生徒会長と対立して部活を追い出された俺、何故か3人の美少女たちに「私を次の生徒会長にして」と頼まれる!? ~美少女3人と「秘密の関係」を築いちゃいました~

赤田まち

第1話

「ライトノベルは文学だ!」

 

 静まり返った文芸部の部室に声が響き渡る。

 俺は俺の信条を、ありったけの熱意をもってしかるべき相手にぶつける。

 

 だが……


「でも文芸ではないな」


 鉄の女と呼ばれる彼女、佐々木原佐智子を動かすことはかなわなかった。彼女は俺の所属する文芸部の部長であると同時に、この九門谷高校の生徒会長。

 

 俺と部長はかねがね文学に対する解釈をめぐる論争を繰り広げてきたが今日ここに至って方向性の違いは決定的となってしまった。

 

 俺こと角館実篤はラノベを嗜みラノベを読みながらラノベ同好の士とだべる理想的な放課後を求めて入部したというのに。

 

 ふたを開けてみれば佐々木原部長の独裁だったではないか。俺のような一般的ラノベ好きに人権など認められないのである。


「待ってくれ! ラノベは古来よりある文芸の姿の一つなんだ。その起源は平安時代にまでさかのぼることができる。源氏物語なんかはその最たるものでイケメン主人公のハーレム結成物語という大衆に好まれるストーリ展開を――次巻を今か今かと待ち望んでいた人々の姿が見える見える」


 俺は勢いに任せて捲し立てる。


 これがこの自分を絶対正義と信じて疑わない部長を説き伏せる最後のチャンスなのだ。


 ほかの文芸部員たちはみな部室内のピリピリした空気に当てられて、本に吸い付くようにして顔を隠しながら、ときおりちらちらとこちらのやりとりをうかがっている。


「挿絵を含めたり、迎合されやすいキャッチーなストーリー、キャラクター、設定を組み込むことによって文芸をより大衆向けにアレンジしたんだ。文芸とラノベの関係はいってみればデスクトップコンピュータとスマートフォンのようなもので――」


「このようにライトノベルは文学の一形態として古来から現代まで受け入れられてきたのでありまして、それを認められないのはいささか器が小さいのではないでしょうか?」


「話したいことはそれだけか」


「であれば、我らが文芸部には貴様のその低俗な小説もどきは置けない。我々は文芸をたしなみより高度な議論をせねばならない。ちなみに私はライト文芸もモノによっては文芸とは認めない」


 ラノベを低俗な小説もどきとまでこき下ろされて黙っていられなかった。

 ポケットから退部届を取り出すと、勢いよく机にたたきつけた


「ああ、わかった! もうこれ以上あんたに付き合うのはこりごりだ! こんな部活こっちからやめてやらぁ!!」


 そう言って部室を飛び出した。そして真っ直ぐ職員室を目指す。部活動設立希望届を握りしめながら。



 こう俺は第二文芸部を立ち上げたのだった。

 





 それから六か月後、第二文芸部(以下、二文)は廃部の危機に瀕していた。


 部員:俺、以上! ……こんなはずではなかった。

 俺の目論見ではあの佐々木原独裁政権下の文芸部に窮屈している同志や、ラノベ同好の士が集ってくれるはずだったのだ。


 なんでだ? みんなラノベ好きだろ? 


 今時ラノベはマイノリティの読み物だなんて言う輩はおるまい。

 リアルに満足している人種であってもそれこそ持つもの余興みたいな軽い感じで触るもんだろ。

 

 ライトノベルの色とりどりの背表紙がずらりと並べられた本棚のほかに傷だらけの机、背もたれの木の皮のはがれた椅子がぽつんと物寂しく置かれているだけの小部屋、元は第二地歴準備室だったこの場所が二文の部室だ。

 

 俺は読んでいたラノベを本棚に戻すと椅子に腰掛け、何をするでもなく思索にふける。


「これからどうすりゃいいかなぁ……」

 

 部員が増えなくとも俺一人がこの楽園を謳歌できれば御の字だったのだが、そうも行かないのが現状である。

 部員も一人だけ、実績なし、その上生徒会に目をつけられてしまったのだ。

 

 佐々木原佐智子が生徒会長に就任し、徹底的な構造改革して以来、生徒会はこの九門谷高校において絶対的な権力を行使できる機関と化した。


 彼女の生徒会長としての仕事の冷徹ぶりと徹底ぶりは、鉄の女という畏怖を込めた呼び名を拝命するほどだった。

 

 けど自分の厳格な姿勢を全校生徒に求めるのは好かない。

 高校生なんだし、もっと肩の力抜いて生きても良いはずだ。


 すでに生徒会の圧力で予算カットされている始末だし、俺が文芸部長であり生徒会長、この学校における絶対的権力者の佐々木原佐智子に逆らったことは学校中に知れ渡っている。

 

 部員が増えない本当の理由は理解している。

 誰もが生徒会を恐れているのだ。

 二文は学校にできた膿であり、誰も関わり合いになりたがらない。 生徒会は絶対、生徒会の定める規則に逆らうなというのが学校の空気となっている。俺自身若干避けられているフシがある。

 

 もっと言うなら、生徒会長の勘気にふれることを恐れているのだ。

 その佐々木原も次の生徒会選挙で変わる。独裁者は消え去るのみ! ビバ・デモクラシー!! 

 

……だが生徒会が入れ替わったところで二文の処遇が変わる未来は見えなかった。 

 

 ちらりと時計を見やる。針はちょうど16時を指していた。

 

 今日、歯医者の予約を入れていたことを思い出した。まだ時間に余裕はあるがここにいてもどうせやることはない。


「帰るか」

 うだうだ考えていても仕方ないと割り切って部室を後にする。

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