第2話 なぜかクラスカーストど底辺の女子生徒と高確率で遭遇する③

 朝礼が終わった後、そのまま流れるように滞りなく、授業に移っていく。

 私立高校だけあって、設備に対する投資は素晴らしい、とだけ言っておこう。

 黒板ではなく、ホワイトボードを使用して、そこにプロジェクターで映し出しながら、先生は授業を展開していく。

 もちろん、生徒たちが入学時に購入したタブレット端末を活用していて、生徒IDとパスワードに紐づけされた教科書やら課題は基本的にこのタブレット端末に配信されてくる。ノートというよりも、板書を書き取るためのメモ帳のようなもの(電子メモのようなもの)がタブレット端末のケースの蓋部分に設置されていて、そこに記入したものは、保存アイコンを押せば、自動的に教科書のページとタグ付けされて、保存される。

 まあ、最先端の技術をきちんと活用して、効率的な学習を行うというのが、この学園の考えのようである。

 と、言っても、私にとってはそれほど難しい問題ではなかった。勉強は嫌というほど時間をつぎ込んできた私にとっては————。

 私は友だちとの付き合いを最小限にしていることから、友だちと遊びに行くということが少なく、時間は持て余すほど持っていた。

 だから、というわけではないが、放課後は学園の図書館に閉館間際まで残って勉強をすることが日課となった。

 結果、私は1学期の期末考査では、学年トップという偉業を達成することができた。

 とはいえ、私のような目立たない女子がトップを取っても、周囲の反応としては、「そりゃそうだろう」としか思うことはないと思う。

 これも自身の考えていた通りだ。

 私はトップを取りたくて勉強したのではなく、時間が余っていたのと、家から申しだされている約束を守るために勉強した結果、学年トップになれたということなだけ。

 まあ、クラスメイトで勉強を教えてほしいという人が増えたことから、少なからず友だち付き合いというものが増えたのは言うまでもないが……。

 問題を解き終わり、解き直しをする。

 終わると、画面右下の提出ボタンを押すと、前で画面を凝視している教師の端末まで一気にデータが送信されるのである。

 すると、そこで採点をされたものが、私の端末に即時に返信されてくるという優れモノだ。

 私は一気に暇になり、ペン回しをする。が、それほど上手くない私はいつもペンを—————、


「——————!?」


 いつもは机に落とすだけなのに、今日は運悪く後ろの席に飛ぶように転がっていく。

 ああ、しまった……。

 どうして、私はいつもこうドジをしでかすのだろう。

 私は後ろの方をチラリと振り返る。と、そこで藤原くんとバッチリと目が合ってしまった。

 今朝のことが頭をよぎり、私は一瞬顔を背けてしまう。

 が、次の瞬間、私の手にタブレット端末用のペンシルがツンツンと当たる。

 藤原くんがそっと拾ってくれたのだ。演習に立ち歩いたら怒られるのに………。

 私が彼の方に顔を戻すと、彼は軽く微笑んで、私の手にペンシルを返してくれた。

 私はそれを力強く握りしめると、軽く会釈して、座りなおす。

 えっと、普通に親切にしてくれただけじゃない……!

 どうして、私は驚いちゃっているのよ……。こんなのクラスメイト同士なら普通にあること、のはずなのに—————。

 女の子同士なら、今朝の宮沢さんのような女子生徒同士なら、そう言うことも何度もあったけれど、男の子にこういう親切をしてもらったことはない。

 たぶん、それはこういう容姿をしているからこそ—————。

 で、でも、単に彼の近くに転がっただけということもあるから……。

 敢えて、ここは深く考えないようにしよう。軽く会釈もしたのだから、ありがとうの意思は伝わっているはずだし………。




 放課後になって、いつも通り、私は図書館へと向かう。

 今日の「公共」の授業(以前までは「現代社会」と言われていたらしい)で出されたレポート課題をするために資料を漁りに来たのだ。

 たいてい、こういうものは早めにしておいた方が良い。遅くなってしまうと、資料が貸し出し中で見れないとかなって、提出日に間に合わないということもあるようだし……。

 とはいえ、「公共」という科目は、中学時代に学んだ「公民分野」にさらに肉付けしたような内容のものだから、資料がなくても薄い内容であれば書けるかもしれない。けれども、それでは評価が低くなってしまうので、避けなくてはならない。

 私はそれを避けるために必要な資料を集める。

 とはいえ、少しだけ引用するためなのに、どうしてこれほどまで本というのは重いのだろうか……。

 授業の教科書をタブレット端末で見れるようにしている時代なのだから、図書館の書物をすべて電子書籍化してくれれば、待つことなく借りることができるというのに。

 まだ、ここには紙の方が良いと考える人もいるのだろうな、と私は毒づいてしまう。

 自分が借りた席まで書物を持っていく。分厚い本3冊に学校の荷物を肩から掛けている状態だと、少々小柄な私(身長155センチ、体重51キロ)にとっては、荷が重い。

 それに私には今朝もあったような、ドジ特性までがたまに付いてくるのである。

 て、こんなこと言ったら、本当にフラグが立っちゃうわよね……。

 そんなことを考えてながら、私は階段を上っていると、一段踏み外してしまった。


「—————!?」


 荷物ので、重心は一気に後ろに偏り、そのまま落下するように空間に投げ出されたようになる。

 私は悲鳴を上げる暇もなく、察した。

 これは重症不可避……。最悪、当たり所が悪ければ、死ぬんだろうな、と————。

 死ぬ怖さに目をギュッと閉じる。

 が、一向に衝撃が私の身体を襲ってこない————。

 私は恐る恐る目を開けると、後ろに何か温かさを感じる。

 そっと振り返ると、そこには、


「藤原くん!?」


 思わず叫んでしまった。

 彼はすぐさま「し、静かに……」と囁いてくる。

 そ、そうだ。ここは図書館なのだから……。私のすぐ目の前に、彼の顔がある。

 彼は身長170センチくらいだから、ちょうど段差の所為で、こうなっていることは想像がついた。


「あ、ありがとうございます」

「間に合ってよかった……。今日のレポートのための書物でしょ? 席まで持っていってあげるよ」

「あ、いえ、大丈夫です」

「まあまあ、こういうときは素直に受け入れておくべきだよ」

「…………わかりました」


 彼は私が手にしていた重い書物を私からはがすと、私の席まで運んでくれた。

 どうして、こんななりの私に優しくしてくれるのだろうか……。


「じゃあ、俺もレポートしないといけないから、邪魔しないようにしとくね」

「あ、あの………!」


 なぜか、私が自然と彼を呼び止めていた。

 もしかすると、さっき、気にかかったことを聞こうとしていたのかもしれない。


 —————どうして、こんななりの私に優しくしてくれるの………?


 とはいえ、咄嗟の行動からこうしてくれた、というだけなのかもしれない。

 敢えて踏み込む必要のない問題かしら……。


「さっきはありがとうございます……」

「まあ、気にしないでよ。それよりも気を付けてね」


 そう言うと、彼は去っていった。

 私は今までにない感情が芽生え始めていた……。

 そう。興味を示し始めているのかもしれない。

 これまで単に付き合いたい、あわよくば……という情欲的な視線でしか見られてこなかった私が異なった視線を向けられている。

 そのことに対して————————。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る