第20話 会いたいなぁ

「うーん、レントゲン写真で見ても何も悪いところは無いね」


ドクターは写真を見ながら腕を組み呟く。


「いや、何か違うんです。試合でも三十分くらいで痛みが出てくるし、そもそも感覚がおかしいんです。自分の足じゃないような感覚があって、思い通りに動かないような……そう、ほんの微妙なズレなんですけど」

「そう言われてもなぁ。診察の結果は問題なしなんだ。となると、どこを治療したらいいかすらわからないんだよ。悪くもないところに手を加えるわけにもいかないだろ?」

「いや、でも……それさえクリアできたら前みたいなプレーができるはずなんです。だからお願いします、ドクター!」

「ミスターフジムラ、申し訳ない。私も何とかしてあげたいがどうしょうもないんだよ」

「そんな……」


次のシーズン途中で宙は契約打ち切りとなった。



「もっと一緒にやりたかったぜ」

「俺もだよ。ヴォルクとはとても楽しくフットボールが出来たからな」


この街を離れる日、チームメイトのヴォルクが駅まで送ってくれた。


「ソラがいなくなると少しばかり寂しくなるぜ」


ポケットに両手を突っ込みながら背を丸める。


「ソラ、これからどうするんだ?ハポンに帰るのか?」

「いや、もうちょっとこっちで探してみるよ。感覚さえ戻ればまだまだやれるはずだし」

「そっか。でもお前そんなこと言ってもあてはあるのか?」

「そんなもん無いよ。とりあえずいろんなチームに声かけてトライアルを受けさせてもらうつもりさ」

「フッ、お前らしいな」

「だろ」

「じゃあ元気で。いつかまた一緒にプレイしようぜ」

「あぁ。必ず」


ヴォルクの乗った車が消えるまで見送ると、宙はくるりと向きを変え駅舎へと向かう。


「さーて、どこに行こうかな。西か東か南か北か。とりあえず次に来た列車に乗ってみますか」


そんなことを一人つぶやきながら歩いていると、駅舎の上に星がWの形に並んでるのが見えた。


「おっ、カシオペア座だ。えーっと、あの星とあの星を伸ばしてと……」


夕暮れ空の星を線で結びながら目で追う。


「あった!北極星。よし、北に向かうか」


そこで昔の記憶がふいに蘇る。


「富永さん元気にしてるかな……」


目を閉じると佐和の泣いた顔と笑った顔が浮かんできた。


「……なんか会いたいなぁ」


そう呟いて改札へ向かった。

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