第27話 トップアタッカーとのコラボ・上

 8回目の配信はロンフェン水道橋。水が常に流れる石組みの四角い通路が続く殺風景なダンジョンだ。

 定期的に水が流れてきて押し流されると大幅タイムロスになる。


 物理的な最短ルートと水流のパターンも加味した最短ルートが違うのがここの面白さだ。

 記録を争う走者ごとに攻略パターンが違うというRTAでは珍しいステージであり、個性が出る。


 最悪なのは戦闘で足止めを食らったところで水流にやられるパターンだが、戦闘そもののを避けるRTAではこの辺はあまり関係が無い。

 目標を達成して今回のアタックも成功裏に終わった。

 


 8回目の成功を4人で祝っていたら余計な奴がやってきた。


「ふん、少しは調子が良いようだな」


 ミハエルたちだ。久々に会ったな。


「だが、いいか。お前らのようなやり方は所詮物珍しさで受けているだけだ」


 まあバトルがメインのこの世界のアタックでは珍しいとは思うが、RTAは世界でも人気を博したプレースタイルだ。

 根源的な面白さがあるから一大ジャンルを築いた。


 断じて物珍しさだけで受けているわけじゃない……と言いたいところだが。

 日本のことを話しても分かるはずもないし、そもそも分かってもらう必要もない。


「調子に乗るなよ。アタッカーとはそんな簡単なものではない」

「分かったから、そういうことは称号の一つでも取ってから言ってくれ。俺達はもう取ったぞ」


 軽く言い返すとミハエルの顔が引きつった。

 初めて会った時はともかく、今はアタッカーとしてはこっちのほうがかなり上だぞ。


「いいか。アタックは王道を行くのがいいのだ。それが視聴者を引き付ける。つまり俺たちのような、そういうスタイルだ。

あと数か月も立てばそれが分かるだろうよ」


 ミハエルがグダグダと言っているが、さっさとどっか行ってくれないものだろうか。飯が不味くなる。

 そう思っていたら、店の入り口のスイングドアが開く音がした。


 新しい客が来たらしい……同時にそっちの方からどよめきが上がる。

 入り口のほうに目を向けると、二人組の姿が立っているのが見えた。



 入り口の方に立っていたのは黒い革鎧に身を固めた背の高い男だった。

 少し伸ばした黒髪を後ろでポニーテールのように束ねている。俺よりは少し年上っぽい。

 背中には青く輝く弓と矢を担いでいた。着ている鎧もレア度が高いのが見て取れる。

 

 その後ろにいるのは女だ。

 流れるような肩くらいまでの髪に知性を感じさせる顔立ち。

 臙脂色のローブに白く輝く杖を持っていた。この装備もレア度が高そうだ。

 二人ともアタッカーだな。


「……カイエンと……イシュテル?」

「本物?」


 周りから声が上がってアストンたちが固まっている……俺的には聞いたことのない名前だ。顔だけは何処かで見た気もするが。

 ただ、装備と立ち居振る舞い、それと周りの反応を見る限り名の知れたアタッカーだろうというのは分かる。


「おお、あなたは真理に迫る松明のカイエンじゃないか」


 ミハエルが大げさに言ったところで思い出した。

 そういえば初めてアストンたちと見たアタック配信で出てたのは、真理の迫る松明と言う名前だったな。


 ミハエルが親し気にカイエンに歩み寄っていく。

 知り合いとかなんだろうか。


「あんたのことは知っているぜ。カイエン。

俺の名はミハエルだ。この街では注目のアタッカーであり、貴族であるエレファウス家の……」

「すまない。今日は時間が無いんだ、今は遠慮してもらえると嬉しい。

ファンならこの後に夜明けの渡り鳥亭に来てくれ。サインするよ」


 カイエンとやらがミハイルと握手をして軽く肩をたたく。

 どうやら知り合いとかではないらしいな……気まずそうなミハエルをそのままにして、二人が周りを見回す。

 二人が何か言葉を交わしてこっちに向かって歩いてきた。

 

「やあ、君達が‘‘闇を裂く四つ星‘‘のパーティで間違っていないかな?」



 声をかけられたアストンが固まっている。マリーチカとオードリーも同じだ。

 三人とも受け答えできる状態じゃないな……仕方ないか。


「間違ってない」


 俺が答えると男が笑って会釈してくれた。


「俺はカイエン。真理の迫る松明のリーダーを務めている。クラスは夜警ストライダー

「私はイシュテル。クラスは司教ビショップよろしくね」


 二人が名乗ってくれる。

 そう言えば真理の迫る松明っていうパーティはあれだ、この国のトップアタッカーって話だったな。どっちも上位クラスだ、


 黒水晶の迷宮でのアタックをここで見たのを思い出す。

 トップクラスのパーティと言うだけあって見事な戦い方だった。


「君達のアタック、見せてもらったよ。斬新で、実に素晴らしい」

「今日はアルフェリズのお店に呼ばれたんだけど……貴方たちに会うのも目的だったのよ。此処にこれば会えると聞いていたから、会えてうれしいわ」


 カイエンとイシュテルが言う。

 アストンたちはまだ固まっている。無理もない。この世界のトップアタッカーだ。それこそテレビの中でしか見ていないスター選手とかが目のまえに現れた感じだろう。


 しかし、こっちはまだ駆け出し、相手はトップクラスのはずだが偉そうな感じがしない。

 感じがいいというか紳士的だ。

 

 ただ、言葉の端々に得も言われぬ自信と言うか落ち着きというか、そう言うのが感じられる。

 RTAのトップクラスに似た雰囲気だ。 

 トップクラスはどこでも似たようなものなのかもしれない


「おい、ちょっと待ってくれ……あんた……こいつらに会いに来たってのか?」


 ミハエルがわが目が信じられないって顔で言うが


「その通りだよ。何かおかしいかい?」

「今や彼らは王都ヴァルメイロでも知られたパーティだからね。アタッカーとしては会いたいと思うのは自然でしょう?」


 カイエンとイシュテルが言った。

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