第1話 (絵あり)「ヒューマンナンバー制度」のあるAIロボットが、身近な世界

# 近日ノートに挿し絵があります。

本文と合わせてご覧ください。

近日ノートの☆12☆、☆13☆、☆37☆

☆55☆、☆56☆、☆57☆、☆61☆です。





「目標まで後3分……2分……」

「リアム、カメラのピントは大丈夫?」

「うん、大丈夫」

「カウントダウン、10、9、8、7、6……」

「5、4、3、2、1」


僕とリアムは、

機器から流れてくる電子音声と一緒に、

カウントダウンをして、写真を撮った。

「ルーカス室長、確認してください」

リアムが、地球環境モニター室の中央の

空間に、好きな時、好きな場所に、好きな

大きさで空間上に出現させることができる、

特殊な映像でできている8角形の画面、

「オクヴィディギーロ」を出現させて、

撮った写真を写し出した。

これは、地球上にあった、液晶テレビの

画面の部分だけ、というイメージ。

ルーカス室長は、写真を細部まで確認して、

僕達の方を向いて、

「よし、大丈夫」と言ってくれたので、

仕事がひとつ片付いて、ホッとした。


僕とリアムは、

月の大地に建っている中枢機関塔7階にある

「地球環境モニター室」という部門で、

地球の陸地や海洋などの写真撮影、

緑化が計画通りに進んでいるかなどの観察や確認、管理をしていて、

植物の成長が思わしくない時や、この場所に

も植物を植えて欲しいと思った時は、

植物管理室という部門に連絡をする仕事を

している。

月の大地に建っている塔は、すべて塔内に

いる時は、円柱状の空間にしか見えないのに

外から見ると、ただの円柱状ではなくて、

台形の高台の上に、

小さなお城やハロウィーンの時によく見る

いびつな形の建物のような外観をしている

ので、あの部分はどうなっているのか?

