第27話 赤か、黒か

≪デハ、回答が出揃いました≫


 師谷・水菜月ペア:

 「8」「2」=不正解


 黒川・浦城ペア:

 「5」「6」=「56.4」(1tpt使用)


 桃野・小野前ペア:

 「7」「9」=不正解


≪オメデトウゴザイマス≫

≪セイカイシタペアハ、黒川・浦城ペア一組のみです≫


 その現実を目の当たりにし、ゆめは両手をグッと握り締め、郁斗を見つめた。

 良かった……正解した。

 郁斗は深く頷き、肩の荷が下りた気分で解放感を覚える。正直ずっと半信半疑だったが、答えは郁斗の想像通りだった。

 正解は「56.4」

 確かにこの最終問題も、小学生でも解くことは可能な問題となっていた。

 答えを導くヒント、それは「不吉な数字」。

 まず注目すべき部分は「666」という数字。これは聖書の中で「悪魔の数字」と呼ばれている。過去にはこの数字が題材の映画も放映されていた。

 そんな不吉な数字から、答えの□□.4に目を向ける。この時に答えの数字も不吉なモノであると関連付け、推測を試みる。末尾は「4」。4の不吉な語呂と言えば「死」、だが……。では末尾が「4」の3ケタで、思いつく不吉な語呂を……といった感じで想像を働かせていく。

 死……〇〇死……いや、無いか。

 し……苦し……いや、違う。

 し、し……し、ころし。

「殺し」——そうか。

 殺し=で語呂が成立する。

 ひとまずこれを仮に答えと仮定し、式を逆算して解いてみる。すると……。

 56.4024024×666=37564

 この式で言うと、(師谷+未来美)=(蜜+郁斗)=37564

 だがここではまだ、はっきりとはわからない。

 けれど「37564」の語呂は、「」となる。嫌な予感と同時に、怪しげだが問題の空気的に、正解のニオイも否めない。

 37564は偶数のため、ここで単純に「÷2」を用いて二等分してみる。

 37564÷2=18782

 ここからだった。

 郁斗の中で、問題とは別の疑問が浮かんだのは。

 37564の語呂は「皆殺し」。その要領で18782を語呂にすると……「

 そう……嫌なヤツ。

 確証は無いが、ひとまず人名の欄にこの数字を入れ込み、紐づけて式を解いてみる。

(18782《師谷》+18782《未来美》)÷666=56.4

(18782《蜜》+18782《郁斗》)÷666=56.4024024

 以上で当てはめれば、過不足なく式がキレイに成立るというわけだ。式にある全てが「不吉な数字」で統一される。

 郁斗はこの流れから正解へと辿り着き、チームポイントを消費。そしてゆめが回答するマスに、該当する「」を伝えて見せた。


 最終結果:

 2位 師谷・水菜月ペア:3問正解

 1位 黒川・浦城ペア:4問正解=ステージクリア

 2位 桃野・小野前ペア:3問正解


 郁斗とゆめは無事クリアを果たし、安堵する。

 が、その一方で……。他の四人からは何の音も聞こえない。もう既にゲームは終了している。

 そこには憔悴した四人の、立ち尽くした姿だけが残っていた。


≪デハコレヨリ、ルーレットをスタート致します≫


 前置きも無く、淡々と。

 静寂を切り裂く、ネズミ音のアナウンス。

 すると間を置かずスクリーン画面が切り替わり、カジノルーレットのアップ映像が映し出された。

「そ、そんな……本当に」

「う、うそでしょ」

「い、いや!!」

「ック……」

 四人の失意に満ちた悲鳴が、空気中を伝播した。

 ‟同率最下位の場合はルーレットによりペア1組に「死」を与える”

