第11話 リスタート

「三人で協力?」

「そうです。オレたちはこの絶望的な状況下で、冷静になれていない。その中でわらをもつかむ思いで鍵を探し続けている。こんなの普通に考えて、非効率だって思いませんか?」

「それは、まあ……。で、でも」

「‟でも”、改まって考えることはしなかった。それはなぜか。一つは今話したように、‟冷静でいられない状況だから”でしょう」

「そして、もう一つ」

「それは現時点で、‟三人がクリアをしている”という事実があるからです。彼らは実際に‟運”を味方につけ、勝利を手にしています。それもこんな膨大な鍵山の中から。三人が成功している訳ですから、今度は自分の番だ……もうすぐ、もうすぐで……って、不確定な奇跡を信じて現状維持を続けている訳です。でも、そんなのおかしい。ベストな方法じゃない」

「このゲームは、運で勝ち取るんじゃない」

「確率で勝ち取るべきです」

 半場と数馬が未だ互いに揉め合っている中、郁斗は淡々と話を続ける。

「なるほどね。でも正直ワタシ、まだ不安だわ」

「だってあの半場って人が、さっき言ってたでしょ。他人の鍵を見つけたとして、それを隠されたりしたら……。別にアナタの事、疑ってる訳じゃないのよ。でも……」

「玉利さんの言うこと、大いに分かります。そう思うのも当然」

「なので玉利さん、ゆめさん——コレを見てください」

 そう言って郁斗は、自身の手錠の鍵穴を二人に公開した。

「……がいこつ?」

「はい。オレが探しているのは、先端がドクロマークになっている鍵です。二人を一切疑ってないからこそ、こうして見せました。だからもし協力してくれた場合、好きな時にいつでもオレの身辺調査をしてくれていいです。オレは言われた通り、靴の中でも服の中でも何処でもお見せしますから」

 ここまで言うと、流石の玉利も徐々に好意的な表情にほぐれていくのが見て取れた。一方のゆめは何も言わず、ただ真剣な眼差しで計画を聴き入っている。

「わかったわ。じゃあ三人分の鍵を探す、それでいいのね?」

「はい。一番は、‟お互いの鍵を見つけ出すこと”」

「ですが、それだけではありません」

「え? 他にもまだあるの?」

「はい」

「さらにを、玉利さんとゆめさん、それにオレを含めた三人が必ず守ることが必須です」

「…………」

「…………」

 郁斗の言葉に、謎の沈黙が生まれる。 

「…………」

「私、やります」

「協力します……浦城さんに」

 郁斗のその強い気迫に、呼応したかのように。当初は体を震わせ、終始怯えた様子だった彼女の表情がいつしか変化している。

 それは今までずっと寡黙を貫いていた黒川ゆめが、初めて強い口調で同意の言葉を口にした瞬間だった。

 


 ◆



 それは、計画の詳細を告げる少し前まで遡る。

 捜索を再開する、玉利やゆめとは違って。

 郁斗だけはその後も、半場たちの動向に耳を傾けていた。

「や、やめてください!」

「あなたの分の鍵も探しますから! ボクのは、見せたくないです!」

「だから、のお願いは……聞けません……」

 半場の言う更なる要望を、かたくなに拒む続けている数馬。

「いいじゃねえか。おれも見せたんだからよ。だからオマエの鍵穴も見せてみろよ。案外おれが、見つけちまったりするかもしんねえぞ、ハハハ」

「ボ、ボクのはいいです、いいですから……!」

 本来なら力づくで鍵穴を見ようとするであろう半場だが、ルールにある「肉体的な危害を加えていけない」により、ズルズル距離を詰め脅すことまでしかしなかった。それでも数馬はいっぱいいっぱいな様子で、繋がれた両手をグッと胸に当て鍵穴を見せないよう必死に抵抗を続けている。

 数馬はおそらく予想していた。だからが故の行動であるのだと、郁斗は悟る。

 半場はああ見えて、意外と頭が切れるヤツだ。もし半場が数馬の鍵を見つけたら、新たな交渉材料として、奴はそれを悪用するだろう。下手すれば数馬を使って、今度は郁斗や玉利、ゆめにまで何か妨害策を施してくるかもしれない。

