#15 ラブコメは目指してなかった




 3人とも食べ終えて、しばらく満足感に浸りながらお喋りを続けていた。


「そういやあんみつ、スマホの連絡先交換まだでしょ?」


「その、すまないが、俺はスマートフォンを持ってないんだ」


「そうなの?ミヤっちと一緒じゃん。 あ、でもガラケーは?」


「携帯電話はどれも持ってないんだ。何せ連絡する様な相手が居なかったからな。持っててもお金の無駄使いになってしまうし、パソコンが有れば特に困ることは無いからな」


「私と同じ」


「じゃあこれからは私たちと連絡取るかもだし、買ったら?」


「うーむ。 やはり持ってた方のが良いのだろうか?でも高いのだろ?」


「色々だねぇ。高いのも安いのもあるよ。今度見に行く?」


「いや、ちょっと考える時間が欲しい。 多分お年玉貯金で何とかなるとは思うのだが」


「あんみつくんが買うなら、私も買う」


「むむ。そんなに責任重大な決断を俺に背負わせると、後で後悔してしまうぞ?」


「大丈夫」ふふふ




 お喋りをしていると、店員さんが食後のデザートを運んで来て、空いた皿を下げてくれた。


 俺が自分のコーラを飲み切ってしまいお代わりに行こうか迷っていると、ミヤビちゃんに「あんみつくん」と呼ばれたので隣に座るミヤビちゃんに顔を向けた。


 ミヤビちゃんは、ティラミスを一口分乗せたスプーンを俺に向けていた。


「デザートも分けてくれるのか。ありがとう」と言ってスプーンごと受け取ろうと手を伸ばすと、ミヤビちゃんは首を横にブンブンと振った。


「むむ?違うのか? どうすればいいんだ?」


「あーん」


 俺の質問に対してミヤビちゃんは、お手本を見せるかのように口を開けていた。

 つまり、食べさせてあげるから口を開けろということか?


「待ってくれ、俺も高校生だ。流石に自分で食べられるから、赤ちゃんみたいな真似は恥ずかしくて無理だ」


「あーん」


「いや、だから」


「腕疲れる。早くあーん」


「むむ・・・では、あーん」


 生まれて初めて食べたティラミスの濃厚な甘さが口の中に広がり、その美味しさに驚くと同時に、スプーンを俺の唾液で汚してしまったことに気が付いて、「すまない。スプーンを汚してしまったから、店員さんに頼んで交換して貰って来る」と慌てて席を立とうとすると、ミヤビちゃんにシャツを掴まれ「行かなくていい。このまま使うから大丈夫」と座る様に言われた。


 その後、ミヤビちゃんはご機嫌な様子でティラミスを自分と俺の交互に食べさせていた。

 そしてその間ランちゃんは向かいの席に座ったまま先ほどの様なニタニタした表情で俺たちを見ていて、俺は物凄く居心地が悪かった。




 デザートの後も1時間ほどお喋りをしてからお店を出て、昨日と同じように一緒の電車に乗って地元まで帰り、ミヤビちゃんの家の前で解散した。




 ◇




 翌日も昨日と同じように駅の改札でミヤビちゃんが待っていてくれたので、学校まで一緒に登校した。


 学校では昨日の朝の様なトラブルは無かったが、あとは全く同じ様に過ごした。

 それ以降も同じような日々が続いた。



 ランちゃんやミヤビちゃんという友達が出来てからのこの数日、俺は高校生らしい青春を謳歌していた。

 同級生の女子と青春するなんて、まるでラブコメの主人公の様だ。


 そこでふと気が付いた。


 俺が目指していたのは、ラブコメじゃない。

 成り上がってみんなから讃えられる様なヒーローだ。


 このままで良いのだろうか?


 いや、だって、俺の特殊スキルを使って華麗に問題解決出来るような状況が起きないのだから、どうすることも出来ないんだ。

 平和が一番なのは分るが、このままだと俺は汗かきぽっちゃりなただの男子高校生のままだ。


 どうするべきだろう。




 そこで、俺の中で保護者認定済のランちゃんに休憩時間を利用して相談してみた。



「ランちゃんに折り入って相談があるんだが」


「え?私に?珍しいね、あんみつから相談なんて」


「まぁそうだな。 だが自分でもどうして良いのか分からなくてな」


「それで、なんの相談?」


「実は、二人と友達になってから毎日が楽しいのだが平和過ぎてな。このままだと腑抜けてしまって、俺はただの汗かきぽっちゃりさんのままで終わってしまうのでは無いかと不安で」


「そんなこと悩んでんの? 答えなんて分かりきってんじゃん」


「なに?そうなのか? 俺には全然分からなかったんだが、是非その答えを教えてほしい」


「ピザとコーラ止めたら? ピザを毎日3枚以上食べてコーラは1.5リットル1日1本丸ごと飲むとか、そんなんいつまで経っても痩せる訳ないじゃん。汗かきなのも絶対コーラのせーだし!コーラ止めれば毎日ファブリーズする必要無くなるの分かりきってんじゃん!」


「あ、いや、そうではなくて」


「っていうか、マジ痩せろ。なんだったら私とミヤっちの二人であんみつのスパルタダイエット始めようか?元ガールズの本場のシゴキ、まじヤバイかんね?」


「ちょっと待ってくれ、俺が言いたかったのはそういう意味では無くて、華麗に活躍をすることで今までの俺のイメージを変えるつもりなのにそのチャンスが無いって話であって」


「ごちゃごちゃ言い訳すんなし。よし決めた! ミヤっち~!コッチ来てよ!」


 ランちゃんに呼ばれたミヤビちゃんは俺たちの席のところまで来ると「全部聞こえてた。あんみつくんは今のままでいい。痩せる必要ない」と言って俺に背を向け、まるで俺を守るかの様にランちゃんの前に立ちはだかった。




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