。謙太さんはやっぱり生活費……上げるわけないかー」

「ないない。上げても素うどんよ」

「せっかく自立できる資金貯めてたのにね……」

「うん……」



 自立、と言葉まろやかにしているのだが実際のところは「謙太との離婚」である。

 離婚するとお金がかかる、お金がないと離婚ができないと言うのを高校の集まりのメンバーの一人が姑との不仲で夫とも喧嘩して離婚した時に年月とお金を消失したということを二人は知っていたのだ。

 だが加奈子はその話を聞く前から貯金はしていた。結婚後、自分の父から聞いてたのと正反対の性格と義父母の態度だった。上司である加奈子の父には謙太は逆らえないがその代わり加奈子には横柄な態度をとる。


「結婚してからの貯金は夫婦間の財産だから離婚の時にその貯金は半分にしなきゃいけないからねぇ。自分の独身時代の貯金に手を出さないようにプールしておいたけど子供が大きくなって、時代の変化で大打撃……はぅ」

「でも離婚せず謙太さんから渡される生活費から少しずつ貯金してったのもすごいわ」

「生活費以外の光熱費や子供たちの学費や習い事とかはあっちもちだからさ。子供を大学卒業させて仕事につくまでは色々と出してもらわないとね。養育費とかでは賄えないわ」

 養育費のこともメンバーの経験談から聞いたはいた。


「はー、私もそれ加奈子に聞いてから貯金はしっかりしようって思ったわ。結婚するつもりはないけどさ」

「また言うー」

「てかPTAとか回ってきたのに仕事探して大変よね。あー、結婚して子供できたら幸せも束の間めんどくさいことだらけで子供だけでなく結婚も嫌になるわ」

「生きづらいよね」

「ねー」

 と二人はうどんを啜る。


「あ、いい男」

 加奈子はまたか、と留美の男観察センサー察知にやれやれと思いながらも付き合う。

 見た感じ背は180センチ余裕で超えていて黒髪のソース顔、白パーカーにジーンズ。一人で大盛り肉うどんに野菜のかき揚げ、とり天、稲荷を載せていた。


「若いのにはぶりよく、平日休み、一人で来店、大食い……性欲旺盛、公務員、独身、彼女なし……かな」

「加奈子の予想は半分くらい当たるよね」

「……素人だもん」

「そうよね、ちゃんと当たるなら謙太さんみたいなマザコンケチ男……おっと失礼」

 留美は水を飲んだ。正解ではあるが紹介したのは加奈子の父である。

 だが少し加奈子は彼をじっと見る。

「さては、タイプ?」

「……でもどうせ年下よ」

「付き合えば年齢は関係ないよ。まぁそれ以前に加奈子、早く清算しないと不倫になるよ」

「しないし……」


 とか言いつつもそのよく多く食べる姿に惚れ惚れする加奈子であった。

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