第7話 基本興味ない

刃銀はがね!?」


「うわっ、咲水さみ?」


「あ、この人が?」


 彼女といちゃいちゃしながらイブイブデートの終わりに朝まで過ごすラブホの部屋を物色して楽しい気持ちやったのに、エレベータから降りてきた女の顔見てちょっと萎えた。


 2ヶ月くらい前に別れた元カノの朝風咲水あさかぜさみがそこにおった。


 その横におる男は多分、例の浮気相手かな。

 浮気したんは嘘やったとかなんとか言っとったけど、やっぱヤッとったんやん。真っ黒やん。


 俺の気持ち試してきてるだけかと思ったらガチでヤッとったんかい。

 あ、いや、俺と別れてから付き合い出したって可能性もあるか?

 どっちでもいいけど。


 下手に絆されんでよかった〜。

 しかも、おかげさまで今はイイ人と付き合えてるわけやし、ある意味感謝感謝〜。


 別れたばっかんときはまぁまぁ落ち込んだし、恨みつらみもそれなりに感じてたけど、今となってはかなりフラットやし。

 いやフラットは嘘ついたかな。ちょいウザくて顔拝みたくはないけど、まぁその程度、って感じ。


 にしても、なんで咲水はこんな睨んできてんの?


 と思ってたら咲水がしゃべりだした。


「あんた、その子誰よ」



 横の男の腕にしがみついてた手ぇ放して、威嚇するように低い声で話しかけてくる咲水。

 いやぁ、こわいこわい。


 答える義理もあれへんし、しゃべんのもめんどいけど、このままやったら通してくれへんのかもなー。

 別れた後までこれとか、まじでやっこいやつやなコイツ。


「誰って、彼女やけど?」


「はぁっ!? 何開き直ってん! あんたそれ浮気やってわかってんの!?」


「はぁ?」


 まじで何言っとんのこいつ。え、もしかしてここ笑うとこ? ちゃうよな?


 意味わからん誤解されるようなことぬかすなって。万が一にでも彼女、薄雪茅種うすゆきちぐさに誤解されて捨てられたらダメージでかすぎるんやけど。


 茅種ちぐさは、咲水みたいに変な試し方してけぇへんし、急に不機嫌になったりしてデートがおもんなくなることもない。

 いっつも素直な気持ちを伝えてきてくれて、怒るところは怒る。言うべきことはちゃんと言ってくれる素晴らしい女性や。


 俺は間違いなくこの子のことを愛してる。


 それにここまで、お互いにwin-winな関係を築けてると思ってる。

 不覚にも咲水の本性に気づかんと入れ込んで、俺から一方的に求愛してた昔とはちゃうんよ。


 大学はちゃうけどバイト先一緒で同い年。大学1回のときから知り合いやし、気心も知れてて仕事でも一緒におれてバッチリ。

 好き嫌いとか性格的にもかなり似てると思う。


 思考が似てたりすること、穏やかな人と付き合えることがこんなに精神的に楽で満たされるもんやってことに、茅種と付き合いだして初めて気ぃついた。

 中学高校時代に付き合ってたときも、こんなに安心感のある付き合いはしたことなかった。


 そういう部分も含めて、茅種のことを愛してるし、自分も茅種に返して行きたいって思ってる。


 咲水と別れて落ちとった俺に猛アプローチくれてめっちゃ嬉しかったし、おかげですぐ立ち直れたわけで、感謝しか無い。

 ただ、1回のときから俺のこと好きやったらしくて、咲水と付き合いだしてショックを受けたって言ってたし、その申し訳無さがある。


 そんな中、その元凶の1個である咲水と会ってもうて、茅種は嫌な気持ち思い出したりしてるかもしれん。

 しかも茅種は結構ピュアなとこあるし、そんな子に変な誤解生むようなこと言うて変に信じてもうたりしたらどう責任とんねん。


 ってか、咲水よ。この女、しょーもない嘘ついてどういうつもりやねん。

 自分のせいで別れたのに、俺のこと逆恨みでもしてんのか?


 自分の男横におるんやから適当に無視しろよ!

 とっさに名前呼んでもうた俺も悪いけどさ!


「えー、なに刃銀、浮気してるのー?」



 俺の隣の彼女、茅種が俺の方を軽く見上げながら、軽く首を傾げるようにして冗談めかして聞いてくる。

 可愛いけどそれどころじゃない。


「アホか! 変なこと言うなって! 俺は咲水みたいに浮気するような尻軽ちゃうねん! まじでなんもやってへんからな、茅種!」


「焦ってるところとかなんか怪し〜♪」


「なんも怪しないから!」


「あははっ」



 楽しそうにして可愛いけども! わかっててそういう煽り方するんは今はやめようよ! コントは後にしよう!

 いや、誤解されてはないみたいで良かったけども!


 っていうか、俺もなんでちょっと慌てとってん!

