ヘビロテ転生周回中 〜スカウトされて新人天使になりましたが、仕事先(下界)で無自覚に色々やらかした結果、大変なことになりました〜

花京院 依道

⭐︎序章 今世ではちょっと色々ありました①

 突然だけど、君には前世の記憶があったりする?


 大半の人は無い、仮にあっても薄っすら残っている程度だと思う。

 もちろんそれが普通で当たり前で、特に何もおかしなことはない。


 でもね、ボクにはその当たり前が当てはまらないんだ。

 前世どころか、ずっと昔から全ての記憶が残ってる。ついでに今までに身につけた特殊能力も全てだよ。


 どう? 羨ましいって思うでしょ?


 ところが、これがそうでもないんだ。

 ほら、考えても見てよ? 自分一人だけ記憶があっても、それを語り合ったり、思い出を分かち合える人が誰一人としていないんだよ?


 迂闊に前世の話なんかしようものなら『なに言ってんだ、コイツ?』って訝しげな顔を向けられたりするんだ。


 まぁ、変な目で見られるだけならまだ良い方さ。

 そのせいで、今まで散々酷い目に遭って来たからね。


 たとえば、知り得ない知識を持っているってことで、機密情報窃盗の疑いを掛けられて捕まりそうになったこともあるし、ボクの特殊能力に目を付けた良からぬ組織に誘拐されそうになったりもして……本当に面倒事ばかりで嫌になるよ。


 だからボクは、前世の知識を持っているってことがバレないよう、なるべく人と深く関らないようにしているんだ。

 何せ、ボクは嘘がつけない…というか、嘘はつきたくないからね。


 時には嘘も必要、嘘も方便だって思うでしょ?


 まあ、そうなんだけど、ボクとしては『Lv.』が下がってしまう可能性のある行動は執りたくないんだよね。


 今、『Lv.』って何?って思った? ボクの言う『Lv.』っていうのはね『魂のレベル』のことだよ。


 天界政府発案の新制度、その名も『Lv.化政策』!!


 天界の偉い人たちが考えた『人々にLv.の概念を植え付け、自発的な能力向上を促す』ことを目的とした政策らしいんだけど、ボクはこの政策によって始まった『魂のレベル上げ』をすることにハマっているんだ。


 これは、長い転生人生を送るボクの唯一の生き甲斐……だから『Lv.』が下がってしまいそうな行動は取りたくないんだよね。


 ちなみにこの『Lv.』だけど、主に天界の入国審査なんかに使われていて、『Lv.』が高いほど、天界で充実した行政サービスが受けられるものらしいよ。


 下界ではあまり浸透していない——まあ、皆んな忘れちゃうから当たり前だけど……


 ……えっと、どこまで話したっけ?


 そうそう、この『Lv.』はね、魂に付いてくるから転生して別人になっても、そのまま引き継がれるんだよ。


 だからボクは思ったんだ。『これ、周回したらめちゃくちゃ『Lv.』上がるんじゃない?』……ってね。


 そう思ったのが、ボクが転生周回を始めた切っ掛け。

 で、結論として……


 世の中そんなに甘くなかった!!


 ゲームと同じで『Lv.』が上がると次の『Lv.』までに必要な経験値も増えるんだ。

 なのに、ゲームとは違って『経験値の多い敵キャラ』なんて都合の良いモノはないんだよ。


 ということで、周回を重ねてもある程度のところで『Lv.』は落ち着いてしまう……


 何、この無理ゲー!!

 ……と、大半の人は思うはず。


 しかし!

 その無理具合が、ボクのオタク魂に火をつけた!

 今こそ『記憶保持者』の特権を活かす時!


 ボクは転生を重ねながら情報を集め、試行錯誤を繰り返し、経験値を効率よく稼ぐための研究を重ねた。


 その結果『あまり文化レベルの高くない世界であれば、経験値が底上げされる』ということを突き止めたんだ!


