スポ魂編?
#17 リバーサイド・マーダーズ
ランちゃんとミヤビちゃんの二人と友達になって最初の週末、土曜日。
俺は二人に河川敷のグラウンドへ呼び出されていた。
二人が所属する野球チームの練習があり、それに参加する為だ。
集合時間8時の10分前にグラウンドに到着すると、練習用と思われる無地のユニフォームを着たミヤビちゃんや他のチームメイトと思われる女子が10名ほど居た。 ランちゃんの姿は見当たらなかった。恐らく学校と同じように時間ギリギリに来るのだろう。
因みに俺は、いつもジョギングする時と同じ黒いパーカーに黒いスウェットで、パーカーのフードは被るのが俺の拘りスタイルだ。
言われていた時間までまだ少しあったので、俺はグラウンドには入らずに土手の斜面に体操座りをして8時になるのを待つことにした。
本心では、知らない人が多くて、しかもミヤビちゃん以外の人がみんなランちゃんみたいに派手で怖そうな子ばかりだったので、自分からその中へ入って行くことが出来ずにミヤビちゃんが気付いてくれるのを待っていた。最悪、気づいてくれなくても8時になればランちゃんがやって来るだろうから、そのタイミングで一緒にグラウンドへ入れば気付いて貰えるだろう。
と、ぼっちらしく待ちのスタンスで待機していると、ミヤビちゃんが俺に気付いてくれてスタスタスタと斜面の下まで駆け寄って来た。
「あんみつくん、おはよ」
「おはよう、ミヤビちゃん」
「行こう」
「ああ、わかった」
そう返事をして下まで降りると、ミヤビちゃんは俺の手を掴んで足早に歩き始めた。
引っ張られる様にしてチームメイトたちに合流すると、みんな俺に注目していた。
ミヤビちゃんは俺の手を離すと自分の準備を始めてしまい一言も喋ってくれず、俺も黙ったままみんなの視線に耐えていた。
そんな居た堪れない状況の中、次々と残りのメンバーが集まり、最後にランちゃんがやって来た。
「お!あんみつ、ちゃんと来たね!って、なんでみんな黙って突っ立ってんの? ミヤっち、みんなにあんみつのこと話してないの?」
「まだ。みんな来てからと思って」
「もう!こういう場に慣れてないんだから先に紹介してあげないと、あんみつ困ってんじゃん! みんな!この子、あんみつね!私とミヤっちの小学校からの同級生で、ダイエットさせる為に今日から練習参加させっから、みんなビシバシしごいてやって!」
「俺の名前は安藤ミツオ。 ランちゃんとミヤビちゃんからは、あんみつと呼んで貰ってる。よろしく」
「っていうか!ミヤっちに男友達居るなんて聞いてないんだけど!」
「ミヤビちゃんって馴れ馴れしく呼んでんのに、ミヤっちが全然怒んないとかありえなくない!?」
「いつからなん?いつからミヤっちと付き合ってん!?」
「いやいやいや、ミヤっちがカレピとかありえんでしょ!!!」
「中学んとき、しつこい男を逆に追い込んで土下座させてたくらいだし、パシリかペットじゃないの?」
「あんみつって聞いたら、あんみつ食べたくなった。練習終わったらみんなで食べに行こう」
ランちゃんがチームメイトたちに俺のことを紹介してくれたので、パーカーのフードを降ろして自己紹介をすると、一斉にみなさんが興奮気味に喋り始めた。
「おぉぅ。流石武闘派ガールズチームのみなさん、元気が宜しいようで・・・」
「私とあんみつくんはそんな下世話な関係じゃない。崇高で尊い友達」
「えええええええ!?」
「えええええええ!?」
「えええええええ!?」
「えええええええ!?」
「えええええええ!?」
「ミヤっち、君付け出来るんだ・・・」
なんだか俺が認識している友達とはちょっと違う気もするが。
「そーゆーことだから、無いとは思うけど、あんみつに手ぇ出すとミヤっちの逆鱗に触れるし、みんな気ぃ付けてね」
手を出すって、やはり武闘派チームだとチーム内でも暴力行為が横行しているということか?
いざとなったら逃げるしかないな。
念の為、いちじく浣腸を持参して正解だったようだ。
二人が所属するこの野球チームは『リバーサイド・マーダーズ』というチーム名。 今日休んでいる人も含めて現在は18人在籍しているそうで、小学生時代の地元のガールズチームで一緒にプレイした仲間だったり当時は別のライバルチームの選手だった子たちをランちゃんが声をかけて集めて作った草野球のチームだと聞いていた。
ミヤビちゃんは野球のことは自分からはあまり話さないけど、ランちゃんが教えてくれた話では、ランちゃんが1番センター、ミヤビちゃんは3番サードで二人ともチームの主力らしく、チームメイトのみなさんの様子を見ていても、二人は一目置かれている様な印象を受けた。
早速グランドの中央で全員で輪になると、柔軟体操が始まった。
俺の隣にミヤビちゃんが居てくれたので、ミヤビちゃんを見て真似するようにして体操を続けた。
そしてペアでの柔軟体操に移ると、学校の体育等では必ず余るポジションの俺は、手持無沙汰感を誤魔化す為に一人で肩や脚を解す動作を始めたが、直ぐにミヤビちゃんが「あんみつくん、こっち」と声を掛けてくれて、俺とペアを組んでくれた。
体育教師以外の相手から声を掛けて貰ってペアを作れた経験が無かった俺は、胸にこみ上げるものが去来し、少し目頭が熱くなった。
だが、ペアになったミヤビちゃんは一切の容赦がなく、俺の感動はすぐに胡散し体は悲鳴を挙げ続けた。
柔軟体操を終えると既にヘトヘトになっていたが、休む間も無くランニングに移った。
グランド内を軽いペースで3周走り終えると、再び休む間も無くダンシュに移った。
ダッシュでは、一塁側から三塁側までの直線を全力で走るのを10本続けた。
ダッシュの3本目あたりから完全に他人を気にする余裕など無くなりへたり込んでしまったが、すぐさまミヤビちゃんに腕を掴んで立ち上がらされ、腰を下ろして休むことは許されなかった。
普段のミヤビちゃんは、俺の汗を拭ってくれたりデザートを分けてくれたりと、とても心優しいお嬢さんなのに、ユニフォームに着替えると人格が変わってしまうのか、全く容赦が無かった。
1時間程休憩なしで基礎体力訓練を続けると、漸く10分間の休憩となった。
みなさんは日ごろから鍛えているのか、まだまだ余裕がありそうだったが、俺は大の字に寝転び、動くことも
すると、ミヤビちゃんが水筒を持って俺の所にやってきた。
「あんみつくん用に用意したドリンク。飲んで」と言って、カップに注いだドリンクを渡してくれた。
上半身だけ起こして「ありがとう。喉が渇いていたところだったから助かる」と受け取り、それを飲んだ。
超マズかった。
俺がしかめっ面をしたのが分ったのか、「野菜ジュースで腸内環境の改善。今日からコーラの代わり」と説明してくれた。
「むむ?今日だけでなくて明日からもなのか?」
「うん。毎日用意するから飲んで」
「いやしかし、毎日は用意するのも大変だから、そこまでしなくても大丈夫だ」
「大変じゃない。好きでやってる」
「いやしかし、毎日じゃなくても」
俺が激マズ野菜ジュースから逃れようとなんとか逃げる糸口を探すも、ミヤビちゃんは頑なに俺に野菜ジュースを毎日飲ませることを譲らなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます