? 第3期転生者選別


 転生者とは、一体何なのだろうか。

 トラックに撥ねられた者が、狙撃をされた者が、自殺をした者が、皆、素晴らしい能力を有して異世界へとやってくる。転生した先では華々しい人生を送り、世界のパワーバランスを乱した後に魔王を倒して、ハッピーエンド。


 くだらない。


 転生者制度――それはくだらない、神様の娯楽である。

 

 事実、第四創造神が造ったこの世界では第一期転生者の投入で世界に綻びが生まれていた。そして、綻びを直すために転生者よりも劣っていた同称号の《勇者》と《賢者》を強化。


 ――悪化。


 ならば、と転生者の数を大幅に増やした第二期転生者を投入したが、更に悪化、悪化、悪化、悪化――……。

 度重なる調整と転生によって、ただのファンタジーの世界だった第四創造世界も当初の形を保てずに崩壊が始まっていた。

 このままでは緩やかに崩れていく姿を見ているだけ。そう思った第四創造神は、廃止していた転生者制度を復活させることを決意。


「……第三期転生者を投入。手始めにこの二人を試験的に転生させよう」


 ふっと口端に笑みを浮かべるその眼下には、妹のために身を粉にして働く『兄』と、兄の期待に応えようと努力している『妹』がいた。

 



      ◇◆◇




 世界と世界の狭間。

 若しくは神が住まう世界の一区画。

 若しくは天界。

 様々な名称で例えられる其処は、「白」一色の正六面体が無数に連なり、結合、分離を繰り返している空間。


「これで第2期転生者がまた1人いなくなりましたね」


「だから言ったでしょう、地球人を転生させるべきではないと。彼らは脆すぎる」


 と話す者達がいるのも、また純白の空間の一つ――『白の部屋』。

 その者らの容姿で特筆すべきことはない。どの道、目元から首元までを覆っている白マスク――品位が感じられる模様入り――がその素顔を隠してしまっている。

 辛うじて見える識別の材料を挙げるなら、髪の長さの長短くらいだろうか。

 服も同じ白装束であるし、髪色も黒。瓜二つとまではいかないが、二人の容姿にはこれといって大差がない。


 彼女らは、地球とは違う世界で行われていた『転生者狩り』の様子を見ていた。

 最後まで自分のことを転生者だと明かさない者であっても、疑われ、拘束されてしまうと最終的には首を刎ねられてしまった。

 その空間に干渉できる存在に『感情』というモノがあるかは定かではないが、少なくとも、わざわざ転生させた者達の最期を見届けるのは気分の良いものではない。

 事実、転生者の死は短髪の女性の目を三角にさせ、白マスクを揺らす程の溜息をつかせた。


「はぁ~……もう良いでしょう。追加投入は止めて、創造神が直接関与した方が確実な気がするのだけど」


 と短髪の女性が呆れとも取れる声色で話す。


「創造神は自身が想像した世界への干渉は規則により禁止されてます」


 と長髪の女性が淡々と事実を述べる。


「……このまま転生者を投入し続けても効果がない気がするのだけど?」


「いいえ、効果はあります」


 地上の様子を映していた半透明の板を微笑みながら閉じた。


「……全く何を考えているのやら」


 呆れた声色はそのままで、ふいと長髪の女性から視線を外す。


「それで、次に転生させる適性者は? 決まってるって前話してた人のこと」


 短髪の女性からの問いかけに対し、長髪の女性は少し口角を上げ――白マスクに遮られているが――答えた。


「地球人です」


 それを聞いた女性は目を丸める。


「先程の話の流れで……! またあなたは……」


「第一創造神には既に通達しています」


「今度も失敗するわよ」


「あなたは大きいところしか見れていないようですね。確かに多くの転生者は死にました。ですが、地球人の中でも見事に生きながらえている者がいるではありませんか」


 指をくるくるして短髪の女性に対し説明を続ける。


「その者達が作り出した波の上に、さらに異物である転生者を追加投入することでまた新たな波が生まれる。これは、おおよそ創造神も同じ考えです。そして、2期に渡る転生のおかげで第四創造世界では既に大きな波が起きてます。その様子を見るのはとても――」


 同じところを往復しながら説明していた長髪の女性は言葉を止め、腰を折り、人差し指をピンっと立てた。


「楽しいですよ?」


 何その動き、と言われた言葉など何処吹く風。言い終わったタイミングで再び半透明の板を展開した。

 そこには先ほどまでとは違い、男女二人が仲睦まじく会話している様子の映像が映し出される。


「……? これは……?」


 覗きこみ、映し出されている男女について問いかける。


「次の転生者候補さん、それもお二人」


「はぁ? 二人って……」


 顔を寄せてよくよく2人の様子を見てみるが、どの角度からどう様子を読み取っても、規定されている“転生者としての適性”はないように思えた。


「これのどこが……」


「実際会ってみると分かりますよ」


「いやっ……だって、これよ!? そんな訳……」


「ふぅ……この二人は第四創造神からの推薦よ。今更変更なんて出来ないわ」


 長髪の女性はそう言うと、踵を返して手を上から下へ空間を撫でた。同時、ぶぉんっと白一色の空間に黒い入口ポータルが出来上がる。


「……行くの?」


「えぇ、彼らを迎えに行ってくるわ」 


 目元を笑わせ、長髪の女性は『白の部屋』から出ていった。

 

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