第23話 小覇王孫策と陳登の眼差し

 陳親子の計略により、大打撃を受けた呂布軍は下邳城に引きこもる羽目になる。


 しかし、下邳城の守りは硬く、城壁も高い。おまけに、城は側で囲まれていた。


 梯子などを使って城壁を登ることなど許されぬ不落の城と言える。


 おまけに、冬の季節となり、曹操軍は寒さに耐えながらも呂布が引き籠もる下邳城の前で待機した。


「雪よ。もっと降れ!! 曹操軍を埋め尽くすのだ!!」


 呂布は曹操軍が苦しんでいるのを城壁から眺めていた。


「呂布将軍、曹操は必ず我々をここで仕留めるでしょう。今こそ紀州を掛けるべきです。」


 陳宮が申し出ると呂布はそれを拒否した。


「いいや、だめだ。我軍は甚大な被害に寒さで疲れている。とても戦える状況ではない。」


 陳宮は言う。


「何を言っているのですか!! 敵は野営作業を冬の中でしているのですよ? 敵のほうが疲れているに決まっています!! 今こそ、敵の野営地を滅ぼし、もう一度建設作業をさせてやりましょうぞ!!」


 陳宮の意見は最もであった。


 敵を滅ぼさずとも敵の野営地を破壊するだけで曹操軍は大いに指揮を低下させるだろう。


 指揮が低下すれば野営地をまた建設しても壊される。


 居座れば兵は疲弊し、指揮が低下すれば逃げ出すものも出てくるだろう。


「では、掎角の計を用いましょう。」


 呂布は聞き返した。


「『掎角の計』?」


 陳宮は答える。


「人が鹿を捕まえる時は必ず角と足を持ちます。そのことから掎角の計と呼ばれるようになり、曹操軍の背後に回り込んで挟み撃ちにするのです。将軍は山頂から敵を見張ってください。合図があれば我々も打って出ます。」


 呂布は陳宮の計略に耳を貸さなかった。


「駄目だ駄目だ。先程も言ったが、兵士たちが疲れている。今は休んでいるだけで敵は疲弊する。待つのだ。陳宮よ。」


 陳宮は言う。


「この城は攻め込まれません!! 敵が雪に囲まれているときに我らが包囲すれば、その方が休んでるだけで敵は疲弊します!!」


 正面と背後から見張られているだけで敵の神経は磨り減っていくものだが、今の呂布は袁紹の如く、行動を起こさなかった。


「くどい!! 俺は今疲れているんだ!! 今は休む!!」


 陳宮はため息をついて言う。


「では、最後の手段です。袁術に援軍を頼みましょう。」


 陳宮は袁術に頼りたくはなかったが、やむを得ず、最後の策に踏み切ることにした。


 呂布はそれを聞いて頷いた。


「わかった。袁術に俺の娘を送ると約束して援軍を頼もう。」


 呂布が袁術に援軍を要請する中で、曹操軍は野営地が建設され、ようやくして軍議に入っていた。


「曹操様、呂布という男はいざという時に動こうとしません。恐らく、袁術に援軍を要請するでしょう。」


 陳登が言うと曹操も頷いて答えた。


「儂もそれを心配していた。」


 そこで、陳登が一計案じる。


「袁術は孫策の拡大を恐れており、袁胤を向かわせています。今はまだ1000程度ですが、袁術という無能の皇帝を離れれば虎に翼を与えるようなものでしょう。」


 曹操が相槌をした後で笑う。。


「ふっふっふ、孫策と言えば孫堅の息子か………しかし、孫堅は孫策に何も受け継がせていないだろう。今は呂布を誘き出すことにする。」


 陳登の観察眼は優れていた。


 袁術が皇帝を名乗り、民心は離れ、悪政が続く、この状況で徳をするのは孫策であった。


 しかし、曹操は袁術の部下達が孫策に流れることを見通ることができなかった。


「江東の小覇王は独立したばかりです。呂布を落とすということは『孫策』の成長を急がせることにも繋がります。どうか、英断を………!!」


 しかし、これを聞いていた郭嘉は笑っていう。


「孫策は若造です。己の勇猛さにより必ず身を滅ぼすでしょう。放って於けば匹夫の手で死ぬことになります。曹操様が手を下すまでもありません。」


 郭嘉は更に付け加える。


「余所者の分際で図々しい。場を弁えなさい………」


 郭嘉は女遊びをする上に嫉妬心も強かった。


 しかし、曹操からは大いに気に入られており、郭嘉の忠告に陳登は引き下がるしかなかった。


 ここで陳珪が言う。


「いや、儂の息子が礼儀を弁えず、申し訳ございませんでした。郭嘉様のご明察通り、まずは当面の呂布でしょうな!!」


 陳登も深く謝罪して陳珪により下がらせられてしまう。


「うむ、郭嘉は計略を知らず、目の前の戦に対して戦術だけが秀でているのでは………」


 その頃、孫策は袁胤を武力で追放し、袁術を見限る有能な人材が続々と孫策のもとへと集まった。


 その数、1000にも満たず、袁術の追ってと戦うことすら敵わず逃れるだけであり、叩くならまさに今しかなかった。


 孫策が呉に逃れる中、陳登はそれをただただ眺めるだけであった。


「呂布よ!! 曹操だ!! 話をしに来たぞ!!」


 呂布が城壁から曹操を見下ろせば矢を構えた。


 しかし、陳宮が一度静止させる。


「曹操、なんのようだ!!」


 曹操は冷静であった。


「何、昔話をしにきただけだ。」


 曹操は呂布のことを口先三寸で褒め称えた。


 呂布も大いに笑って曹操の言葉に乗せられてしまった。


「呂布よ!! 今降伏すれば褒賞と城を与えよう。儂は貴様を殺すには惜しいと思っているのだ!!」


 これを聞いた強欲な呂布の心は簡単に揺れ動いた。


「いけません!! 罠です!!」


 陳宮が矢を構えて曹操に放つ、曹操の馬は飛び上がって矢を避けると陣営に引き返していった。


「陳宮!! なんてことをするのだ!!」


 呂布は大いに怒った。


 しかし、陳宮並びに将軍各位らが口を揃えて言う。


「いけません!! 我々は曹操の命を何度も奪おうとしました!! 曹操の城も何度も奪いました!! 曹操が将軍をお許しになると思いますか!!?」


 全くである。


 しかし、呂布は現状をあまり理解していない。


「そんなことはわからんだろう!! もう良い。一度休憩だ………少し頭を冷やしてからまた考える。」


 しかし、次の日にはこんな矢が城に多数と放たれた。


「なになに、呂布将軍を捕まえたもの、殺したものには褒美を授ける。各々よく考えるように………なんだと!!?」


 これを呼んだ呂布は激怒してそれを拾った部下たちに当たり散らかした。


「将軍!! 我らは将軍に忠誠を誓っております!! 決してそのようなことはいたしません!!」


 下邳城は大騒ぎとなった。


 しかし、この矢文で呂布の理不尽に耐えかねないものが現れることとなる。

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