アムズに来た当初は、すごく気になって、

隠し扉などがないか、みんなで室内を

捜索したけど、何も見つからなかった。

今では、ただの建物の飾り、という認識だ。


ふと、近くにあった窓から、

地球がほんの少し見えた。


「なぁ、リアム」

次の作業の準備をしていたリアムに

声をかけると、

「何?」

手を止めて、僕を見た。

「月や火星、浮遊コロニーには人がいるのに、すぐそこにある惑星 、地球には、誰もいないよね……動物も虫も、魚も……」

僕が言うと、

「急にどうしたの? もちろん、いないよ。ずっと観察をしていて、見たことあるの?」

リアムが、もっともなことを言った。

「見たことない……」

「そうでしょう? だって、『あの日』から9000年くらいは、たっているよね?」

「うん、そうだね……」

「大丈夫? なんか、変?」

リアムが心配そうな目をしたので、

「変じゃない。疲れて、物思いにふけただけだよ」

お茶目な感じで、僕は言った。

「なら、いいけど……あ、母さんからテレパだ。出るね」

リアムの頭の上に、

テレパのマークが出現した。

「次の写真を撮る場所に到着するまで、57分あるから、ゆっくりどうぞ」

僕は言った。


「テレパ」とは、

2人から6400人まで、同時に通話が

できるアムズの通信手段のひとつで、

正式名称は、「テレパシー通話システム」と名前が長いので、

略して、「テレパ」と呼んでいる。


これをしている時は、周りの人に、

「テレパ中です」と知らせるために、

頭の上に、電話機の受話器の形をした

マークが出現する。

でも、テレパ開始当時は、マークが出現する仕組みがなくて、口を動かさずに頭の中で

話すので、第三者から見ると、

声をかけているのに、何も答えてくれない、無視しているの? ぼうっとしているの? などと、あらぬ誤解を生んで、トラブルが

発生していたから、第三者から見て、

テレパ中なのが簡単に分かるようにしよう! と考えられたのが、専用のマークを作って

頭の上に出現させる方法だった。


このマークには色がついていて、

例えば、今回のリアムの場合は、

マークが赤色だから、火星にいる人と

テレパをしている、と一目で分かる。

ちなみに相手が月にいる場合は黄色、

浮遊コロニーだと青色、

その他の場所は、白色、

今は誰もいないけど、地球なら緑色になる。


テレパのやり方は、

1、

テレパシー通話システム管理室、

通称「テム室」に、

Aさんとテレパがしたいと頼むと、

赤、黄、青、緑色が混ざった色をした、

テレパのマークが出現する。

2、

テム室がAさんに、

通話をするのかどうかを尋ねて、

話したいと言ったら、つないでくれて、

テレパのマークの色が、

Aさんのいる場所の色に変化する。

話したくないと言われた場合は、

「切断します」と、音声が流れて、

テレパのマークが消える。

3、

通話をしていた人達が、「終わります」と、同時に言うと、これを合図にテム室が、

通話を遮断するので、テレパは終了し、

テレパのマークが消える。

こんな感じです。


ここには、ヒューマンレベル4と5の人々

しかいないけど、時に善と悪は、

紙一重な一面を持ち合わせている、と考えているので、

テム室を通さずにテレパができると、

何かよからぬことを思いついて、こっそり

相談する、という人がもしかしたら、

出てくるかもしれない。

その可能性は、いくらヒューマンレベルが

4と5の人々だとしても、

「絶対にない」とは、悲しいことに言いきれないので、直接やり取りするのではなくて、テム室を通してしか、できない仕組みに

なっている。



地球環境モニター室の壁面には、等間隔で、

別々の場所が映っている、円形の画面、

「ヴィディ」がたくさん収蔵されている

不思議な額縁のような物、

「リイフェネストロ」が埋め込まれて

いる。

この中を自由に、ヴィディが動いていて、

見たいヴィディを選んで、

リイフェネストロ全体に表示することも

できるし、必要なヴィディを手にとって、

引っ張るとコピーのヴィディを取り出す

ことができるので、

別の場所へ持ち出すこともできる。

ただし、これは時限付きのコピーなので、

24時間で、自動的に消滅してしまう。


ふと、北半球にある全ての海底火山を

監視しているリイフェネストロに、

目が留まった。

火山の観察をしていたレイスが、

リイフェネストロ全体に、

ひとつのヴィディの様子を映しだした。

海底火山の「JSN168」がまた噴火して

いる。

これは、僕が気になっている地球の

スポットのひとつだ。

僕達が監視を始めた頃は、JSN168が

噴火して堆積した物によってできた小さな

島が、大陸から数キロ沖合いにあるな、と

思うだけの存在だったのに、

数1000年の間、噴火を繰り返したことで

大陸と海を隔てていた小さな島は、

大陸と地続きになるまで、

巨大に成長してしまった。


それと、もうひとつ、

大陸にある「JGF173」という活火山も気になっている。

JGF173は、ある日、赤い炎に包まれて

ついに噴火した! と、大パニックが起きた

ことがあった。

でもこれは、太陽フレアの大爆発による

影響で、低緯度の僕が住んでいた国でも

オーロラが見えて、これが赤色だったので、

そろそろ噴火すると言われていた背景が

あったので、JGF173の周辺に住んで

いた人達が、噴火だ! と勘違いをした、

という出来事だった。

「噴火ではなくて、よかった」と、ホッと

したのもつかの間、太陽フレアの影響で、

電子機器に障害が生じる! と再度、

大パニックになった。

不幸中の幸いなのか? 偶然なのか?

精密機械だと思うけど、AIキュープと

AIヒューマンは、壊れることなく動いて

いたし、AIロボット同士では通信が、

なんの障害もなくできていたので、

通信面やインフラが復旧するまでの間、

携帯電話の代わり、手紙や書類を届けたり、

電子機器やインフラの復旧、修理作業を

したりしてくれたので、電話ができなくて

困った、などということがなかったし、

今、気がついたけど、「あの日」も、

携帯電話などの通信機器や電子機器などが

すべて使えなくなっていたのに、

AIキュープとAIヒューマンは、何事も

なかったかのように、動いていた。

なぜだろう?

まぁ、でも、今となってはどうでもいい

かな。

とにかく、こんな騒ぎはあったけど、

JGF173は、そろそろ噴火する、

あと✕✕年後に噴火する、大地震が引き金に

なる、などと色々と言われていたけど、

結局、JGF173は、噴火することなく、

地球上での人類の歴史は一旦、

終わってしまった。

だから、アムズでは、死火山説もあった。

でも、観察を始めて2000年くらいたった

頃から10日間くらい継続して、

周りの土地に被害がほぼない規模の噴煙が、数百年に1回、出るようになったから、

「JGF173は、活火山だ」という結論が

出た。


でもここで、ひとつの疑問が浮かんでくる。


煙が出るということは、地下でマグマが

作られている証拠だと思うけど、

噴煙が出だした頃から見ても1回もマグマが出る噴火は起きていない。

なぜなのか……?

