第12話 愚君と愚宦、無名の猛将・張郃

 許攸が曹操を退ける前に、曹操がどのようにして呂布を退けたのか、曹操は袁紹軍に呂布軍が加わっていないことを知ると何か裏があることを理解する。


 実際、曹操の兵士は1000人、対して、袁紹の兵士は10000万、普通なら陥落は免れない。


 曹操にとっては絶体絶命であった。


 そのため、曹操は民を戦に強制参加させたのだ。


 民たちは戦を強制させられたが、曹操の指示に従い、怠けるものは居なかった。


「皆、真面目に守りを熟しているな。これなら、時間は稼げそうだ。」


 民達は必死に防衛戦を守ろうとした。


 無論、民は防衛戦をあっさりと放棄して下がって守ろうという。


 守りの指示には従ってくれるが、戦うとなると防衛戦は守れない。


 それでも、民の中にも主力並みに戦える者たちが居た。


 上下関係を口にしている愚か者たちよりも有能で指示も聞いてくれる。


 これ程の優秀な人材が活かされてないことに曹操は驚いたという。


 これに破れた袁紹軍は退却、その後、陳宮の策略によって伏兵に遭う。


「陳宮よ!! 何故道を阻むのか!!?」


 袁紹軍の問に陳宮が笑って答える。


「はっはっは、曹操を滅ぼした後、我らを挟撃する。そんなことも見切れん陳宮だとでも思ったか!!」


 曹操との戦いで疲弊したところ、呂布が攻めて来た。


 袁紹軍が覚悟を決めて剣を手に取る。


 袁紹軍は負けて帰ったとしても、袁紹の機嫌一つで死刑にされる。


 詰まり、ここで勝たなければどのみち殺されるということだ。


「こうなったら一人でも多く殺して死んでやるぞ!!」


 袁紹軍が決死の覚悟で戦いを挑む。


 しかし、呂布の猛攻撃には敵わず。


 逃げ出す者も存在した。


「はっはっはっは、貴様らは曹操が殺したと袁紹に伝えておいてやろう!! ありがたく思え!!」


 そう言って呂布は何人もの袁紹軍を切り捨てた。


 そんな時、どこからか軍勢が押し寄せてきて呂布を注意する。


「呂布殿、嘘はいかんな………俺が袁紹に真実を教えておこう。」


 呂布が声のする方を振り返るとそこには曹操が居た。


 しかも、激戦の最中、包囲されている。


「馬鹿な!!? 曹操軍の主力がなぜピンピンしているのだ!!?」


 この時は流石の陳宮も曹操が主力を温存していたことまでは読めなかった。


 北南西の三方向から曹操軍が突撃する。


 北からは許褚と典韋、これは呂布の退路を断ち、城へ退却させないため、南からは曹操、夏侯惇、夏侯淵、西からは楽進率いる中核武将らが、東を開けている理由は敵軍の逃げ道を故意的に用意している。