 それ以来、ボクは『文化レベルの高くない世界』ばかり選んで転生を続けている。

 ちなみに、悪行を働くと経験値は下がっちゃうから気をつけてね。


 と、まあそんなわけで、ボクは結構高レベルだったりするんだけど、そこはオタク魂的に行き着くとこまで行きたいんだよね〜。


 だから相変わらず地味〜に人生を繰り返していたんだけど、実はちょっと色々とあって、感傷的になっていたところなんだ。


 今世……

 そう、ボクはついさっき人生の終焉を迎えたばかりなんだ……


 ということで、ボクは今、あの世霊界から迎えが来てくれるのをここで待っているんだけど、迎えが来るまでの間、少しボクの愚痴に付き合ってもらっても良いかな?

 ふふ、ダメって言われても話しちゃうけどね。


 あれは、ちょうど今から2日前の深夜のことだったんだ……



 ◇ ◆ ◇  ◇ ◆ ◇



 隣国との国境に広がる大森林。


 月明かりすら届かないその密林の中、ボクは騎獣にまたがり、藪蚊やぶかの大群に襲われながら道なき道を突き進んでいた。


 どうしてそんな深夜にこんな密林にいたのかって?


 それは、物語によくある『悪の組織に攫われたお姫様を救出に』っていうあの展開だよ。


 ん? 話が見えない? そっか……。じゃあ、まずは自己紹介から始めるね。


 ボクの名前はガッロル・シューハウザー。


 こう見えて、前世では『ルアト王国』の『騎士団長』を務めていたんだ。

 どう? ちょっとは驚いた?


 それで、ボクの支える『ルアト王国』の王女様が、反王家勢力を名乗る『トルカ教団』に攫われてしまったんだ。


 で、ボクは奴らのアジトが隠されているというこの大森林の中心部へ向かっている途中ってことなんだ。


 教団が姫さまを誘拐してもうすぐ半日。ボクは姫さまの安否が気になって仕方がなかった。


 だって奴らは王女様——姫さまを、事もあろうに『邪神召喚の儀式』などと称して生贄にしようとしていたから。


 誰もが姫さまの行方を掴みきれない中、奴ら教団のアジトを突き止めることに成功したボクは、姫さまを救出するのために一人でその場所を目指して騎獣を走らせていた。


 ん? そんな大変な事態なのになぜ単騎なのかって?


 そ、それは、こんな人気ひとけのない場所で、騎士団のみんなを引き連れて救出作戦に向かえば奴らに気付かれてしまうと思ったからで……


 ……いや……違うか。ボクはこの時、判断を誤ってしまったんだ。


 正直に言うと『一人の方が動きやすい』って思って、誰にも相談しなかったんだ。


 自分の能力に慢心していたんだよね……。


 まあ、そういうわけで、ボクはその大森林の中を単騎で駆けていたんだ。


 眼前に群がる藪蚊を追い払い、枝葉に体を引っ掻かれながら、木々の隙間を掻い潜るように進んでいると、突然、木々も下草も無い不自然に開けたエリアに行き当たった。


 そう、この地点こそ僕が目指していた『トルカ教団のアジト』がある場所だ。


 見ればそこには、中世ヨーロッパを彷彿とさせる古びた洋館が、如何にも『邪教集団の秘密のアジト』といった感じで、密林を背にして建っていた。


 密林の中、異質な感じで建つ誰からも忘れられた古びた洋館。

 想像以上に不気味で巨大なその屋敷を見て、ちょっと失敗したかな、と思ってしまった。


 せめてヴァリターにだけでも打ち明けて、一緒に来てもらえば良かったかも知れない……


 そんな風に少し弱気になりかけた時、夜風に乗って赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。


 そうだ!! 姫さまも頑張っているんだ。気後れしている場合じゃ無い!


 ボクは自分にそう言い聞かせ、気合を入れ直すと、手頃な木の陰に騎獣を繋ぎ、前庭の生垣で身を隠しながら館へと近づいた。


 生垣から顔を覗かせて素早く周囲を確認すると、警備に当たっている数名の教団員を発見した。


 だけど、みんな座り込んでいたり壁にもたれかかったまま居眠りをしていたりと……はっきり言って警備は穴だらけで侵入し放題だ。


 これが騎士団員達だったなら『地獄の特別訓練』確定だな。……まあ、おかげでこうして楽に潜入できるから助かったんだけどね。


 ——そんなふうに思いながら、ボクは熟睡している教団員の脇をソッとすり抜けると、朽ちて壊れた窓から館の中へと潜入した——

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