2つの火山の観察をしていた僕の持論だけど

いつまで噴火を続けるのだろうと思っていたあのJSN168に答えはあった。


2つの火山のマグマ溜まりが、

地下でつながっていて、川の流れのように、

上流(JGF173)で作られたマグマが、

下流(JSN168)のマグマの池に流れ

着いて合流。

そして、

JSN168から一緒に噴火しているのでは

ないか、と僕は考えた。


この2つのマグマの成分が同じかどうか、

地下でマグマ溜まりがつながっているかなどの確認をしてみたいので、調査の許可が

欲しいと、ルーカス室長に頼んだら、

「今はどこからマグマが出ようと、今回の計画には関係ない」

と断られてしまった。

そう言われると、返す言葉がないと僕は思い

一旦、調査をしたい気持ちを諦めた。


地球の緑化が終わった部分だけを見ると、

美しい青い姿をしていて、

「あの日」以前のように、

約100億人もの人類が住んでいて、

歴史を刻んでいるように見える。

その美しい部分だけを見ると、平和だった

あの頃を、それ以外の場所を見ると、

「あの日」を思い出す。


――「ここからは、ヒューマンレベル4以上、又は、18歳未満の人だけ入れます」

繰り返し、電子音声が避難所の門に

取り付けられたスピーカーから流れていて、あたりはパニック状態だった。

これがカオス……だよね? 兄さん。

僕は安全な場所から、それを眺めていた。


誰が、いつの間に、こんな囲いを作ったの?

こんな世の中になることを、

事前に知っている人がいたのかな?

自分が気づかなかっただけで、

実は前からあったのかな?


当時は、色々と考えを巡らせていた。

年月がたち過ぎて、生きている確率がないに等しいのは、分かっているけど、

兄さん、おじいちゃん……すごく、すごく

会いたいよ――


「ヒューマンレベル」という言葉は、

僕が知る、数十年前から、都市伝説として

語られる話のひとつとして、あったらしい。

都市伝説や宇宙のことに興味があったから、ヒューマンレベルについて、

面白い発想だな、と僕は思った。


都市伝説にある、ヒューマンレベルとは、

自分自身を大切に想う気持ちが、

一番大切だけど、それだけではなくて、

その他の人、周りのことを、

大切に想う気持ちも大事で、

この気持ちが、どれくらいあるかを数字で

表したものだった。


おじいちゃんはいつも、

家から持参した容器に入れた分を支払う、

量り売りの仕組みがあるお店に行っていた。よく行くお店が3店舗あるけど、

全部、家から遠いので、

量り売りではないけれど、近所のお店で

買えばいいのに、と思っていた。

でも、おじいちゃんは、

「洗って容器を繰り返し使えば、ゴミが減らせるし、何かの事情で海洋に流出するプラスチックも減らせたら、マイクロプラスチックによる海の生き物や、それを食べる人間が健康被害にあう可能性も減らせると思う」

と言った。

そして、最近は、テレビのニュースで見た、

「藻」でできたプラスチックが

気になっているらしい。


おじいちゃんは、穴があいて酷く汚れた服も捨てずに、その部分を切って、別の破れた

服を縫い合わせて、部屋着やかばん、

雑巾など、色々な物を作っていた。

これはいわゆる、「つぎはぎ」なのだが、

おじいちゃんは、

色や模様を上手く組み合わせて縫うので、

意外にと言うと失礼だけど、

オシャレで、僕は気に入っていた。

おじいちゃんに、縫うのは面倒でしょう? と聞いたことがあった。

その時おじいちゃんは、

「面倒でも、上手く穴が塞がった時、嬉しい」

と笑った。


おじいちゃんが、プラスチックのゴミを

減らそうと考えていたことも、服に穴が

あいたとしても、繕ってまた使えるように

する理由も、都市伝説のヒューマンレベルの

話を知った今は、何となく理解ができる。

自分が地球だったら、海の生き物だったら?

