第14話 エピソード⑭

その後の公安の調査でーーーー



狙撃対象者がまだ「人」であった際、難病の愛し子が、この小児科病棟で生涯治療を受けていたそうだ



愛する夫は既に事故で死亡、彼女の縁は子どもしかいなかった



人生の逢魔時に

衰弱した心に、魔は容易くスルリと入り込む


特に掛け替えのない唯一を失った時は尚更だ




魔から接近したのか、彼女の方からパワーを求めたのか?


それはわからないし知りたくも無い



しかし例え飲み込まれても

生での忘れがたき残り香、哀しい立場にいる子どもに対する愛着


闇の力を得ても母性愛だけは捨てられなかった



私達を愛おしい彼等から遠ざける為に、敢えて下の階に誘い闘いを挑んだ




目をそらさせ大切なものを助けようと



「野生動物も同じ事をするよねぇ」


ベルギリウスは柔らかな声を出し首筋を強く吸い


しっとりとキスマークをつける




「ーーー余計な事をしたと思う?」


「どうして?

ミオは少なくとも彼女の愛する、自己犠牲で守った子ども達の運命を安全な方に導いたでしょ?」



「……でも幸せになるとは限らないし」


「なるよ

だってミオが幸せになって欲しいと思ってるでしょ?


案ずる人が一人でも居るって大切、幸せの第一歩だしねぇ」


「そうかなぁ……」



彼はザブッと湯の音をたてて、肯定を示すかにギュッと強く逞しい両腕で抱き締めて来た




フンワリと気持ちの良い湯の中での優しい思いやり


ーーー間違いなく今幸せだ




私の心を喰らう底なしの不安はユラユラと


立ち上る温かな湯気と共に


暮れなずむ満天の空に登っていった





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