 まじで何もやましいことないんやから普通に落ち着けよアホ!


「いや、まじでなんもないからな?」


「うんうん、わかったわかった。言い訳はあとで聞いてあげるから......って、ちょっと〜!」



 茅種がまだちょけようとするから、がっつりケツ揉んだった。

 めっちゃ柔らかくていい感じ。


「んもー、セクハラは後にしてっ!」


「後やったらいいんやw」


「......そりゃあ............いいよ?」



 おほー。やば。萎えてたの回復してきた〜。

 さっさと部屋行こ!


「じゃあ、はよ上行きたいから、今はちょっと静かにしといてな?」


「あはは、わかった〜」











「あんたらいつまでやってんよ!!!!!!!」


「うわっ、まだおったん!? 忘れてたわ」


「は?」



 茅種とイチャついてたら咲水の存在忘れてたわ。さすがに嘘やけど。

 とにかく、頼むからはよ部屋入らしてくれ。


「いや、なにキレてるんか知らんけど、もういいから、そこ通してくれへん?」


「あんた、よぉ私にそんな口きけるなぁ。ほんまに別れるで? いいん? そういうの見せつけてきても意味ないからな!?」



 ..............................?

 なにが?


「なにのんきな顔してるんよ刃銀! そうやって私を嫉妬させようとしてんのかもしれへんけどさぁ、それ逆効果やから。今私めっちゃ怒ってるからな。もう今年連絡してきても絶対返さんから!」



 まじで意味がわからん。

 なんや嫉妬って。怒られる謂れがなさすぎる。


 え、なにこれ、そういうドッキリ? それかフラッシュモブ的な突発ショートコントに巻き込まれてる?

 『浮気して別れた元カノとラブホですれ違ったら、別れてないテイで急にキレだしたらどんな反応するか?』ドッキリ的な?


 そうやとしても笑われへんねんけど。

 なんなら咲水の隣の間男くん?新しい彼氏さん?も苦笑いしてるレベルやし。


 ってか、この男の人、さっきからめっちゃ空気やんw


 ......はぁ。にしても、まじで俺は一瞬でも早く茅種とナカヨシしたいからはよ行かせてくれへんかな。


「謝るんやったら今のうちやで!? ほんまに別れるから!」



 まじでどういうことなん?


「ほんまに何の話よ。嫉妬とか怒ってるとか謝るとか別れるとか。俺と咲水がまだ付き合ってるみたいなこと言わんといてくれへん? 気色悪い」


「んなっ!?」



 いやいやいや、なにびっくりしてんの。

 え、あの日別れたやんな?


 そうじゃなくても浮気しといてそんな強気に出れるとかある!?


「ホンマに別れるからね!? いつもみたいに試すために言ってるわけちゃうからね!?」


「よーわからんけど、もうとっくの昔に別れてるから関係ないやん。ってか、やっぱりあれは俺を試すためにやってたんかい」



 俺の予想通り、咲水が急に怒り出したり帰ったりしてたんは、俺の気持ちを試してたってことらしい。

 今更ながら正解が確認できてしもた。まぁ、なんとなくスッキリした気もする。


 怒りとかよりも呆れというか。乾いた笑いが出る感覚。

 そもそも俺の中ではとっくに終わった話やし。


「別れてない!」


「いや、別れたやろ。変なこと言って茅種との関係悪くしようとすんのやめてくれへん? そっちも相手おるんやからその人と楽しくヤッといてや。こんなとこで会うとか、今日はお互い不幸やったってことで。ほんじゃ。行こうか、茅種」


「うん♪」



 一言終わりの言葉をかけて目の前のカップルの前を横切っていく。

 咲水はなんか知らんけど愕然とした表情してて謎やけど、普通に通してくれたから、放っといて上の階に行くエレベータに乗り込む俺と茅種。


「ま、待ちぃや! そんなやり方、ほんまに意味ないからね!? 後悔してももう知らんからね!?!?!?」


「俺も知らんw」



 閉まってくエレベータのドアの向こうからは、まだなんとかかんとか吼えてる元カノがおって、なんかいっそ面白かったけど、適当に無視して上行った。


 咲水にはもう、キレる体力使うほどの気持ちすらも湧かんからな。


 浮気されて『復讐してやる!』みたいな話よく見かけるけど、いやいや、実際なってみたらそんな無駄な気力わかんもんやなぁ。

 シンプルに関心湧かんし、興味なくなるってわかった。


 ってか、最後のドア閉まるとこらへんとか、お笑いの幕閉じるときみたいで笑けた。


 そう思って茅種の方みたら、茅種と目ぇ合って、多分似たようなこと思ってたんやろうな。

 2人で吹き出してもーて、そっからは部屋に入ってもしばらく2人で爆笑してた。








 とまぁ、余計な茶々は入ったけど、その夜も俺と茅種の仲は色んな意味で更に深まった。

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