と周りのことに、想いを巡らせるのは、

難しい時もあるし、僕にできることは、

本当に小さなことだと思う。

それでも、「想いを寄せる」ことに、

意味があるのではないかと思った。

このことに気づいた僕は、完全に自己満足なだけだけど、ヒューマンレベルが、

高まったような気になってしまった。



そんなある日、

ヒューマンレベルという名前ではなかった

けれど、

国が、「ヒューマンナンバー」という、

国民ひとりにひとつずつに、18桁の番号を付与する制度を始めると、発表した。

参加する人は「ナノスタンプ」という、

番号の情報が入った、8角形の形をした

ステンドグラスのような雰囲気のある

埋め込み式の機器を、左右どちらかの手首に

埋め込む。

ナノスタンプには、16色の基本の色合いが

あって、この中から好きな色合いを選んで

そのまま使う人がほとんどだけど、

時々、色合いを「変えたい」という人がいる

ので、少しだけ、基本の色合いの一部だけ、

好みの色合いに変更して、使うことができるようになっている。


病院での診察や薬の処方、リハビリ、手術などを受けた時の医療費と、条件はあるけど、

先進的な肉体改造が常に無料で、

どこの誰なのか身分の証明もできるし、

お金の入出金や受け取り、送金もできて、

国から毎月、5段階によって決まった額の

給付金が支給される。


どのように給付金の額が決まるかというと、今まで目には見えなかった、

人の心の中の自分とその他の人や、

周りのことを大切に想う気持ちの部分を、「善い心持ち」と名付けて、ポイント化して

これを、ヒューマンナンバーに蓄積させて、3か月に1回、貯まったポイントを元に、

5段階あるうちのどの段階なのかを

評価して、金額が決まる。


誰が評価をして、決めるのか?


