第10話 初アタックの終わり

 大き目の部屋に辿り着いた。

 そこここに壊れたハンマーやトロッコの残骸とボロボロになった鎖、それに石炭らしき黒い石の欠片が転がっている。


 目の前には木でつくられたエレベーターのような昇降装置があった。

 ここが15階層のゴールだ。この下までいけば16階層突入となる。


 使い魔ファミリアの持っている鏡のようなものを見ると、表示されている時間は13分22秒。

 これで目標クリアだ。


「宣言通り15分以内で15階層攻略です」


 使い魔ファミリアの方を見て言う……反応が分からないのは相変わらず不安だ。

 視聴者数くらいは分かるといいんだが。


 ……これが一人とか0とかになってたら、まるで虚空に向かってしゃべってるようでそれはそれでショックなんだよな……これも経験はある。


「さあ、どうする?」

「まだいけるか?オードリー、それにマリー?」

「大丈夫」

「ボクも平気だよ」


 アストンたちがこっちを向く


「アトリさん、まだこの先も行けますか?」

「ああ、任せとけ」


 やる気十分だな。デビュー戦は派手な方がいいに決まってる。

 使い魔ファミリアの方を見る。


「ちょっと予定より早く着いたので、この先までいってみます。応援よろしく!」


 使い魔ファミリアに一声かけてアストンたちの方を見る。


「行けるところまで行くぞ!」

「おうよ!」

「はい!」


 16階層に降りてまた走り始める。

 まっすぐ最短距離を走っていたら、通路に立ちふさがるモンスターの姿が見えた。

 二つの首を持つ黒い巨体の犬。ヘルハウンドだ。


 最短ルートを塞がれた。戻ると時間をロスする。これだけは避けられない。

 だが、こういう時の捌きがミッドガルドのRTAの腕の見せ所だ。


「無理に戦うな!倒すのが目的じゃない!」

「分かってる!」


 通路を塞ぐヘルハウンドが首を持ち上げて胸を張るようなモーションを起こした。火を吐くときの動きだ。

 だがこっちの方が早い。サイトを併せて銃弾を二発撃ちこむと、火を噴くモーションが止まった。


 もう一発、と思ったが、ヘルハウンドの脇を走り抜け際にマリーチカとアストンが一太刀ずつ浴びせた。

 動きが止まった横をオードリーが姿勢を低くして走り抜ける。


 その後ろから俺も駆け抜けた。

 そして振り向いてヘルハウンドにもう一発。方向転換しようとしていたところにヒットしてヘルハウンドの動きが止まる。

 後ろから追いかけられると面倒だ。


「ねえ、今みたいな感じでいい?」

「完璧だ」


 一番足が遅くて物理攻撃が出来ないオードリーがヘルハウンドに足止めされるというのがネックだったが……アストンとマリーチカはよくわかってるな。


 その後は大してアクシデントもなく順調に階層を降りることが出来た。

 マップも覚えていたとおりで、違いはなくて助かった。

 

 さっきと同じような小部屋にたどり着いた。20階層のゴール地点で18分58秒。悪くない記録だな。

 ヴェスヴィオ炭鉱跡は深奥は35階層でそこにダンジョンマスターの黒曜石オブジダンゴーレムがいる。

 

「ここ20階層なんだよな……」


 アストンが不安げに言う。

 初トライで20階層だ。それに15階層と違って少し薄暗く天井が低くて圧迫感がある。

 ゲームの画面で見ているのとは違う、えも言われない圧力を感じる。


「……ここまでにしておくか?」

「そうですね」

「ボクもちょっと怖い」


 アストンたちが頷き合った。俺一人ならダンジョンマスターの所まで行ける。

 こいつらもいけるかもしれないが、RTAの顔見世としてはこんなもんだろう。


 それに、この先はゴーレムが中心で敵が硬くなる。

 足を止められての戦闘になるとRTAの醍醐味であるスピード感が失われるし、万が一逃げられない状態で敵と正面衝突すると全滅しかねない。


「じゃあ戻るか?」

「そうしましょう」


 アストンが安心したようにため息をついた。

 初回ならこんなもんか。


 個人的には不満な点がある。

 普通なら自分がそのルートを走る意図とかを実況しながらやるんだが……始めてのリアルなダンジョンはゲームのグラフィックがどれだけリアルであっても全く勝手が違った。

 それにアストンたちに指示をださないといけないから、そこまでやる余裕はなかった。


 エンタメというか視聴者へのアピールと言う事を考えればもっといろいろ喋るべきだったな。

 この点は俺も改善が必要だ。

 

 使い魔ファミリアの方の方を見て手を振る。


「15分で15階層のつもりでしたが、ちょっと行き過ぎて20階層まで来ました。今日は此処で撤退します。

俺達のアタックはRTA……ダンジョンに潜るときに一秒でも速く深くまで行く、スピードを重視するスタイルです」


 そう言ってアストンたちに目をやる。


「気に入ったらまた見てください」

「ありがとうございました」

「ボク達を応援してくださいね」


 アストンとオードリーが緊張した感じでたどたどしくゴーレムに向かって頭を下げる。

 マリーチカは割と明るい。性格の差だな。 


「じゃあこれを」


 アストンがスクロールを広げると白い魔法陣が浮かんだ。

 脱出のスクロールか。全員が魔法陣に入るとまるでエレベーターが上昇するような感覚があった。

 

「上手く行きましたね」

「ボク達頑張ったね」


「ああ」


 アストンの言葉に返事を返す。確かに目標はクリアした。

 ただ、これがウケたかどうかは不安は残る。


 普通なら視聴者の数やテンションはコメ欄を見てれば分かるからが、それがないからわからない。

 こればかりは出て、直接視聴者の姿を見てみないと分からない。



「お疲れ様でした。無事の帰還、おめでとうございます」


 脱出のスクロールの光が消えると、ヴェスヴィオ炭鉱跡の入り口に戻ってきていた。

 近寄ってきた係官が淡々と答えてくれる。

 

 係官の反応で何かわかるかと思ったんだが……こいつは中継を見てないんだろうか。

 

「この後はどうするんだ?」

「ギルドに行って報奨金の清算をしてもらいます」


 アストンが教えてくれる。

 報奨金なるものは、多分視聴者数に応じてもらえるんだろう。

 一回ごとのアタックで清算してくれるのか。収益化ラインとかはないんだろうか。


「ドキドキするね」


 マリーチカが不安そうに言う

 それは俺も同じだ。配信の結果が分からないのはかなり怖いぞ

 アストンたちの前では言えないが……まったくみてもらえなかった……なんてことも十分にあり得る。

 

◆ 


 酒場からは賑やかな話し声が聞こえてきていた。

 アストンが深呼吸して酒場の開ける。


 目の前のテーブルに居た三人組が俺達をまじまじと見た。


「おお!」

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