 それが、このステージのルール。これまでもルーレットで決定という項目はあったが、適用されるのは今回が初。

 画面上に映るルーレットの上部には、「赤=師谷・水菜月」「黒=桃野・小野前」と区分けされた記載がなされていた。

「カランカランカラン」

 謎のベルが鳴り、高速で回転を始めるルーレット。そこに白い球体が、遠心力を纏いながら転がり始める。

「ザーーザーー」

「カタンカタン、カタン」

 暫くして。遠心力から解き放たれた玉は、円盤の上を縦横無尽に動き回る。

 赤と黒、どちらのマス目に行くのか。

「おねがい……」

 誰の声かはもう、分からなかった。

 血眼で画面を祈るように見つめる四人。

「カンカンカンカン」

 その後、球体はスキップをするように、軽快に飛び跳ねた。

「カンカン……」

「カン、カン」

 そして——。

「……カン」

 角無きそのフォルムは、スッポリと暗闇の四角い溝へと吸い込まれていく。

 二色のコントラスト。

 光る玉とは、真逆。


≪ステージシッカクシャ——≫

≪‟桃野・小野前ペア”≫


 こうして、無情にも。

 第三ステージの失格者が決定した。



 ◆



「いや……絶対いや」

「なんで、あたしが……」

「アンタのせいだ! あんな簡単な二問目で、間違えやがって! ふざけるなッ!!」

「ボ、ボクのせいじゃない! 別に間違ってはいなかっただろ! ひ……人のせいにするなよ!」

「アンタがちゃんと……。違うペアだったら……」

「な、なんだよ! こっちだって……ボクだってええぇ!」

「……うっ、うあああああああ!!!!」

 失格者の烙印を押され、互いになすり付け合いを始める未来美と数馬の二人。

 だがそれも、間もなくして。

 言葉を失い滂沱ぼうだする未来美と、別人のように豹変し、慟哭をほとばしらせる数馬。

 両者とも、絶望に打ちひしがれていた。

「ッ……ハッハッハ」

「ククッ、クックックッ」

 第二ステージ終了時と同様に、そんな二人を見てさげすむような笑みをこぼす蜜。さらに加え、今度はその隣の師谷も、憐れむように含み笑いを漏らしていた。

 露わになる本性。勝者と敗者共々、さらなる人格が崩壊してゆく様を、郁斗とゆめは呆然とただ見つめるだけ。

 静寂から喧騒へ。

 カオスの様相を見せるフロア内。

「ガチャン! ガタ!」

「え……」

「何?」

 すると突然、未来美と数馬が立っていた台座の周りに鉄格子が降り落とされ、二人は閉じ込められた。

「っ、なに? どういうこと」

「う、うえっ?」

 その後「グーン」と大きな音を立て、足場が地上から切り離され、上昇していく。同時に二人の頭上の天井部だけが開閉し、空間が生まれた。

 まるでリフトのよう。未来美と数馬を乗せた台座だけが、六階から七階へと移動する。

「ギーーーン」

 直後、先程のルーレット画面が新たに切り替わり。

 数馬ら二人を遠目から移した、七階フロアと思しき映像が流れた。

 これは……? 

 殺風景な七階層。そこにはモノという物が無い。

 あるのはただ一つ。

 フロアの真ん中。大きなカプセルのような立体物だけが、ポツリ。

 と、その時だった。

「バッ、バリバリ、バリッ」と音を立て、カプセルのガラスが粉々に砕かれる。

「ッタ、ッタ、ッタ」

 同時に蒸気のような、霧のような白い煙が立ち込め、そこから四本足の毛むくじゃらの生き物が姿を現した。

「え、っ」

「……コレは」

 数馬の声が微かに聞こえる。

 一方の未来美は涙ぐみ、必死に後ずさりをしていた。

 二人の眼前に映る、黒い謎の生き物。怪獣映画で聞くような轟音と荒い息吹を繰り返しながら、鋭い眼光をらさない。

 その物体は濁った赤い体液らしきものを垂れ流しながら、隆起した肉塊をブラブラと揺らしていた。

 前足を一歩、また一歩と……。やがてカプセルの外へ出ると、ゲージ内の床面には血みどろの肉片と骨のような断片が散乱していた。

 ドロッとした液体に浸る、皮のように薄いビラビラ。まるで内臓のような光沢を保ったグロテスクな液状体。そして、黒く乱れ散った長い線の束。

 間違いない、この獣は……。この中で、何かを捕食していたと見える。

 何を食べていた? あれらは何だ? 

 肉と骨なのはわかる。じゃああの、黒い線状のって……。

 もしや髪の毛? ま、まさか……ニンゲン、なのか?


≪ショウカイシマショウ≫

≪コレハ、陸棲哺乳類の中で最大種の大羆クマ。ですが、単なる野生ではありません。特殊なステロイド剤を大量投入し、品種改良を限界まで施した傑作です。そして、を担ってくれています≫


 クマ? これが? どうしてそんな生き物を……。

 異常なまでに全身が筋骨隆々と発達しており、まさに異世界で見る怪物そのもの。これもステロイド剤による変異なのか? 

 とても普通の獣とはいえないような、勇猛無比且つ禍々まがまがしいビジュアルをしていた。


 それに、失格者たちの残飯処理、って。

 ……ということは、やっぱり。



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