第44話 ダンジョンマスターへの挑戦・上

 今回挑むダンジョンは翆瓏閣すいろうかく皇宮水籠庭園こうぐうすいこていえん

 ランクはBランクだ。

 今回はダンジョンマスターを倒すことが目的だからダンジョンマスターの攻撃パターンも含めて相性がいい場所を選んだ


 ここは湖の中の中華風庭園のダンジョンだ。皇帝の離宮、という設定だったような気がする。

 湖の真ん中に浮かんだ中華風の東屋の下に硝子ガラスの回廊が伸びてるという構造だ。


 硝子ガラスでできた透明な壁の向こうには、差し込む太陽の光に照らされて優雅に色とりどりの魚が泳いでいる。水族館のようだ。

 中華風の赤い文様が透明な壁と水の青に鮮やかに見える。


 そして壁が透明だから水の中を走っているように感じる、ミッドガルド屈指のきれいなダンジョンだ。

 難易度はさほどでもなく、構造は比較的単純で道幅も広いから敵を避けやすい。

 

 最深部、ダンジョンマスターの間は15階層。

 目標タイムは50分と宣言してスタートしたが、今は30分12秒だ。


 今回はダンジョンマスターとのバトルを想定していたから、目標タイムも余裕を持たせた。

 確かRTAの世界記録は34分17秒だから、そっちの記録更新は無理だな。


 ダンジョンマスターの間の扉である文様が描かれた丸い扉の前でいったん止まった。


「改めて確認する……今からダンジョンマスターと戦う。いいな?」

「ここまで来て何今更言ってんだよ、アニキ」


 アストンが呆れたように言ってオードリーがその横で小さく笑った。


「それにさ、ボクたちだってやりたいんだよ、アトリ。

アトリだけじゃなくて、ボクたちだってすごいってことを証明したいんだ。怖いけど……そういう気持ちもあるんだよ」


 マリーが力強くいう。


「オードリーとの結婚式のときに勲章は多いほうがいいからな。ダンジョンマスターを討伐したアタッカー。いいと思わないか、アニキ」

「そのワードは……死亡フラグっぽいからやめてくれ」


 この戦いが終わったら結婚するんだ……は色々とヤバい。


「それにさ、あの人に負けてらんないもんね」


 マリーが言う。ロンドのことを言ってるんだろうな。

 流石のあいつもまだ単独でダンジョンマスターに挑むなんてことはしていない。

 ここで俺達が倒せば先を越せる。


 RTAのいいところはダンジョンマスターまでの消耗を極限まで抑え込めることだ。

 今回もほぼ戦闘を避けたから、無傷でダンジョンマスターに挑める。


「いいか、ここのダンジョンマスターは虎咬フージャオ。でかい魚だ。

武器はかみつきとタックル。あと、魚のくせにしっぽがあるからそれの薙ぎ払い。デカい割には早いぞ。アストンは前衛だ。注意してくれ。

あと攻撃には毒がある。マリーは回復と解毒を最優先で頼む。オードリーはひたすら攻撃魔法だ。雷撃系でいけ」

「分かりました」

「任せてくれよ」


 虎咬フージャオはまるで水の中にいるように空中を泳ぐ魚だ。

 全体的にはずんぐりした魚のような見た目だが、尾びれの部分が長く尻尾のように伸びている。


 直接攻撃のみで、範囲攻撃とか飛び道具とかの特殊攻撃はないから決してダンジョンマスターとしては比較的与しやすい。

 とはいえデカい分しぶといし攻撃力は侮れない。


 ゲームならダメージを受けてダウンしても起き上がればいいだけだが、こっちではそうはいかない。


「しかし……本当によく知ってるな……アニキ」

「まあな」


「戦ったことあるのか?」


 ミッドガルドではRTAでも普通の攻略でも何度も倒したし、動画でも何度も見た相手だ。

 実物と戦うのは初めてだが。

 

「無いといえば無いしあるといえばある……だが攻撃パターンは間違いない。信じてくれるか?」


「勿論ですよ、アトリさん」

「今更何言ってんだよ、アニキ」

「アトリがすごいのなんてわかってるもん。昔、異世界から来た勇者様の物語を聞いたけど、そんな感じだよね」


 マリーが言う

 まあそれは間違ってない気もする。俺は転移してきた側だからマリー視点だとそうだよな……俺は勇者なんかじゃないが


「やってやるぜ!闇を裂く四つ星の力、見せてやる」

「頑張りましょう!」 

「勝つよ!」

「よし、じゃあ行こうか」


 それぞれが気合の声を上げる。

 ダンジョンマスターの間の扉の中央の取っ手を引いた。 

 

 丸い扉のあちこちからゴトゴトと機械音が聞こえて文様が螺旋を描くように動いた。

 部品がばらけるように扉が開く。この辺の演出はミッドガルドと同じだな

 アストンが気合を入れるように脚で地面を蹴りつける。

 

 丸い球状の金魚鉢のようなガラスでできた部屋の中には、一匹に魚が浮いていた。

 赤黒い斑の鱗の魚がくるりと空中で身を翻す。平べったい巨大な頭がこっちを向いた。


 ゲームの中でもなかなか迫力があったが、実際に見てみるとそれ以上だな。

 ただ、この世界で何度も戦っていい加減俺も慣れてきた。


 行くぞ!

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