2章 トップアタッカーへの道

第14話 幕間・星空の天幕亭のある日・3

ファルミーガの営巣、25階層29分35秒。際どい所でしたけど目標クリアです』

『楽しんでもらえましたか?』

『また来週も同じ時間にやります。見てくださいね』


 そう言って画面の中の4人が脱出のスクロールを使った。

 息を詰めて画面の前でたむろしていた60人ほどの客が、呼吸することを思い出したように息を吐く。

 同時に拍手が起こった。


「今回は無理だと思ったぜ、25階層30分だぜ」

「信じられん速さだ。理解できん」

「とりあえず女将さん、ビールくれ、喉が渇いた」

「俺はツマミも欲しい。負けた奴払えよ」


「はいはい、ちょっとお待ちよ」


 グレイスが言われるままにビールを次々と注ぐ。

 洗い場には大量のビールジョッキと汚れた皿が置かれていて、手伝いの店員が大慌てで洗っていた。


 店は60人ほどでほぼ満員だ。

 アストンたちのパーティは3回目のアタックでこれだけの客をすでに集めている。

 客が集まれば店も潤う。


「あの速さは理解できん。というかなんで道を間違えない?」

「レアスキルでMAPが全部わかるとか?」

「いや、そんなスキルなんて聞いたことないぞ」

「だがそれ以外に説明できるか?」

「分かんね」

「しかし、何が面白いかってなぁ、あの息が詰まる感じだよな」


 そう言って客が頷き合う。


「あと1分ってところじゃ俺は心臓止まりそうになったよ」

「俺もだ」


 そう言って客が笑い合う。話の輪の中にはマーカスもいた。


「しかし……お前等、俺に感謝しろよ」


 マーカスがビールのジョッキを煽りながら言う


「何がだ?」

「おいおい、忘れてるようだな。あの日、あいつらのアタックを見ようと言ったのは俺だぞ。俺が言わなかったらストレージの映像を見ていてあいつらのことは見なかったろ」

「だから何だ?」


「もし俺が言わなかったら、あいつらのアタックは誰にも見られず消えたかもしれないわけだ」


 仰々しい口調でマーカスが言う。


「何が言いたいんだ?」

「つまり……あいつらは俺が育てたと言っても過言じゃない」


 マーカスがふんぞり返りながら言うが。


「調子に乗るなコラァ!」

「舐めんな」

「勝手なこと言ってんじゃねえぞ」


 一瞬の沈黙の後に楽し気な罵声が飛び交った。

 皿と木の器が宙を舞う。


「ふん、なんとでも言え」


 アタックを見るのが趣味の連中にとって、若い才能を見出す目利きであるというのは自慢のタネである。


「よし、じゃあ女将さん、いいか?」

「なに?」


「さっきの俺の勝ち分、52,000クラウンを全部チアメニューにして皆に振舞ってくれ」


 マーカスが言って周囲がどよめいた。

 チアメニューはこういう酒場が独自に用意する食事や酒のメニューだ。


 少し割高で、客が払った料金の一部がアタッカーへの報酬となる。

 有名なパーティは単なるアタック以外にこのチアメニューの売上がかなり大きな副収入になる。


「おいおい、本気かよ」

「マーカスの奢りだってよ」

「マジか?」

「ごちそうさん!」


 店内にひと際大きい拍手と歓声が上がった。


「何ってったって俺の推しだからな、どうだ」

「サンキュー。これなら推しとか言ってもいいぞ」

「俺が育てたとか言っても許す」

「はいはい、ちょっとお待ちなさいよ。準備するからね」


 








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