第18話 結論編 長電話

「何か・・・本当に色々あった一年だったわね」

 クリスマスも過ぎ、町内会長夫人は一人呟いた。夫は数時間すれば帰って来るが、最近は努めて彼女達の話をしないようにしている。日本の彼女達、そう、研究者の彼女も戻ってくることは無く、彼の方は論文が認められ、より良い職場を得ることが出来た。

「今、人手がいるというので、行こうと思っています」

「きっと彼女とも会えるわ、それまで頑張って」

「ありがとうございます」

そう言って冬の始まる前に送り出した。

だが一方で

「いやあ、クラブのホステスさんでね・・・・・とびきり美人がいてね、色も白くって・・・・」

区会の集まりで夫が聞いてきた話だった。その話の顛末は、他と全く同じだった。

「さあ、靴下を編むか、あと片方。50,60の手習いね」

道具を出そうとしたとき、電話が鳴った。落ち着いた、聞いたことのない男の人の声だった。

「すいません、私は私立探偵をしているRと申します」

「私立探偵? 」夫人は不快な感じの声を出した。それは先方も承知の上だった。

「実は私はある方から消えた色白美人の捜索を依頼されておりました。調査は終了したのですが・・・・・・」

彼女は先方の言葉を速攻に遮るように

「すいませんがこのことに関して、私はお話するつもりはありません。主人からも止められておりますので」

「そうであろうかと思います。あなた方が彼女のことを「一言も話していない事」も実は存じております。すいませんが最後に一つだけお聞きしても良いでしょうか? 」

「何でしょう」最後にとは、常套手段なのだろうと夫人は感じたが

「彼女達をどう思われますか? 海外にも環境関係の美人女性はいますが」

「雪の精ですね」

「え? 」

「雪の精でしょう、日本的に言えば雪女かしら。地球温暖化で雪が溶けて彼女達、まあ彼もいるでしょうが、その人達の存在が危うくなった。だから人間に化けて地球温暖化を阻止しようと活動したし、しているんじゃないですか? 」

きっと彼はあきれているのだろうと思い、夫人は「私はそう考えていますよ、それでは」と切ろうとしたので

「すいません! 待って下さい!! そのことを娘に話していただけませんでしょうか」

「え?? 」

その後、全くの赤の他人の二人は一時間ほど話した。程なく夫が帰ってきてそのことを伝えると、渋い顔をするかと思いきや


「お前が話せよ、俺は知らんぞ。怪力乱心を語るつもりはない」

「怖い話をユーチューブで聞くのに? 」

「あれはリラックス出来るんだ」

「訳がわからない」

「全部が本当であるわけないだろう? 虚々実々、それでいいんだ。とにかく女同士で話せよ」と言う夫に、ネットにあった、パルクールの大会の表彰式の模様を見せると

「へえ、可愛い子だな」

「話す? 」

「いい、俺はその日で出かける」

女二人で会うことにした。知らない高校生の女の子、ちょっと精神的に追い詰められた感じの子でも、楽しみになった。


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