それは、全世界にいる、

ヒューマンナンバー制度の参加者を、監視、評価をするために開発された、

スーパー人工知能、「ミューロル」が、

たったひとりで、評価をしていた。


人工知能を数える時に、「ひとり」と表現

するのが正しいのかは、分からないけど。


ミューロルは、ナノスタンプを通じて、

頭の中へ入り、思考を司る脳の部分を、

直接観察しているので、嘘がつけない。

ポイントを稼ぐために、

例えば、

スーパーで、表面上では、食品ロスを減らすために、賞味期限が近いものを選んだとする

でも、

「すぐに食べる分だけど、賞味期限が長い方が欲しい。でも、ポイントを稼ぐためにはしかたない」

と心の中で思っていると、

ミューロルは、思考の中をのぞけるので、

思惑は意図も簡単に見抜かれてしまい、

ポイントは増えないどころか、

逆に減ってしまう可能性がある。

だからと言って、

一度の行動だけを見ているのではなくて、

ミューロルは、思考、思惑、実際の行動、

状況を総合的に判断している。

とにかく、「善い心持ち」と「善い感情」、「自分と他に寄り添える心」が、

大切になってくる。


この制度に参加していない人は、

医療費は常に全額自己負担で、

先進的な肉体改造は、一切、受けられない。

どこの誰なのか、身分の証明もできないので

あらゆる場面で不自由になって、

月1回の国からの給付金も貰えないという、デメリットだらけなので、

国は、ヒューマンナンバー制度に、

参加しましょうと、推進している。


でも、この制度は強制ではないから、

参加するかしないかは、個人の自由な判断で決められるし、参加してみたけど、辞める、ということも可能で、

その時は、居住区の役所に、辞めたいと申し出ると、手続きをしてくれるので、

この時渡される書類を持って、

指定された専門の医療機関に行けば、特殊な方法で埋め込まれたナノスタンプを、跡形もなく取り除いてくれる。

埋め込む時も取り除く時も、まったく痛みがないので赤ちゃんから大人まで、

参加しやすくなっている。



ヒューマンナンバー制度、運用開始から

2年目のある日、

「ヒューマンレベル」という、

新しい項目が加わった。

最初に、ヒューマンレベルという言葉を

聞いた時、都市伝説の一つが現実になった!僕は、興奮してしまった。

もちろん、都市伝説好き界隈では、

僕と同じように反応する人がたくさんいた。


ヒューマンナンバーは、

「善い心持ち」ポイントを、3か月に1回、給付金の額を決めるためだけに利用しているけど、

ヒューマンレベルは、

各個人が、どれくらい善い心持ちを

持っているのかを、自分も第三者にも、

いつでも目に見える形で確認ができるように

数字と文字で表したもので、

このレベルを決めるために、

「善い心持ち」ポイントを利用していた。

レベルは、

マイナス、ゼロ、1、2、3、4、5の、

7段階あって、

このレベルの違いによって、

メリットデメリットがある仕組みになって

いる。

イメージとしては、

経験値を貯めると、レベルが上がる、

ゲームのプレイヤーのように、

「善い心持ち」ポイントの蓄積と、

スーパー人工知能、ミューロルの判断で、

レベルが上下する。


どうやって、レベルの確認をするのかと

いうと、携帯電話に、

「ヒューマンレベル判定アプリ」を

ダウンロードして、起動すると、

携帯電話の画面に、体の部位のほとんどが、

カクカク角ばっている、「スクエア」という

名前の、このアプリのキャラクターが現れて

「確認します。手首を見せて」

と言われるので、

ナノスタンプを押してある手首を見せると、「あなたのヒューマンレベルは、5です」

などと、今のレベルを教えてくれる。

レベルが4以下だった場合は、

「アドバイスが必要?」

とスクエアに聞かれるので、

画面に表示された、

「はい」か「いいえ」どちらかを選択する。

「いいえ」の表示を押すと、

「さようなら」と言って、

アプリは自動で終了し、ホーム画面に戻る。

「はい」の表示を押すと、スクエアが、

どうすれば、ヒューマンレベルを上げられる

のか、アドバイスをくれる。



このヒューマンレベルの項目が

追加されてから約1年後、

遊園地や映画館などの娯楽施設、

ホテルや旅館などの宿泊施設、小売店、

飲食店、病院、薬局、金融機関、公共施設、公共私設交通機関など、

ありとあらゆる場所でのお金のやり取りは、ヒューマンナンバーのお金の入出金システム以外では、できなくなり、

紙幣と貨幣はなくなった。

そして、これらの施設の入店、利用も、

それぞれが出入り口に表示している条件を、満たしていないと、

入店や利用ができなくなった。


例えば、電車に乗るために駅へ行くと、

以前は、切符を買うか、パスを持っている人なら誰でも改札を通れたけど、

今は、改札の前に、入場するための条件を

提示した看板が設置してあって、

「ここから先は、ヒューマンレベル4以上の人しか入れません」

と記載してあった場合は、

ヒューマンレベル4以上の人なら、改札を

通り、電車に乗ることができるという意味で

4未満やヒューマンナンバー制度に不参加の

人は、改札を通ることも電車に乗ることも

できないという意味になる。

それを無視して、無理やり入場や利用を

しようとしたりすると、いつの間にか、

僕達の生活に馴染んでいた、警備担当の

「AIヒューマン」と「AIキュープ」が、

やって来て、追い出される。

