第二話

 翌日


「すぴー......ダメだよ慧君......そんなところを触っちゃ......むにゃむにゃ......」

「馬鹿な寝言を言ってないで、さっさと起きなさい」



 部屋に入ってきていたお父さんに布団をはがされたから、びっくりしすぎて変な叫び声がでた。


「マダガスカルアンドマスカルポーネッ!?」

「誰もそんな事言ってないし、なんの繋がりもないじゃん。その二つ」


 すると、朝ごはんの良い匂いが漂ってくる。

 眠かった頭と体が覚醒していく。


「この匂いは......!?バター多めのトーストとスクランブルエッグだな!我が父よ!」

「ご名答!食べたかったら、さっさと歯を磨いて、服を着替え、ダイニングに降りてくるがいい!我が最愛なる娘よ!私は二人分の紅茶を淹れて待っているぞ!」


 一通り喋ったあと、お互いに突っ込んだ。


「何いまの喋り方」

「いろはも人の事言えないぞ?」

「確かにそれはそう」

「じゃあ、テーブルで待ってるからなー。冷める前に早くこいよー」

「はーい」




 10分後




「うわまって、ガチでトーストとスクランブルエッグじゃん!匂いだけでメニューあてられた私凄くない!?」

「今気づいたけど、確かにすごいな!ささ、冷める前に食べるぞ」


 そう言いながら、お父さんは私に紅茶を差し出してくれた。


 *** 

 お父さんと私は大の紅茶好き。

 だから、朝ごはんの時に飲むのは必ず紅茶なんだよねー

 ***


「「いただきまーす!」」


 そう言って、私とお父さんは同時に朝ごはんを口に運ぶ。

 そして、同時にこう言う。


「「美味し......」」

「いやー、自分で言うのもあれだけど、父さんが作った朝ごはんって、どこの高級ホテルの朝ごはんよりも美味しいと思うんだよな」

「自分で言うのはどうかと思うけど......。本当に美味しいもんねー」

「やっぱりいろはもそう思うか!?流石父さんと母さんの娘な事だけあるな!」

「お母さんもお父さんの朝ごはんが好きだったの?」

「そうだぞー?」


 そんな事を言いながら私たちは朝ごはんを食べる。

 そんなこんなで15分後。思いのほかボリューミーだった朝ごはんを二人そろって完食し、今は二人でゲームステーション5のコントローラーを握り、「ブヨブヨデドリス」の対戦モードで遊んでいた。


「ちょっ!そこでその色は無しだろー!」

「お父さん下手くそ―」

「言いやがったなー!?いろはー!」


 そんなこんなで二人で日曜日の朝を謳歌していると、急にインターホンが鳴った。

 ちなみにお父さんは私にゲームでフルボッコにされてふて寝しちゃった。


「あ、私出るね」


 そう言って、私はインターホンが付いている場所まで小走りで移動する。

 その時に、お父さんの横顔が見えたけど、正面より横顔の方が、イケメンだと私は勝手に思っている。玲奈さんがお父さんのどこを好きなのかは、知らないが、同じ横顔が好きだったら嬉しいなと思ったりもする。


「はーい。ん?慧君と玲奈さん!?何で!?」

『あ、今日、お邪魔させて頂く事になっていたのだけど、いろはちゃん聞いていない?』

「え!?そんな事一ミリも聞いてないです!取り敢えず上がって下さい!ちょ、お父さん!?ドユコト!?」

「ふぁッ!もうそんな時間!?あーごめんごめん!伝えるの忘れてた!」




 10分後




「玲奈さんはコーヒーと紅茶どっちがいいですか?」

「そうねぇ。コーヒーを頂いてもいいかしら」

「はーい。ミルクとか入れます?」

「大丈夫よー。ありがとうね。いろはちゃん」

「わっかりましたー。慧君はどうするー?」

「僕もコーヒーで大丈夫です......」

「え!?苦いよ!?」

「僕だってコーヒーくらい飲めますよ!」


 意外だった。今の中学生はコーヒーを普通に飲むのか。私は今でも飲もうと思ったら、砂糖とミルクが必須だし、そもそも中学生の時なんて飲めたものではなかったのに......。

 そんな事を思いながら、豆を挽いていく。お父さんがコーヒーもこだわってるから、普段飲むときは必ず豆から挽いているのだ。


 ***

 あ、ゴリゴリ挽いてくのいつやっても楽しいなー。一緒に住むようになったら、慧君の後ろから一緒に出来るのかな......、ぐへへへへ......。

 ***


 そうしているうちにお湯も沸いたので、二人分のカップにコーヒーを注ぐ。それと同時に何やら書類を持ってきてお父さんも一回に降りてきた。

 全員がダイニングテーブルに座り、しばらく他愛もない話が続く。慧君も時折話に入っていた。

 そうしているうちに、お父さんが本題を切り出した。


「じゃあ、昨日の今日で二人には申し訳ないんだけど、二人とも、互いの両親が再婚する事には賛成していると考えていいかな?」


 慧君は唐突な話で思考が働いていないのかぽかーんと口を開けている。


 ***

 やばい。ぽかーんとしてる慧君の顔好きすぎる......。あぁもう!可愛すぎるでしょうがぁ!

 ***




 20分後




「じゃあ、そういう事で、来週の日曜日にみんなで会場の下見等に行こうか」


 あの後、急遽来週の日曜日に式場の下見に行くことに決まったらしい。



 日曜日



 私とお父さんは休日にしては珍しく、とても早い時間に目が覚めた。普段なら、二人そろって惰眠を謳歌する日曜日の朝の筈なのに。


「あれー......?いろはもはやいな......?」

「うーん......。なんか緊張して起きたー......」


 お父さんも私も半分寝ぼけているので、知能が二分の一ぐらいの会話しかしていなかった。

 緊張で早く起きたのはとても久しぶりかもしれない。というか、お父さんも私も特別緊張する事なんて滅多にないのに......。

 そうして、朝ごはんまではいつも通りだった。問題はその後。式場の下見に何を着て行けばいいのか。

 お父さんは最悪スーツを着ればなんとか間に合う。なら、私も制服を着て行こうと思ったのだが、まさかのクリーニング中でなかった。

 ならどうするか。


 


 残された最善で最速の選択肢はこれしかなかった。そんなわけで私とお父さんは、予定よりも二時間ほど早く、家を出発する事となった。



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