第4話 発覚!嘘の出張!?

「え? 有休取ってる……?」


 言われた事が理解出来ずに、ぽかんとしたまま復唱した。


 耳に聞こえるのは、就業時間となって少しざわついたロビーの雑音。

 足早に帰宅を急く靴音や、アフターの予定を同僚だろう人と相談する話し声に反響音。


 だけどあたしの耳には、今聞いたばかりの事実だけが、何度も木霊していた。


「うん。藤波さんなら昨日と今日に有休申請出してるわよ。もしかして知らなかったの?」


「……し、らない……」


 元同僚であり、今現在は総務から会社の受付へと異動になった女性が、目の前のパソコンを操作しながら再び言う。


 祥太郎さんは、今日『有給休暇』を取っているのだと。


 ……出張では無く。


 今日の朝聞かされたばかりの、突然の出張ではなく、有休。


 どういう、事……?


 予想外の衝撃に頭がふっと白くなる。同時に、お腹の底がひんやりと冷たくなった気がした。


 聞いてない。

 聞いてないよ、祥太郎さん。


 出張だって、今日は出張なんだって、言ってたじゃない……。


 混乱する頭の中で考えたり記憶を思い返してみても、祥太郎さんの口からは出張以外の言葉は聞いていない。しかも今日告げて、今日出掛けたばかりなのに。


「結構前から申請してたみたいだけど、本当に聞いてないの?」


「うん……」


 茫然自失状態のあたしを不思議に思ったのか、受付嬢ぶりも板についた彼女が画面を見つつ確認してくれた。


 そっか……。

 結構前から申請、してたんだ。

 予定、決まってたって事だよね、それ。


 あたしは一言も、聞いてないけど……。


 足下が震えそうになるのを、やっとの思いで堪えながらぐっと歯を食い縛る。

 元勤め先のロビーで、取り乱すわけにはいかないとなんとか耐えた。


「も、もしかしたらっ! 聞いたけど忘れちゃってたのかもっ! 実家行ってるのかもしんないから電話してみるっ」


「きっとそうだよー。咲良だし忘れてたんじゃない? 咲良だし」


「二回言わないでよっ」


 あはは、と彼女は総務だった頃にはつけていなかったコーラルピンクの唇で笑ってくれた。

 あたしもそれに合わせて、えへへ、と無理矢理な笑顔を作る。


 だけど内心は、自分が言った言葉に反論を唱えていた。


 実家なんて、無いからだ。


 だって祥太郎さんには……家族がいない。

 事故や病気で亡くなってしまって、天涯孤独なのだと、付き合っている時に聞いたもの。


 だから彼が会っているのは……『家族』じゃない。


 ありがとう、急にごめんねと教えてくれた彼女と、その隣の受付嬢の子に手を振りながら、あたしは脳内でお昼に交わした夕紀との会話を思い出していた。


あの人に限って、なんてそんな言葉。

 まさか自分が言うことになるとは。


 ねえ。


 祥太郎さん。


 きっと……。


 きっと、違うよね……?


 あたしは、ロビーを普段と同じ歩調で歩きながら、今にも溢れそうになる気持ちと、涙を耐えていた。


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