反抗するような、悪質な場合は、

AIキュープのアームに捕獲されて、

警察署に連行されてしまう。


「AIヒューマン」とは、

人の形をしたロボットで、球体をした頭部と耳、目の下に4本だけまつ毛が生えて

いる顔をしている。

この目と口は動くようになっているし、

人の形をしているけど、人間のような足は

なくて、ロングスカートを履いたような形の

下半身をしていて、常に宙に浮いている。

耳には、AIヒューマンによって色や形が

若干異なるピアスがついている。


「AIキュープ」とは、

立方体の形の機体に、花びらが6枚ある花の

様な形をしたプロペラが上部に浮いた状態で

設置されている、小型の飛行ロボット。

基本的には、アーム、カメラ、スピーカーが

搭載されているけど、

他にも、拡声器、網、紐、ホースなど、

使用、利用用途によって、

色々と搭載することができる。



以前のように、好きな物を好きな時に買う、

行きたい時に行きたい場所や店に行く、

という世の中は、過去の産物となり、

「ヒューマンレベル」というものが、

生活する上で、とても重要な存在になった

世の中に変わってしまった。


警備担当のAIヒューマンやAIキュープの

おかげなのか、何かしらの犯罪の発生件数や

被害にあう人の人数が減ったというか、

テレビのニュースでも、犯罪に関する話は

聞かなくなった気がする。

AIヒューマンとAIキュープは、

プログラムされたことを忠実に遂行するので人間だったら、多少の融通がききそうなこと

や平和的に解決できそうなことでも、

AIロボット達は、プログラムされた通りに

判断を下すので、そういうところに正直、

恐怖を感じる時がある……。

だけど、もしかしたら、

人の思考を持っているのかな? と思った

AIヒューマンが身近に、一体だけいる。

ヒューマンレベルの項目が追加された時に

全国の小学校、中学校、高等学校、大学まで

「リヒューマン」という新しい必須科目が

できた。

これは、善い心持ちや善い感情は、

どういったものか、こういう場合はどう

考えるべきかなど、「善い」について学ぶ

教科だった。

この教科を担当するために、教育専門の

AIヒューマン、「ダヤ」が赴任してきた。

このAIヒューマンに、ゼロかイチかの

判断しか持たされていないわけではなくて、

人間っぽい考え方、思考を持っているの

かな? と2回くらい感じたことがある。


1回目は、僕とリアムが昼休みに、

中庭の芝生で寝転んでいた時のことだ。

「木漏れ日とそよ風が、心地いいね」

「うん、このまま授業はやめて、眠りたいな」

話をしていたら、

「分かるわ」

急に声がした。

「え!?」

僕達は驚いて、飛び起きた。

辺りを見渡すと、僕達のそばに立っていた

木の裏から、ダヤ先生が顔を出した。

「ここで何を? まさか、さぼりそうな生徒を監視しているとか?」

苦笑いしながらリアムが言うと、

「何って、木漏れ日が心地良くて、ウトウトしていたのよ」

人間のように、あくびをする仕草をした。

「ダヤ先生って、人間みたい」

僕とリアムが、声を揃えて言うと、

「まったく、違うけど」

キッパリ否定してきたので、やはり間違い

なくAIだな、と僕達は心の中で思った。

キンコンカンコーン。

昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

「次、私の時間。眠いけど行く。あなた達も眠くても、さぼるな」

ダヤ先生は、校舎に入って行った。


ダヤ先生が、「眠い」とか「木漏れ日」とか

あくびをしたところに、

人間っぽかったな、と感じた。


2回目は、

5時間目が、ダヤ先生のリヒューマンの

授業だった日のこと。

リアムは一番後ろの窓際の席で、風が心地

良く吹いていて、ウトウトしていた。


ダヤ先生の視力は、顕微鏡並みに拡大と

縮小がおてのもので、頭が360度回転する

ので、色々な機能が搭載されている、

パソコンの画面が黒板サイズになった、

電子黒板に書き込んでいて、自分のことは

見えていないと油断してしまうと、

痛い目にあう時があるので、

気をつけないといけない。


完全に眠ってしまったリアムを見つけた

ダヤ先生は、左目から青色のレーザーの

光線を出して、リアムの額に照射した。

「うわぁ」

リアムが、叫んで飛び起きた。

「お昼ご飯のあとは眠くなるよね、分かる。でも、勉強しなさい」

ダヤ先生は、レーザーの光線の照射を

止めた。


授業が終った瞬間、

リアムが僕のところへ、すっ飛んで来た。

「スカイ、聞いてよ!」

ちょっと、泣きべそをかくリアム。

「どうしたの?」

と聞くと、

僕の耳元で、ひそひそ話をしてきた。

「さっき、僕の額に、ダヤ先生のレーザーの光が当たったのを知っている?」

前髪を両手で持ち上げて、

額を僕に近づけて見せてきた。

「知っているよ、それも、クラスの全員が。それより、近いよ」

僕は、リアムの額を手で押し返した。

「そ、そうか……全員が知っているのか」

意外な事実を聞いてしまった、という感じの表情をしたリアム。

「で、それが?」

僕が聞くと、また近づいて来て、ひそひそ

言った。

「急にダヤ先生が夢の中に現れて、怖い顔をして、『起きなさい』と言ったから驚いて、目に留まった自動運転の車に乗り込んだら、猛スピードで走ってくれて、逃げ切れたと思っていたら、すごい音がして、窓から外を見たら、恐怖映像! 真顔でダヤ先生が走って来て」

