第5話 孫堅vs呂布、裏切りの兵糧攻め

 天下の豪傑である呂布と孫堅の衝突、流石の孫堅も天下無双と言われる呂布の前では、苦戦を強いられた。


「ぐッ!!? 流石は天下が認めた豪傑、ただの木偶の坊ではないな………だが、戦は一人で決まるものではないわ!!」


 孫堅が合図をすると、右手からは程普、左手からは朱治、後ろからは祖茂が迫る。


 この頃の程普は若く、力だけなら孫堅以上であった。


 程普が呂布の攻撃を受けに専念すれば、巧みな槍捌きで孫堅が攻撃してくる。


 孫堅の槍捌きは隙が無かった。


 大軍師の末裔から誕生した槍術は呂布の槍術を超えていた。


 呂布も孫堅の槍捌きが本物だと解かれば孫堅を狙うも技量の差で槍を先に受けるのは呂布の方だと悟り、怯んでしまう。


 呂布は堪らず撤退を決断する。


「なんとか追い返しましたね。しかし、天下無双というように凄まじい力、あのまま続けていれば、呂布を殺す頃には何人死んでいたか………」


 孫堅も少しホッとしていた。


 敗走した呂布に董卓は大激怒、3000の兵士を失い大損害だとずっと怒ってくる始末である。


「呂布、貴様!! この俺に赤兎馬を渡されておきながら二度も敗走してくるとは、覚悟はできてるんだろうな!!」


 董卓には計略や戦略がなかった。


 故に赤兎馬と天下無能の呂布に兵力が上回れば負けるはずがないと思っていた。


 しかし、戦とはそう甘くはない。


 人材が揃っていても上の人間が愚かだと宝の持ち腐れということであろう。


「董卓様………いや、丞相!! お待ちください!!」


 董卓が呂布の首を切ろうとしたところ、李儒がそれを静止させる。


「孫堅は中国が生み出した大軍師、孫氏の末裔です!! 孫堅は17才にして海賊戦艦2隻を相手に躍り込み、海賊を皆殺しにした豪傑、甘く見てはいけません。」


 それを聞いて董卓は耳を疑った。


「17歳で海賊を皆殺しにしたのか?」


 その問いに李儒が答える。


「はい、それもたった一人でです。『関所』が『2つ』『突破』されるのもなんら不思議ではありません!! このまま呂布将軍を切り捨てれば、孫堅は一人でこの洛陽に踊り込んでくるでしょう。 孫堅が迂闊に攻めてこないのは呂布将軍が居るからです。」


 孫堅の恐ろしさに董卓は体から汗を吹き出した。


「で、では、どうすればよいのか!!」


 李儒は董卓に提案した。


「孫堅は戦上手、このまま戦っても兵力が尽きるだけです。兵力が尽きれば我々が死ぬのも必然、詰まり、洛陽を捨てるのが上策かと………」


 それを聞いた董卓は李儒に嘆く。


「おお、李儒よ!! この董卓にここでの贅沢を捨てよと!!? そ、そんなことはならん!!」


 李儒が口を開く。


「はっはっは、それにはご心配なく。いざとなれば、洛陽の民から金品を略奪すればいいのです。何の問題もございません。」


 これを聞いて董卓は冷静になり、李儒の言い分に笑ったのである。


「李儒よ。お主の言葉で目が冷めたわ!! 金持ち共から根こそぎ奪い取るぞ!! そして、呂布よ!! 勝敗は時の運だ!! 儂はお前を許すことにする!! はっはっはっはっは!!」