 三方向から攻められた呂布、袁紹軍はごぞって東の逃げ道から逃れ始める。


「お、おい、逃げるな!!」


 呂布が逃げる兵士に戸惑う中で典韋と許褚が攻めてくる。


「今日こそ決着をつけてやるぞ!! 呂布!!」


 許褚と典韋の猛攻撃に対して呂布が方天画戟であっさりと捌き、東に回り込む。


「くそ………貴様らなんぞにこの呂布の首が取れると思うか? さりとて、兵士が皆逃げては戦いにもならん。せっかく手に入れた城だというのに!!」


 呂布は無念と思いつつも陳宮と共に東に逃れるのであった。


 こうして、呂布を城から追い出すことに成功する。


 曹操はそのまま袁紹軍へと向かった。


 この頃、公孫瓚を滅亡にまで追い込んだ麴義だが、袁紹に秤量を頼んだところ、いつまで待っても届かず、激怒して公孫瓚へと寝返ったのである。


「あの愚君め!!? この俺様が単騎で公孫瓚の包囲から救ってやった恩も忘れたか!!」


 有能な人材は名君の元で輝くが、愚君の元では嫉妬されて輝くこともできず、まるでバブル崩壊から愚君が何も学ばない様である。


「フッ、麴義、貴様が我に寝返るのは思っても見なかった。我々は壊滅寸前、持て成すことはできんぞ………それでも、この公孫瓚と運命を共にしようというのか?」


 公孫瓚の言葉に麴義が答える。


「この俺が袁紹軍の雑魚共に遅れを取るとでも思うのか?」


 公孫瓚は複雑そうに答える。


「我軍を破ったお前ならそれが可能かもしれんが、こちらには兵力も秤量も無いのだ………今ならその気持だけでも嬉しい。だが、運命を共にする必要はないと思うぞ!!」


 麴義が激を飛ばす。


「うるせぇ!! この俺が袁紹軍ごときに負けると思ってんのか!!」


 麴義の羌族としての戦術がことごとく袁紹軍を蹴散らしていく。


「文醜でも顔良でもなんでも来やがれってんだ!!」


 麴義は公孫瓚軍を壊滅に追いやった後で、更に袁紹軍とも戦っている。


 麴義軍は公孫瓚と袁紹を相手に連戦続きであった。


 流石に疲弊が現れてきた様子、そこに噂の二人が現れる。


「お望み通り、相手になってやるぞ!!」


 文醜、顔良が麴義の前に立ち塞がる。


 麴義は悟った。


 袁紹が元々この麴義を殺すつもりであったことを………


 一方、その頃、袁紹はと言うと………


「こんなことなら麴義の奴に秤量を送っておくべきだった!! 曹操と麴義に攻められてはおしまいだ!!」


 袁紹は居ても立っても居られなくなっていた。


 騒いでばかりの袁紹の元に報告が入り込む。


「え、袁紹様!!」


 袁紹はびっくり仰天して訪ねた。


「麴義と曹操がもう来たのか!!?」


 しかし、報告は意外なものであった。


「いえ、曹操が引き返していきます!!」


 袁紹はそれを聞いて大いに喜んだ。


「許攸の奴がやってくれたぞ!!」


 許攸の活躍によって袁紹は救われることとなる。


 それと同時に、許攸は文の者たちから多いに嫉妬を買うことになってしまう。


 そして、こんなことを言うのだ。


「もしや、許攸は曹操と繋がりがあるのでは?」


 その言葉に優柔不断の袁紹が『むッ!!』と思い悩む。


「そうですそうです。きっと、曹操と手を結んでいるのですよ!!」


 袁紹は『なるほど』と思い許攸を呼び寄せた。


「許攸、この度の働きには感謝しておる。そなたは誠に命の恩人だ。して、曹操とは面識があるのか?」


 許攸は真っ先に聞かれることは、計略の内容だと思いこんでいた。


 なぜ、曹操との面識を聞かれたのか全く理解できなかったのである。


 無能の人間は有能を適当な噂で貶める。


 そして、無能な君主は有能な人材も見切れない。


「はぁ………? 確かに私は曹操とかつての友人ですが?」


 その返答に袁紹は激怒した。


「貴様!! 曹操と手を組んだな!!」


 許攸は吃驚して全てを悟る。


「なるほど、さては文の者たちに唆かれましたな………仮に、私が曹操と手を組んでいるなら、麴義の裏切りを曹操に伝えます。そうなれば曹操は撤退などしますか?」


 その言葉に袁紹は全くもってその通りだと思い込んだ。


「どうやら私の杞憂のようだな。全くもってすまない………」


 許攸は袁紹の元を離れると溜め息を付いた。


「君主があれでは長くは持たないかもしれない。文の者は私利私欲ばかりで無能揃い。口先だけだ………」


 許攸はゆっくりと休むことにした。


「はぁ………はぁ………」


 麴義が息を乱して文醜、顔良を退ける。


 余りの強さに文醜と顔良は思わず逃げてしまった。


 二人を追う体力が麴義にはもう残っていない。


 そう、麴義とは、これ程までに強い武将なのだ。


「惜しいな………」


 疲れ切った麴義が振り返るとそこには張郃(ちょうこう)が居た。


 張郃は沮授や許攸と意見がよく合うも親密な関係ではなかった。


 故に、麴義を殺すことには反対していたが、袁紹がそれを聞き入れてくれなかったために張郃の位は麴義、文醜、顔良らよりも低い。


 許攸が文の者たちに嫉妬されるなら、張郃は武の者たちに嫉妬されるのである。


「誰だ貴様は………」


 麴義は張郃のことを知らなかった。


 それだけ、張郃のちいは低いのである。


「麴義、無駄な抵抗はやめて投降しろ………無駄かもしれんが袁紹には俺から頼んでやる………貴様の命だけは許してやれと………」


 麴義は笑って答えた。


「貴様、何様のつもりだ? 一兵卒にも満たない分際で、この俺様に投降しろだと? 挙げ句には、俺が袁紹に頼んでやるだと? 馬鹿馬鹿しい!! 袁紹は無能で肩書だけを見ている愚か者だ!! そして、貴様もこの俺様より上だと思いこんでいる愚か者でこれからこの俺に殺されるんだよ!!」


 麴義が張郃に切りかかった。


 誇り高き麴義にとってこれ以上の侮辱はないだろう。


 麴義は張郃の本質を見切ることができなかった。


「愚か者は殺されるだけ………か、たしかにそうかもしれんな………」


 張郃が麴義の槍を受け流してカウンター、腹部に石突(刃の付いてない端の部位)を喰らわす。


 これを受けてしまった麴義は思わず膝を付いてしまう。


(な、なにを喰らったんだ!!?)


 麴義は張郃を見上げて睨み付ける。


「体力さえ戻れば………ぐッ!!」


 張郃の一撃は思ったよりも重いようだ。


「麴義!!」


 麴義の危機に現れたのが公孫瓚であった。


 公孫瓚は張郃に矢を何度も放ち、麴義を担いで難を逃れる。


「公孫瓚………すまねぇ………」


 助けられた麴義が礼を言えば公孫瓚が皮肉を言う。


「フッ、我軍を滅ぼした貴様を助けることになるとは………この俺も人が良すぎたか………」


 その言葉に麴義が苦痛を噛み締めながらもなんとか笑い飛ばして言う。


「時間は稼げそうか?」


 その言葉に公孫瓚は黙り込む。


 その後で言う。


「趙雲さえいれば………」


 麴義もそれには同感した。

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