第6話 顎田主任

  博梛はかなが退社してから1週間が経つ。


〜〜顎田主任視点〜〜


 ち!  治織じおりの奴が辞めやがったから俺様が残業の毎日じゃねぇか。


  治織じおりはサービス残業だったけどよ。俺はキッチリと貰うからな。


「ふざけるんじゃないざんす! 今週の残業が30時間を越えてるじゃありませんか! このままじゃあ労働基準局が黙ってないざんす! うちは優良企業で売ってるざんすからして、主任のあーたは空気を読むざんす!」


「し、しかしですね社長。 治織じおりが空いた今、システムエンジニアリング課は仕事が溜まっているんですよ」


治織じおりの評価は最低ランクだったじゃありませんか。そんな無能が抜けた所で仕事なんて変わらないざんしょ」


 ぐぬぅ。

  治織じおりの評価は俺が付けていたからな。課長が海外に出張してる今、奴の評価を下げれる絶好のチャンスだったんだ。 治織じおりは課長に目を付けられていた。放っておけば奴が主任になっていたからな。


 チッ!

 バカな女をこき使ってやろうと思ったがしくじったな。まさか辞めるとは思わなかったぜ。

 まぁしかし、どうせ 治織じおりが抜けた分は新人が入るからな。そいつを奴隷のようにこき使ってやればいいか。ゲヘヘ。


 次の日。


「新人が入ったざんす。ダンジョンモンスターが大好きな新人ざんすよ。今日から顎田くんが教えるように」


 うは!

 よぉし、奴隷のようにこき使ってやるぜ! どんな奴だ? ダンジョンモンスター大好きだなんて、どうせオタクっぽいヒョロヒョロだろう。


 しかし、俺の前に立ったのは身長2メートルを超える男。その体は筋肉の塊だった。


「岩山であります。御指導ご鞭撻、よろしくお願いしまっス!」


「お、おう……」


 デ、デケェ……。

 筋肉がカチコチやないかい。


「お前、前職は何をやっていたんだ?」


「ダンジョンで探索者をしておりました。今回、ダンジョンモンスターを研究する仕事に興味を持ちまして。入社した次第であります」


「そ、そうか……」


 くっ……。

 け、喧嘩強そうだな。


「自分は何をしたらよろしいでしょうか?」


「んじゃ、このプログラム頼むわ」


「わかりました!」


 まぁ、素直そうで良かったか。

 ククク。脳筋バカならそれはそれでいいか。俺の奴隷としてこき使ってやるぜ。


 しかし、岩山はキーボードを見ながらポチポチと作業していた。


 は?


「お前、ブラインドタッチはできんのか?」


「はい! できません!」


「できないじゃねぇ! アホか! そんなんでSE課にどうして入った!?」


「別に自分は希望していません。ダンジョンモンスターの研究が希望でしたから」


 チッ! それは 治織じおりだってそうだったんだよ。そんな奴を騙してこき使うのがこの会社なんだからな。


「とにかくブラインドタッチができなければ使えんわ。お前はクビだ! 出てけ!!」


「はぁ。では社長に報告してきます」


 ったく、社長も社長だ。 

 いくら人手が足らないからって脳筋入れてどうすんだよバカが。


「ダメざんす! 岩山くんを使うざんす!」


 はぁあ?


「何を言ってるんですか? こいつはブラインドタッチすらできない無能ですよ?」


「あーたならできるざんすよ。無能の 治織じおりを使っていたじゃありませんか」


「いや、しかし、それは……」


「いいからやるざんす! 社長命令ざんす!」


「は、はい」


 チィッ! ついてねぇぜ!


「自分はどうすればいいんでしょうか?」


「ったく。このカス野郎が! 土下座してお願いしろ!!」


「はぁ?」


「はぁ? じゃねぇんだよ! この無能のゴミクズ人間が! テメェみたいな脳筋バカが俺様の指導を受けたいなら土下座しろって言ってんだよ!」


「ハァァア??」


 と、ギロリと睨む。


 う! なんだこの気迫は!?


 ブチブチと岩山のシャツのボタンが弾け飛ぶ。筋肉が肥大化したのだ。


「テメェこら。主任かなんか知らんが、口の利き方には気をつけろよ?」


「ヒィイ!!」


 うう! こ、怖い。


「テメェがまず謝れ。暴言の謝罪がないと貴様のケツ顎をもぎ取るぞ」


 ヒィィイイイ!!

 何コイツ、めっちゃ怖い!!

 謝らないと殺される!!

 し、しかし、俺にだってプライドがあるんだ!


「……す、すまなかったな。少し言い過ぎたかもしれん」


「言い過ぎの度合い越してんだよおっさん。こっちは火がついちまったんだぜ! フン!!」


ブチブチブチブチ!!


 シャツのボタンが全部弾け飛ぶ。


 ヒィイイイイィイイイ!!

 なんやコイツ、めっちゃ怖い奴やん!


「も、も、申し訳ありませんでした」


「次に舐めた口をきいたら貴様のケツ顎を真っ二つに割くからな! 肝に銘じとけ!」


「は、はぃいいい!」


「んで? 俺はどうすればいいんだ?」


「ブラインドタッチの練習をしてください」


「ったく。初めからそう言えばいいものを、お前は俺がブラインドタッチができるように丁寧に指導しろ! いいな!?」


「は、はい」


 チィイイイ!!

 ただでさえ仕事が遅れているのにぃいいい!! 最悪だぁあ!!


「おい! お茶入れろ!」


「はぁ? お、俺は上司だぞ!」


「うるせぇ! 今日は機嫌が悪いんだ! お前のパワハラを裁判沙汰にしてもいいんだぞゴラァア!!」


 くぅうう!


 俺は仕方なくお茶を入れた。


「ほら。これでいいだろ?」


「疲れた。肩揉め」


「な、なんで俺が!?」


「お前が俺に喧嘩を売って来たからだろうがぁあああ!! この暴言パワハラ野郎が!! 出るとこ出てもいいんだぞ、ゴラァア!!」


 ぐぬぅううう!!


「わ、わかったよ。揉めばいいんだろ! 揉めばぁ!」


 コイツは怒らしたらダメな奴だった!


「ぐっ……。か、硬い」


 まるで岩みたいな体だ!!


「もっと力を込めろ!! ゴミ虫みたいな力しかない癖に威張ってんじゃねぇ!!」


 ク、クソォ!

 どうしてこんなことになるんだぁ!!

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