リアムが、目に涙を浮かべた。

「確かに……それは、怖いね」

僕は、真顔で猛スピードで追いかけて来る

ダヤ先生を想像して、背筋が、ゾクッと

した。

「あの、先生のレーザーの光は、悪夢を見せる危険な光だよ。AIの前で居眠りは危険だ」

リアムが断言した。


そう言われると、

目からレーザーの光線が出せるダヤ先生は、

ただのAIヒューマン、ロボットだって

なるけど、ふいに、「眠くなるよね」とか

言っているのを聞いてしまうと、

先生には人間寄りの感覚、思考があるのかな

とつい思ってしまう。

ただ単に、僕達が話をしていることと、

シチュエーションを学習して、

発言しているだけなのかもしれないけど、

一体くらい、人間の気持ちが分かる、

理解ができるAIヒューマンがいても、

いいのでは? いて欲しいという僕の希望

かな。

これが、人間っぽい発言だな、思考だなと

感じた、2回の出来事。



ヒューマンレベルのアプリで、

初めてレベルを確認してみた時、

僕はレベル4で、兄さんのレベルは3、

おじいちゃんのレベルは5だった。

僕の方が、兄さんよりレベルが高かったのは

たぶん、自己満足でやっていたことが、

功を奏したのかな?


僕は、亡くなったお母さんの父親と兄さんと

3人で暮らしている。

おじいちゃんは自営業で、電気屋さんをして

いて、帰りが遅くなると連絡が来た時は、

兄さんと2人で、

おじいちゃんの友達のディラックさんが、

奥さんのウィナルさんと一緒に経営している

近所の喫茶店によく行く。

ジュースを1杯サービスしてくれるし、

お客さんが少ない時は、色々な話をして

くれて、帰る時には、おじいちゃんの好きな

オムライスを、僕達が気兼ねせずに

受け取れるようにと、

「余った材料で作ったやつだけど」と言って

容器に入れて渡してくれる。

よく知っているという安心感もあって、

他にも食事をするお店はあるけど、

ついこの喫茶店に来てしまう。

ここで、僕と兄さんが一番好きなメニューは

粗びき大豆ミートと瞬培加工肉のミンチが

50%ずつ配合されているハンバーグ。

切ると、汁がジュワっと出てきて、

すごくおいしい。


だけど、ヒューマンレベルの項目ができて

から、喫茶店には、

「ヒューマンレベル4以上の方のみ、入店可」

と記載された看板が立ってしまった。

僕はレベル4だったから、兄さんと僕の分を

持ち帰って一緒に食べようと考えて、

喫茶店に行ったら、

「本当は、クレイの分も渡したいけど、ヒューマンレベル4以上という条件で営業許可が出ているから、違反すると店を閉めないといけなくなるから……ごめんね」

すごく申し訳なさそうに、

ディラックさんが言ったので、

「何も悪くないのに、謝らないで。レベルが4になったら、兄さんと来るね!」

僕が言うと、

「待っているよ」

ディラックさんは、涙を浮かべて言った。

僕も泣きそうになったので、

涙がこぼれ落ちる前に喫茶店を出た。


がっかりした気持ちで、

僕は家に着いた。

兄さんが、手ぶらの僕を見て残念そうに、「やっぱり……」

と言った。

「家に、作りに来てもらえるか聞いてみる?」

喫茶店ではなく、プライベートでならいい

のでは? と思った僕が、兄さんに言うと、

「そんな勝手なお願いは、できない。それに、ヒューマンレベル4以上という条件の場所が多いから、このままでは、3人でどこへも行けない。だから、喫茶店に行く! を目標にして、頑張るよ」

