口癖

海が物語を編んでいる

それが砂浜に燻されて

近くの雑木林に絡まり

薄く梳かれて

綺麗な音


その音が次々転がるから

背中は緩やかな猫背になった

姿勢の良い人が怖い

背中からすぐに音が落ちて

アスファルトを星だらけにしてしまいそうだから


私はいつも

物語の全容を掴めない

ずっと握りしめていたのに

電車に乗り込んだら

取り囲まれた情報たちに

すぐ食べられてしまった

だから海に続く道を知るまではずっと

この両手に収まる物語の断片を

寂しく巡るしかない


世界の解読しきれていない部分で生活をしている

私の話すことのできない言語で舌は形作られている

青春と呼ばれる章を

人と同じ温度で燃やせなかった

吸い殻は

吐き出したかった会話を暗記したまま灰になり

飛ばずに堆積して

隆起した地形を作っていく

その中心で

昼食を取ったあと

思考を盗む

窃盗犯の正体を追い続けていたら

いつの間にか砂浜に出た


そこで

物語が生まれていくのを目の当たりにしたとき

私はもう

手のひらいっぱいに咲いていた口癖を

思い出すことができない

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る