 けれど数馬には、そのまま半場との問答を続けてもらいたい。半場の意識がこちらに向かない今のうちに、計画を共有しないと……。

 小野前数馬。キミを利用して、犠牲にして、すまない。

 でもきっと。一縷いちるの望みは、何処かにまだあるはず。

 だから、今は——。



 ◆



「二人ともありがとうございます、協力してくれて」

「では今から計画をお話しします。守ってほしいこと、それは大きく次の三点です」

「①確率②時間③未来、以上の三つに分けてお話しします」


「ではまず、①の‟確率”から」

「これは最優先の目的である‟鍵の発見”です。玉利さん、ゆめさん、そしてオレ。お互いが三人の鍵穴を記憶し、探すこと。それによって一人で探すよりも三倍、探す効率がアップします。もしかしたらこれまで見てきた鍵山の中に、誰かの鍵があったかもしれません。もしその記憶が残っていれば、鍵の場所も絞りやすいです。とにかくこのやり方は効率が良いので実践しましょう」

「ええ、わかったわ」

「わかりました」


「次に、②‟時間”に関して」

「今の制限時間は『35: 45』。残り約三十五分です。なのでこれから十分おき、すなわち『25: 00』と『15: 00』になったら、皆さんこの場所に再び集まりましょう。そこで鍵の共有をするわけです。誰かしらの鍵を見つけることができた場合、そこで手渡すこと。十分おきに決めた理由は、できるだけ半場たちに怪しまれなくするためと、捜索作業に集中するためです」

「そしてさらに。もし自分の鍵を手に入れたとしても、直ぐには手錠を解錠せずキープしていて下さい。外す時は三人の鍵が揃った時です」

「それはなぜか。この三人が残っている限り、ルールにある‟残り3人になった時点で「10分」の制限時間が発動するという事象が起きないからです。外してしまうと、‟解錠した者は速やかに退室すること”のルールが適用されてしまいますから」

「待って待って、それはちょっと違うんじゃない?」

「だってあそこにいる男子二人がもし鍵を見つけたら、残るのは私たち三人。制限時間10分の発動要件を満たすことになるわ」

「はい、その通りです。でもそうはなりません」

「おそらくほぼ、百パーセント……」

「百パーセント?」

「はい。オレはそう確信しています。というのも、現在数馬はメガネをかけていません。メガネをしていた時の彼の行動を見ていましたが、彼は一つ一つじっくり、入念に鍵を見ていました。きっと几帳面な性格なんでしょう。視力がある状態でも相当時間がかかっていた。そんな彼が視力を持たない今、オレたち三人よりも早く自分の鍵を見つけ出すことは無に等しいと思います。さらに数馬は、メガネを人質代わりにされています。加えて半場に対し鍵穴を教えていない。彼は最後まで、自力で探すしかないんです」

「じゃあ私たち以外でクリアする可能性があるのは、あの半場って男一人ってことね。正直胸が痛むわ」

「そうです。仮に半場が抜けたとしても、残りは四人。時間の動きに一切変化は起きません」

 数馬の事を考えると複雑な心境だが、ひとまず理解を示してくれる二人。

 

「で、最後に③の‟未来”ですが」

「これは約束事でも何でもないんですが……。桐島は言ってました。これは第一ステージであると。ということはこの先第二、第三と、新たなゲームが用意されているはず。しかもこのゲームよりもさらに、過酷な……。だからここで肉体と精神の疲弊を極力避けるべきです。実際に今すぐクリアできたとしても、先に抜けた三人の方が回復してるだろうから、その時点で分が悪い。だからここは三人団結して乗り切りましょう」

 最後の三つ目は少しでも二人を鼓舞できればと、ただそれだけだった。だが計画の全容を理解した玉利とゆめは大きく頷き、正気を取り戻したような顔つきへと変わる。


【郁斗の提案】

 ・三人で協力し、鍵を探す。

 ・十分おきに集合し、鍵の共有をする。

 ・鍵を入手したとしてもすぐには解錠しない。解錠する時は、三人の鍵が揃った時。


「あの子、何とかできればいいんだけど」

「……ですね」

 最後にボソッと、そう呟く玉利。

 一方でゆめも辛辣な表情を浮かべる。

「っ、ひとまずは、計画の事だけを考えましょう」

「それじゃあ皆さん、腕を出してくれますか」

 こうして玉利とゆめと郁斗の三人は両腕を出し合い、互いの鍵穴を見せ合った。


 郁斗:「ドクロ」

 ゆめ:「クローバー(四つ葉)」

 玉利:「W」


「では、行きましょう」

「リスタートです」

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