僕が本命じゃないくせに、ヤンデレ性悪令嬢が離してくれません

小花ソルト(一話四千字内を標準に執筆中)

第一編

序章   平和が一番だよ……

第0話   蚊帳の外な王子様

 僕ことクリストファー第二王子は、「従順すぎて、つまらない」「出世欲がない」「目立たない」などなど、国内外ともに散々な言われようだけど、まぁその通りだから、特に反論もない。自分で言うのもアレだけど、これと言って特徴のない、いたって普通の人間だ。職業・国王陛下の父上から、特に何か大きなことを期待されているわけでもない、自分でも地味な立ち位置だと思う。


 兄上と弟は、正妻の子で、僕の母上は側室。つまり、僕だけが三兄弟の中で、腹違いなんだ。べつに、その件で母上を嫌ったことはない。兄上と弟は雰囲気的に華があって、不思議と場を明るくし、誰もが釘付けになるほどの好青年。僕ら三兄弟は、いたって普通の、いや、もう普通じゃないか、あんまり仲良くないし……えっと、僕がパーティーに出席していなくても誰も気がつかないくらい、いつも輝いている自慢の兄弟なんだよ。


 あ、僕はこのままでいいよ。この古い屋敷で、自分の仕事をしながら、たまに城下町や外に出て、息抜きがてらにお弁当食べて、幼なじみで執事のベルジェイが誰かと寿退社でもしない限りは、こんな感じで、毎日暮らしていければ、それでいいかなぁって、わりと本気でそう思ってる。


 もともと僕には、王位も特別な役職も、似合わない。自分でもわかってる。僕自身も、大勢を支配できるほどの采配の才は無い。


 僕の母上だって、正妻に遠慮しながら生きてたもの。僕にもそういう生き方が待ってるだろうし、運命に抗ったところで、人の上に立つ才能がないんなら、僕の下で働く部下がかわいそうだよ。


 僕はこのままでいいし、なんの役割も与えられなくなったら、ベルジェイと一緒にこの屋敷を出たって構わないとさえ思ってるよ。


 そんなわけで、どこかの国のお姫様を妻に迎える気もないんだ。


 ……だから、毎月のように送られてくる、この熱心なラブレターには、ほとほと困り果てていた。


「うわあ……結構たまったなぁ……」


 仕事机と兼用している勉強机の上に、桐の箱を運んできて久々に蓋を開けてみたら、今までどうやって蓋を閉めていたのか自分でも不思議なくらい、手紙が溢れ出てきた。ジャムをつけたら、そのまま食べられそうなくらい可愛いデザインの、ピンク色の封筒。この中に、僕への愛のさえずりが、びっしり書かれていてとっても怖いんだ。


 だって、おかしいじゃないか。このお姫様は、僕の何を知ってるって言うんだ? 話した記憶もないし。もしかして、僕に近づくふりをして、本命は王位継承権第一候補である兄上なのかもしれない……冗談じゃないよ。僕をダシにしてまで兄上に擦り寄るような、お腹の中が真っ黒な人が、兄上の妻で、僕の義理のお姉さんになるだなんて、絶対やだ。僕がラブレターをもらってる手前、兄上夫妻と顔も合わせづらくなるし。


 今後どういう関係性になる人なのかわからないけど、とりあえずこの人からの恋文は、全てこの木箱にしまっておこう。僕にとって都合が悪くなったら、この箱ごと全部燃やしてしまえばいいんだ。


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