2話 戦闘

「一体くらい捕縛するか?」


「どうかな。あの一体を調べたら、属性判断で最古の魔王ではないことは確定するかもしれないし」


 ジュウロウとワ―レストはそう相談しながら、敵の動き、主であるレイムを見る。


 破壊の領域へと攻めてきた魔王軍。一見そう魔王軍と思われる外見は禍々しい鎧を纏って似せたようだが、魔王とその軍の動きを知っている者からすれば、外見は魔王軍だろうと違和感があるのだ。

 世界を力で支配するという目的から当然として神々、種族と敵対しており、世界大戦は無論、それ以前や以降でも神々と争っている。魔王と呼ばれる存在はこの世界でたったの五人しかおらず、新たに魔王が誕生したという話も一切ない。


 その五人は世界原初時代に誕生したことから最古の魔王と総称で呼ばれ、それぞれ序列と異名で区別されている。

 序列五位“繁栄の魔王”マテリア・ヴィティム。魔王の次女。常闇の領域ネルトシネアスの大国を支配領域とする魔王の中ではれっきとした国を持つが、魔王として独裁気味であり、繁栄という自分の力を強化するためだと言われている。

 序列四位“滅空の魔王”リビル・リグレウス。魔王の長男。天空を支配領域とするため、天使とは争い、大魔王に次ぐ神との争いが絶えない人物であり、魔王の中では唯一の男。

 序列三位“知識の魔王”レジナイン・オーディン。魔王の長女。支配領域を持たず、二つ名から研究者肌であり、探求心が魔王の中では随一であり、前線に立つというより支援を担当し、世界大戦では巨大浮遊要塞を作成した人物であり、技術力は機人に次ぎ、魔王の中では天才という異質な人物。

 序列二位“氷結の魔王”レミナス・グラシアス。魔王の三女。固定の支配領域を持たないが、彼女の支配領域は氷の世界であるため、世界を転々としている。性格は真面目であり、冷酷であるため身内に厳しく言うことを聞かない三位と一位を注意するためリーダー代行という人物。


 最後に序列一位“大魔王”エマ・ラピリオン。魔王の四女。末っ子という立場だが、その実力は魔王の中で最強を誇る。姉であるレミナスとは反対に紅蓮の炎を操り、戦闘能力と成長速度は才能があるからこそ成し得たものであり、神々と幾度となく戦い、一度は三代目炎神に敗れたが、復活を遂げているという存在が驚異的であり、当然のことながら世界最強の一角に数えられているが、エマ一人とその他四人で分けられるほどの強さを持つ。


 破壊の勢力は世界大戦で最古の魔王と全面戦争を行った際に得られたもので魔王関連の情報はほぼ全て得られている。

 積極的に動いているのは四位と二位、動かないであろう五位と三位。動けばわかるだろう一位に関して世界大戦以降は静かであることだが、大魔王の軍勢は燃え盛る者達のみだ。


 彼らの予想として魔王軍に酷似した魔王軍とは関係のない何か、ある程度の見当はついている。




 そして魔王軍が領域の境界線を越えた。


『魔王軍、領域内に侵入!!』


 機人が固有に持つ伝達魔法。ワ―レストが認知した魔力と意識を辿って語りかけ、遠距離でコミュニケーションが取れるのだ。


「――『破壊神冠シヴァナーダ』」


 そう、自分の能力名を呼ぶ。

 漆黒の剣を抜いた少女は進行する魔王軍に剣を向ける。

 次の瞬間、レイムのすぐ後ろに黒い光が発生し、それが壁のように左右、上に漆黒の魔法陣が無数に展開される。


 これこそ神業と言っていいものだろう。

 これだけ多くの魔法陣を展開できるのはレインであっても十か二十が限界だが、レイムが展開する魔法陣の総数はそれを遥かに超えている。剣を向けたのは標準を合わせるためであり、全ての命中率は低いが、その威力と範囲からその方向に向けるだけで敵からしたら脅威の他ない。


「行っけぇぇぇぇぇッ!!!」


 全力で声を上げる。

 複数の魔法陣を操るのは容易ではないが、ざっくりとした感覚で方向を定めて力を込めた。


 その瞬間、魔法陣の中心が強く光り、【破壊】が放たれる。

 初めは黒く、その後に真っ白に景色は染まる。魔王軍に黒き光が触れた瞬間、爆発が軍勢を裂き、人型、鎧が吹っ飛ぶ。火力を比較するなら、神であっても直撃を受ければ、ダメージを絶対に負うという圧倒的なものだ。


 大きな音と衝撃が走る。

 レイムの攻撃で魔王軍の前衛は砕け散ったが、ワ―レストが観測した総数はざっと三万であり、攻撃を受けた途端、全軍が特攻してきた。


「全軍、敵後衛を集中攻撃。数を減らして、前線の負担を減らせ!!」


 ワ―レストと同じく機人達、遠距離攻撃を担当するレインの魔法が上空へ放たれ、魔王軍の後衛に炸裂する。

 レイムは歩き出し、特攻する一体に目を付ける。

 流石に緊張するのか、両手で剣を握り、硬直している腕を解す。足は歩みを止めず、前線にはレイムだけ、荒野に立つ。


 そして対峙する。


「ふッ――」


 両手で剣を握り、すれ違いざまに胴体に剣を通す。

 重みは微かに手に感じたが、破壊神の魔力を帯びた剣撃は少女の腕力で容易に鎧を纏った存在を切り裂く。


 レイムを敵だと認識したのが、周囲の騎士達が迫り、一気に囲まれたが、横に剣を薙ぎ払うことで胴体をあっという間に切断する。

 胴体が斬られ、血が飛び散り、肌色が真紅に染まる。

 もう軍勢の中に入っているため、数が尋常じゃないがレイムは剣撃だけでなく、身体の周囲に魔法陣を展開して自己支援を行う。


「よし、突破した奴を対処するぞ」


 ジュウロウが真っ先に戦場を疾走し、その手に握る柄と鞘が白い刀を抜刀する。その後にシール、ピール、リールが和気藹々と参戦し、敵を屠る。領域範囲、人数ともに最小に値するだろうが、これが最強の戦力を誇る破壊神の勢力である。


「ふッ、はッ」


 と、レイムは気配と魔力を感知して一体一体を確実に葬っていく。


 非常に軽そうな身のこなしはジュウロウによる特訓の成果である。神が持つ才能なのだろうと最破は驚愕しながら、破壊神なら当然だとも思う。

 レイムの魔力量はレインやビーを上回っており、枯渇など滅多になく、その量は大魔王に比肩する。


「ん?」


 突如として魔王軍の方から強大な魔力を感じてレイムは振り向いた。

軍の数が減ったことで態勢を変更するのか、残りの騎士達が集約している。


 だがそれは泥のように騎士達が集まり、大きな何かに変貌しようとしている。


『大気中の魔力も同時に吸収し、速度を速めている。騎士がやられても巨人の一部に思ったより、性能が高いです。いや――』


 すぐに機人種の機能の一つである対象を検索する。


『検索結果――『腐敗熾冠コルティブ』、能力を確認!!』


 禍々しい鎧の中身は腐敗した肉体であり、動く騎士、死んだ騎士を集約させて巨大な騎士の上半身が現れる。声などは発さず、大地を震動させる唸り声が轟く。


 強敵か分からないが、面白くなってきたが、同時に怒りが湧いてくる。


「肉の塊が、私達の居場所を汚すな!!」


 そしてレイムの周囲に幾千の漆黒の羽根が顕現し、少女の背中に集約して漆黒の両翼が顕現した。

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