第20話

※20話、加筆修正しております。申し訳ありません。







◇◇◇◇




 ハロルドがここまでご機嫌なのは、馬車の中でソフィアに肩を貸したから、だけが理由ではない。他にも理由があった。




◇◇◇◇




 ドロシーが開いてくれた婚約祝いの食事会、翌朝。




(やってしまった……)




 目が覚めたソフィアは、馬車の中で晒した醜態を思い出し、顔を青くした。酔いが回っていたとは言え、いつも冷静なソフィアには有り得ない行動だった。




(ハロルドに、会いたくない。)




 ソフィアは前日を思い返して暫くベッドの中でジタバタした後、憂鬱な気持ちを持て余しながら、重い身体に鞭を打ち、公爵家に向かう。



 せめて、今日はハロルドに会いたくないと神に祈る。しかし、人間とは会いたくないと考えている時に限って会ってしまうものだ。






「ソフィア。おはよう。」




 婚約してからもハロルドの待ち伏せは続いている。だが、いつもなら帰りは兎も角、朝は待ち伏せしていない。それなのに今日に限ってハロルドは待ち伏せていた。




「何で……。」




 ソフィアは、つい不満を前面に出してハロルドを睨んでしまう。だが、ハロルドはソフィアの鋭い目付きに気付いていないかのように笑って言った。




「昨日のソフィア、酔っていたみたいだからさ。心配していたんだ。」




「……!」




「体調は大丈夫?」



 ハロルドは本当に心配しているのだと、ソフィアは頭では分かっている。だが、それ以上に恥ずかしさでいっぱいになり、顔どころか身体中が熱くなる。





「ソフィア?」





「……っ!さっ、先に行きます!」




 ハロルドの顔もまともに見ることは出来ず、ソフィアは風のように走り去った。ハロルドは、そんなソフィアをポカンと見送るしか出来なかった。そしてその日から、ソフィアはハロルドから逃げ回る日々が続いた。




◇◇◇◇


 



 ハロルドから逃げ回る日々が一週間過ぎた頃。




「ねぇ。ソフィア?」




「はい。お嬢様。」



 王子妃教育を終え、帰宅の途中、シャーロットの要望で行きつけのカフェに寄る。通常であれば、侍女は主と同じ席に着くことはあり得ないが、ソフィアを大事に思っているシャーロットがハワード公爵へ直談判し、ソフィアだけは許されていた。





「ソフィア、ミルフィーユが嫌いじゃなかったかしら?」




「……。お嬢様、申し訳ありません。実は……。」




 ソフィアは以前ハロルドがシャーロットについた嘘をすっかり忘れてミルフィーユを注文してしまい、シャーロットが怪訝な顔をする。あれはハロルドがソフィアとカフェに行きたいがために、シャーロットへ嘘をついていたことをソフィアは説明した。




「まぁ!ハロルドはソフィアが大好きなのね。」



 気まずそうにしているソフィアへ、可笑しそうにころころと笑うシャーロットが更に追い詰めてくる。




「ねぇ、ソフィアはハロルドのどんなところが好きなのかしら?」




「……ッ!コホッ、コホッ!」




 大好きなミルフィーユをのどに詰まらせ、咳き込むソフィアに、シャーロットは謝りつつもソフィアの答えを期待しているようで瞳をキラキラさせてソフィアの言葉を待っている。




「お願い!聞かせてほしいの。」




「あまり……よく分かりませんが……。」



 シャーロットは大きく頷きながら聞いている。




「先日、私の友人が婚約のお祝いパーティーを開いてくれたのですが、私の友人夫婦に愛想よくしてくれて……。」




「まぁ!あのハロルドが?」




「はい、頑張って交流してくれていました。」




「ソフィアはそれが嬉しかったのね。」


 

 シャーロットの方が嬉しそうに相槌を打った。そう、馬車の中では失態を犯したが、ソフィアにとってはあの時のことが嬉しく、だからこそ馬車の中で上機嫌になっていたのかもしれない。




「え、ええ、そうなのかもしれません……。」




「ふふふ、良かった。」



 顔を綻ばせるシャーロットを、ソフィアは不思議そうに見つめる。




「ソフィアがハロルドと婚約した時も聞いたけれど、やっぱり心配だったの。ハロルドは冷たいところがあるし……だけど、ソフィアには違うのね。仲が良さそうで安心したわ。」




「……っ、お嬢様、ありがとうございます。」



 ”仲が良さそう”という言葉に反応したソフィアだったが、流石に主の前では堪えた。ソフィアは先日の失態からハロルドに合わせる顔が無く未だに悩んでいた。



 

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