第21話 夏侯惇、目を射られるも鬼神の如き、呂布軍を追い払う

 呂布は左将軍に昇格し、毎日宴を開いた。


 宴を開かせたのは陳珪と陳登が呂布を煽てるためであった。


 宴は袁術軍から奪い取った食料を著しく消費させた。


「呂布殿、めでたいですな。袁術はこれほどの食料を我々にくださったのですから、しかも、当分は袁術軍も攻め込めないでしょう。」


 陳登が呂布に酒を注ぎながら言うと陳珪も続く。


「袁術の悪政は民を餓死に追いやるとか、私利私欲に負ける人間には欲望と破滅が似合いますな~!!」


 この言葉は呂布にも向けた言葉である。


「いやいや、全くだ!! はっはっはっはっは!!!」


 呂布は己の強欲さを疑わない男であり、思いっきり袁術のことを笑い者にした。


 呂布はすっかり陳親子の言葉を耳に貸すようになり、真面目で忠義に熱い陳宮の言葉を全く聞かなくなってしまった。


「参ったな。最近、呂布将軍が全く聞く耳もたん。毎日宴会ばかり、敵は袁術だけではないというのに!!」


 陳宮は『陳親子が曹操と通じているのでは?』と疑っていた。


 呂布に左将軍の詔を陳登が持ってきたと言う話は陳宮にも耳に入った。


 呂布が自慢してきたのだ。


「張遼、いるか?」


 陳宮は張遼を呼んだ。


 張遼は忠義の将軍、呂布の下で無ければ名を挙げる武将である。


 しかし、上の人間が無能だと、真面目な人間や忠義の人間は相手にされない。


「陳宮殿、お呼びでしょうか?」


 陳宮は張遼にひそひそと何かを伝える。


「分かりました。犬馬の労を尽くします。」


 張遼は陳宮に従った。


 陳宮の読みは当たった。


 張遼がある男を呂布に突き出したのである。


「呂布将軍、怪しい人物を見つけました。」


 呂布は陳宮が捕まえてきた男二人を見て多いに酔いながら聞いた。


「その者らがどうかしたのか?」


 呂布は多いに酔っていたために理解が追いついていない。


「この者たちは曹操の密書を持っていました。どうやら、曹操は劉備と共に徐州を攻めるつもりです。」


 陳珪と陳登が呂布に進言する。


「ここは一つ、先手を取って劉備を攻めてはいかがでしょうか?」


 陳登が進言すると陳珪が続く。


「いいや、宴にその話は相応しくない。その件は明日考えればよかろう。何しろ呂布様か左将軍に任命されたのじゃ!! 曹操様がそんなことするはずもなかろうに、な~んちゃって!! わっはっはっはっは!!」


 陳珪は酔ったふりして呂布に言うと、呂布も笑っていう。


「そうだそうだ!! 左将軍と天子様から任命されたばかり、こんなめでたい時になぜ、この俺が曹操に攻められるのだ? 曹操は信用ならん男、劉備も本心ではあるまい。今日はもう寝ることにしよう。よし、明日、軍議する。其の者たちは牢屋に閉じ込めておけ!!」


 陳宮は愕然とした。


 仕方なく戦の準備を高順と張遼にさせ、戦に備えた。


 呂布が起きると捕虜の男たちは居なくなっていた。


 陳登が密かに逃してやったのである。


「呂布将軍、捕虜が逃げ出しました。」


 呂布はそれを聞いてこう答える。


「捕虜? そんな奴が居たのか?」


 陳宮は呆れながら曹操の密書を呂布に見せつけた。


 呂布は多いに驚き、怒鳴った。


「なぜ、早く知らせなかった!!」


 これには陳宮も流石に怒鳴った。


「将軍が今日話そうと言ったのでしょう!! その証拠に、私は徹夜で戦の用意をしておきました。なにかご不満でも?」


 呂布はそれを聞いて戸惑いながらも頷いた。


「さ、流石は軍師だ!! 今から劉備を攻めるぞ!!」


 この頃、劉備は戦の準備をしていた。


 しかし、呂布の先手を取る攻撃に備えるよう知らせが届き、曹操は急いで夏侯惇の部隊を援軍として送った。


 呂布は万が一に備えて城を守り、高順と張遼に劉備軍の攻撃を任せた。


 圧倒的な数の差に城から打って出ることは敵わず、劉備軍の秤量もそこを尽きていた。


「兄者!! このままじゃ、みんな腹減ってだめだ!! 援軍なんて待ってられねぇよ!! 俺が打って出てやる!!」


 張飛は呂布への恨みに燃えていた。


「だめだ。あの兵力では勝ち目がない。ここは曹操軍の援軍を待つしか無い。秤量は私の分を与えると皆に伝えよ。」


 小人は部下の秤量よりも己の秤量を優先する。


 大物は小人のような行いはしない。


「わ、わかったよ………兄貴………」


 張飛はそれを聞いて縮こまってしまう。


 その時、敵に動きがあった。


「なんだ? 兵士が退いてくぜ?」


 夏侯惇の軍勢が到着したのである。


「張飛、援軍のようだ。もう我慢しなくてもいいぞ!!」


 しかし、この時、呂布も城から打って出てきており、陳宮の『掎角の計』がまんまと当たってしまう。


 劉備軍と曹操軍が呂布軍を挟み撃ちにする前に、夏侯惇が挟み撃ちにあってしまったのである。


「まずい!! 呂布の狙いは劉備ではなくこちらに切り替えられていた。」


 夏侯惇が必至に包囲を突破すると、高順の放った矢が夏侯惇の目に当ってしまう。


「ぐわぁあああ!!!?」


 戦場で夏侯惇の悲鳴が挙がる。


 しかし、夏侯惇は矢を引き抜いて苦痛を挙げながら自分の目を鈍い音と共に食べてしまったのである。


 その時の苦痛の表情が鬼や修羅に見えてしまい。


 その気迫で呂布軍は慄いた。


 目を射られたにも関わらず、夏侯惇は死ななかった。


 それどころか、死に物狂いで襲いかかってくるのである。


「ひぃぃぃ!!! 化け物だぁぁあ!!!」


 夏侯惇はこのため、包囲を突き崩すことができた。


 夏侯惇はなんとか逃れることができた。


 劉備と夏侯惇は大敗してしまい、呂布軍は城を占拠したのであった。


「とりあえず、先手を取ることはできたな。 」


 呂布が一安心すると陳宮が進言した。


「呂布将軍、我らは曹操に命を狙われております。袁術による背後空の奇襲も心配です。袁術を一応形だけの同盟を結び、曹操へ牽制しても良いかと存じます。しかし、それは袁術に背後を狙われないよう一時的に話し合うだけ、早期決着を付けた後は、天子に曹操の野心を話、助けてもらいましょう。」


 それを聞いた呂布はなるほど、頷いた。


「よし、袁術への忠誠を示すために話だけだが、俺の娘を嫁がせるように言っておけ………あんな自惚れ野郎に娘を売るのは例え、話だけであっても許せんがな。乱世においては仕方がない!!」


 呂布は陳宮に従って呂布軍と決死の覚悟で戦うことを誓ったのだった。

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