兄さんは、僕をまっすぐ見つめて、

元気よく言った。


兄さんの前向きに進もう、という気持ちに

僕は、背中を押してもらって、元気が出たと

同時に、ディラックさんにお願いをして、

ズルをしようと考えた自分が、

恥ずかしくなった。


兄さんは、ヒューマンレベルのアプリを

起動した。

「アドバイスを、スクエアに聞こう」

自分のことを大切に想うのはもちろんのこと

他の人や周りのことへの少しの心遣いや、

その立場になって考え、想いを寄せることが

大切で、本当に無理のない範囲での行動と

心掛けだけでも、ヒューマンレベルは

上がっていく、とスクエアに言われたので、

それを心掛けながら、僕も兄さんと過ご

した。




初めてヒューマンレベルを確認した日から、

3か月くらいたった。

そろそろ、この間の行いの成果が、

反映されている気がしたので、確かめてみる

ことにした。

兄さんは、緊張した面持ちで、唾をごくりと

飲み込んで、アプリを起動した。

「確認します。手首を見せて」

兄さんは、携帯電話の画面の中にいる

スクエアに手首を見せた。

「あなたのヒューマンレベルは、5です」

スクエアが言った。

それを聞いた僕と兄さんは、顔を見合わせて

同時に、

「やったぁ!」

嬉しくて、

その場で叫びながら飛び跳ねた。

「やったね、兄さん。レベル4どころか、5だって」

涙が込み上げてきた。

「やったよ、スカイ。レベルが5になった」

僕も確かめると、

ヒューマンレベルが5になっていた。

「これで、一緒に、喫茶店に食事に行けるね!」

僕と兄さんは抱き合って、

喜びを分かちあった。

「さっそく今日、3人で行こうよ。喫茶店に」

兄さんと話をしていると、残念なことに

おじいちゃんから、「遅くなる」と兄さんの

携帯電話にメールが届いてしまったので、

僕と兄さんは、2人で行くことにした。


久しぶりに、一緒に喫茶店に行けるのが

嬉しくて、小走りで向かった。

喫茶店に着くとちょうど、扉が開いて、

ウィナルさんが出て来た。

「お久しぶりです」

兄さんが言うと、

「本当に……久しぶりね。ずっと首を長くして待っていたわよ。ほら、入って」

ウィナルさんが、手招きをしてくれた。

前に来た時には、ヒューマンレベルを

確認する機器があったのに、

見当たらなかったから、

「ヒューマンレベルの確認は、どこでするのですか?」

と尋ねると、

「あの機器で1人ずつ確認をしていると、出入り口が時間帯によって混雑して大変だったから、扉の枠に取り付けるタイプに変えたの。レベル4以上の人が通る時は、何も起きないけど、レベル4未満の人が通ると、枠全体が赤く点滅して、すぐにAIキュープが来るわ」

ウィナルさんが言った。

僕と兄さんは、レベル5なのに通る時、

何だかドキドキした。

何事もなく通過して中に入ると、

「クレイ、スカイ! 待っていたよ。ここに座って」

嬉しそうな表情でディラックさんが、

カウンター席をさした。

「食事はいつものでいい? 飲み物はどうする?」

ディラックさんに聞かれた僕が、

「ハンバーグと抹茶オレ!」

と言うと、

「同じで」

兄さんが言った。

「すぐに作るよ」

ディラックさんは、

奥の厨房へ入って行った。


少しして、

「お待たせ、今日は特別、おかわりは何回でもどうぞ」

ウィナルさんが抹茶オレを作って、

僕達の前に置いてくれた。

「ありがとう」

僕達が言うと、

「今日は、2人に会えた嬉しい日だからね」ニコッとしてくれたので、

心が温かくなった。


しばらくすると、

いい匂いをさせてディラックさんが、

粗びき大豆ミートと瞬培加工肉のミンチで

作ったハンバーグを持って、厨房から出て

来て、僕達の前に置いてくれた。

「召し上がれ」

「いただきます!」

僕と兄さんは、久しぶりの味に箸が進んで、

あっという間に食べてしまった。


「ごちそうさまでした」

カウンターの中で作業をしていたディラック

さんに言うと、

「これを、あいつに渡して」

オムライスが入った容器をくれた。

「ありがとう、ハンバーグおいしかったです。おじいちゃんも喜びます」

ディラックさんとウィナルさんに、

見送ってもらって、僕と兄さんは、喫茶店を

あとにした。


しばらく歩いていると、

明かりが灯った家が小さく見えてきた。

おじいちゃんが帰ってきている!

僕と兄さんは、走った。

「ただいま!」

玄関の扉を開けると、

おじいちゃんが出迎えてくれた。

「おじいちゃん、これ」

兄さんは、ディラックさんに貰った

オムライスが入った容器を渡した。

「ありがとう。久しぶりだな、あいつの……」

兄さんのヒューマンレベルが上がったことを

知ったおじいちゃんは、兄さんの肩を、

よかったね、と優しくなでた。

「今度、おじいちゃんの休みの日に、3人で電車に乗って、遠出しない?」

僕が言うと、

「そうしよう。2人で行きたい場所を考えておきなさい」

おじいちゃんが嬉しそうに言った。


おじいちゃんの休みの日が早くきて欲しいな

僕は待ちどおしてくて、しかたなかった。



○次回の予告○

『「あの日」と入れる人と入れない人』
















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