第12話 戦果と成果・上
「さっきのアタックしてた奴らだぞ」
「本当かよ」
「最高に楽しかったよ」
「凄かったな。あんなに速いアタックは見たことが無い」
次々と客が寄ってきて周りを取り囲まれた。質問が周り中から飛んでくる。
どうやらうまくいったらしいな……良かった。
「なんであんなに迷いなく行けたんだ?」
「まあそれは企業秘密だ」
「おいおい、けち臭いこと言うなよ。一杯奢るから言えって」
「ダメだ」
「仕方ねえな。だがお前たちのアタックを推したのは俺だからな。真っ先に俺に教えてくれよ。俺はマーカスだ」
がっしりした髭面の男が豪快に笑いながら言う。
全部のダンジョンとは言わないが、大体のダンジョンの最短ルートは覚えている。スキルじゃなく俺の記憶だ。
だから教えてといわれても、俺が覚えているとしか言いようが無いし、マネが出来る類のものじゃないんだが。
「お前らのアタック、面白かったよ。で、次はいつやるんだ?」
「リーダーに聞いてくれ」
アストンに話を振ったが、アストンが俺の顔を見て困ったような表情を浮かべた。
……サポートした方が良いか。
「1週間後のこの時間にまたやる。暫くはこの時間に毎週って感じでいくつもりだ」
「よかったらまた見てください」
マリーチカがぺこりと頭を下げる
「いいな。思い切り宣伝しておいてやるよ」
「宣伝しないとちょっと人が集まりにくい時間だからな」
とりあえずルーキー配信者のセオリーは定期的に定時に配信することだ。
毎日更新とかが出来れば理想だ……ただ、web小説やゲーム実況とかではそれも可能かもしれないが、こっちは生身でやるから無理だろう。
戦闘で消耗しない分、RTAスタイルなら頻繁にやれるかもしれないが、今は無理をしない方が良いか。
とはいえ、毎日でなくても確実にこの時間に配信していることが分かれば固定客が付いてくれる可能性は上がる。
いわゆる視聴者が見やすい時間の配信では、新人は他で埋もれてしまうが、少しずれた時間でも定期的にやれば固定で見に来てくれる人はいる。
一度固定客が付いてくれれば、多少時間の枠が悪くても挽回できる。
「ありがとう、助かるよ」
「まかせとけよ。市場の仲間たちに教えておくぜ」
こういう口コミは大事だ。
特にこういう世界ではそうだろうなと思う。SNSで一発でバズるなんてことは無理だろうしな。
それに、インターネットとSNS全盛の世の中でも口コミの威力はかなり大きかった。
なんだかんだで面識があって信用できる奴が推してくれるのは効果が大きい。
「で、次はどこに行くんだ?」
「そう、それだよ。それが聞きたかった」
ビールを片手にした客が聞いてくる。
アストンの方に目をやると、アストンが頷いた。俺が答えていいらしいな。
何処にするかと頭の中でミッドガルドのダンジョンを思い出す。
世界記録を出した水没都市フレグレイ・ヴァイアほどではないが、他のダンジョンも最短ルートは大体覚えている。
何処が良いかと思ったが。
「ハイドラの巣穴。30分で28階層を目指す」
「おい、マジかよ?」
「あんなごちゃごちゃしたところでか」
「30分っていくら何でも無茶じゃねえか?」
ハイドラの巣穴はBランクダンジョン。昆虫系モンスターの出現が多いダンジョンで枝道も多い。
ただ、昆虫系モンスターは強くないし動きが単純でパターン化されている。
下手を打って乱戦にならなければタイムが伸びやすい。
枝道も多いが最短ルートは覚えている。
俺の記録は確か25分ほどで32階層だ。まあ何とかなるだろう。
「上手く行くかは見てのお楽しみってことで」
「おし。楽しみにしてるぜ」
「良いもん見せてくれてありがとよ」
「こちらこそ。見てくれてありがとう」
「またよろしくお願いします」
客と言葉を交わしつつ星空の天幕亭を出た。
アストンとオードリーが見つめ合って頷き合う。ようやく実感が出たって感じか。
俺も少し緊張がほぐれた。
「すごいよ、アトリ!」
マリーチカがギュッと抱き着いてきた。柔らかい体が密着する。
……こういうのもゲームでは味わえない感覚だな。
◆
「で、この後は?」
「ギルドに行ってアタックの報酬を貰うんです」
アストンが説明してくれる。
月一とかの一括振込ではなくて、配信終了後に即金で清算なのか。
話をしている内にギルドについた。ここに来るのはたった数日ぶりだが……アタックが上手く行ったからか随分違って見える気がする。
最初に来た時は少し威圧的に感じた建物も、今は重厚で歴史ある名建築って感じだな。
ホールは吹き抜けになっていて、高い天窓から明るい光が差し込んできている。
それなりに人がいて思い思いに話したり壁の張り紙を見たり、受付で何かを話していた。
なんとなく日本の市役所とかを思わせる。
入ってアストンが深呼吸するとまっすぐに一つのカウンターに向かって歩いて行った。
あそこが報酬清算の窓口なんだろうな。
隣ではオードリーとマリーチカがこわばった顔でアストンの後姿を見ている。
「アストンです。アタッカーコードは2985」
アストンが言って受付の女の子がコードを確かめる。登録IDみたいなもんだな。
「ではしばらくお待ちください」
受付嬢が言って奥の机の方で書類を確かめながら別の係員と話をしているのが見えた。この辺も地球のお役所に似ている。
アストンの後姿からも緊張感が伝わってきた。
地球の動画配信みたいに視聴者数や再生数がそのまま可視化されて、収益が大体読めるのとはわけが違う。
さっきの酒場の反応を見る限りそれなりに受けたようだが、どの程度の稼ぎになったのかは分からない。勿論俺にも分からない。
アストンがこっちに戻ってきたところで。
「おやおや。これはこれは、アストンじゃないか」
後ろの入り口の方から聞き覚えのある嫌な声が聞こえた。
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