 この寛大な処置に呂布は感服した。


「お父上と呼ばせていただきます!!!」


 一方、反董卓連合軍の方では呂布を二度も打ち負かして曹操が大喜び、しかし、袁術は大いに不満で袁紹に進言する。


「兄貴、孫堅をこのままにしていて良いのですか!!?」


 その言葉に袁紹が聞き返す。


「それはどういう意味だ?」


 袁術が怒りに任せて言う。


「孫堅は野心があって命令でもない夜襲を仕掛けたのです!! 一気に洛陽を落として天子を助けた後は我々を狙うに決まっています!!」


 孫堅が袁術を狙う可能性はあるが袁紹を狙うかは如何程か、しかし、袁紹は孫堅という男がどういう男かわからなかった。


「孫堅に食料を送るのをやめましょう!! それが得策です!! 兄上!! ご決断を!!」


 弟の言葉に袁紹がグラついた。


「よし、食料を少しずつ減らしていこう。」


 孫堅が何度か攻めるも呂布の射程距離が異常、故に膠着状態となってしまった。


 そんな時、討伐連合軍では変な噂が出回っていた。


「おい、なんか食料が少なくないか?」


 その噂は孫堅軍から出回り始めたのだ。


「いや、ちゃんと送られたぞ?」


 孫堅軍以外は食料がちゃんと送られており、気のせいかと思われていた。


 しかし、ある時、食料が全く送られなくなり、孫堅軍は戦どころではなくなった。


「クソ!! 城攻めの準備をしたいが狩りをしなければ食料がままならない、我軍に糧秣はまだか!!」


 孫堅が激怒すると袁紹がそこへやってきた。


「孫堅、近頃、お主に食料を送ってないと見える。私が今すぐ食料班に支給するよう急ごう。しばし待て!!」


 それを聞くと孫堅が大喜びして言う。


「総大将が言うなら安心だ!! 食料が届き次第、虎牢関を陥落させてやりましょう!!」


 孫堅を安心させ、孫堅軍を見回ると対呂布用の簡易的な破城槌の骨組ができていた。


 孫堅軍が狩りに時間を奪われていなければ虎牢関はとっくに陥落していただろう。


 袁紹は孫堅への食料を止めて正解だと安心して、孫堅に約束させる。


「それは良かった。急いで食料を送らせよう。」


 無論、袁紹が孫堅に食料を送るはずもなく。


 3日がたった。


 董卓軍の李儒が孫堅軍を眺めると転機が来たと思い大慌てで董卓のもとへ報告に参る。


「董卓様!! 奴ら、孫堅軍を裏切って食料を送ってないようです!! 人材が揃っていても上の人間が愚かでは宝の持ち腐れぞ!! 愉快愉快!!」


 これを聞いて董卓は自分のことを言われているのかとも思わず大いに喜んだ。


「はっはっは、所詮は逆賊、烏合の衆とはこのことだ!! 呂布よ。 目障りな孫堅軍を蹴散らせ!!」


 この命令に呂布も大喜びで応えた。


「はッ!!」


 呂布が出兵に向かうと董卓が止めに入った。


「待て、皆殺しにしろ………一人も生かして返すなよ?」


 董卓が気持ち悪い程の嘲笑を浮かべている。


 これには呂布も同じく嘲笑を浮かべて言った。


「はい!!」


 呂布は孫堅に連戦連敗であり、恨みに燃えていた。


 相手の孫堅軍に辿り着けば皆が飢えに苦しんでおり、とても戦える状況ではないと呂布も見ただけでわかった。


「孫堅!! どこに居る!! 殺してやるぞ!!」


 孫堅軍は無抵抗であったが、呂布はお構いなしに斬殺を繰り返した。


 孫堅も飢えに苦しんでいるために死を覚悟した。


「まさか、『味方』から『兵糧攻め』に遭うとは、この孫堅、夢にも思わなんだ………皆の者、すまぬ………」


 そんな時、祖茂が孫堅にこんな事を言うのだ。


「そ、孫堅様………この祖茂、思うに孫堅様のお役に立てました。最後に、褒賞をくだされ!!」


 孫堅は突然の祖茂の申し出に何を言っているのか理解できなかった。


「こ、こんな時に欲しい物があるのか? それは何だというのだ!!?」


 祖茂は孫堅から『帽子』を奪い取った。


 その行動に孫堅が驚いて口を開く。


「まさか、貴様、待て!! その『帽子』を返せ!!」


 孫堅は祖茂が帽子を奪い取って董卓軍に裏切り、褒美を貰うのではと懸念を抱く。


 しかし、その懸念は即座に晴れる。


 そう、祖茂は孫堅の身代わりになるつもりだ。


「孫堅様、私は孫堅様のように若くはありません。17歳で海賊を倒し、関所も落とし、天下に手を掛けました。この祖茂、孫堅様に命を捧げられて幸せです………お幸せに………」


 祖茂は孫堅と孫策、周瑜を隠して部屋を出て行く。


 孫堅は自分の食料を兵士たちに与えたことを後悔した。


「くそ………俺の食料を削ったばかりに………忠義の部下を失ってしまった………」


 祖茂は孫堅の馬を持ち出し、孫堅の槍をまでも持ち出した。


「この祖茂は欲深き男です。帽子だけでなく馬や槍までもらいました。これ以上のない幸せです!!」


 祖茂の決心は益々固まり、呂布を挑発する。


「呂布よ!! 孫堅はここに居るぞ!! 二度も負けた腰抜けがおめおめと今更なにをしにきた!! この負け犬め!!」


 それを聞いた呂布は大激怒して祖茂に向かっていった。


 祖茂は同士討ちの覚悟で呂布と相打ちを狙う。


 しかし、悲しくも空腹故に呂布の鎧を貫く力もなく、一方的に切り刻まれてしまった。


「孫堅様万歳………」


 『ドサ』っと言う音と共に祖茂の首が切って落とされた。


 呂布が大満足して董卓のもとに帰るとその首を献上した。


「董卓様、お喜びください。孫堅の首がここにあります!!」


 その後、討伐連合軍に孫堅の死が知らされた。


 驚きの衝撃が走る中で曹操が言う。


「あの孫堅が死んだだと!!? とても信じられん!!」


 それに続いて袁紹がことの重要性に今になって気がつく。


「こ、このままでは呂布軍に攻め込まれてしまう!! だ、誰か、呂布の首を取れる者はおらんのか!!」


 しかし、孫堅の死によって連合軍は呂布を恐れて誰も名乗りを上げなくなってしまった。


 それほどまでに孫堅という存在は大きかったのである。


 曹操はあることに気が付いた。


「まさか、兵糧が孫堅にだけ届いてないという噂は本当だったのか!!?」


 袁紹が『これはまずい』と思い兵士に命ずる。


「何だと!!? 急いで食料班をここに呼べ!! 軍律により刑に処す!! 棒叩き20回だ!!」


 本来なら棒叩き100回であろうが、20回で済まされた。


 皆の前で刑を執行すれば袁紹がこう言う。


「罪を犯したものはこれと同じ目に合うと思え!!」


 この時、曹操は討伐連合軍に亀裂が走っていると感じとる。


「袁紹め………総大将の器ではなかったか………」


 この時、公孫瓚も進言できず、張飛は公孫瓚の陣で感情的になっていた。


「クソ、奴ら、己の野心のために孫堅を殺したんだ!! 孫堅の仇は俺が取ってやる!!」


 張飛が蛇矛を持つと食料班の元へ切り込もうとする。


 其れを見ていた関羽が止めに入る。


「よせ張飛、今更だ。お前が言っても総大将が我々に良からぬ感情を抱く。そうなったら我らが兄上、劉玄徳(劉備のこと)様のお立場も苦しくなるぞ!!」


 その言葉に張飛は声を挙げて蛇矛を投げ捨てた。


「くそぉッ!!」


 そこへ、劉備と公孫瓚が現れてこういう。


「討伐軍も許せんが戦意喪失している孫堅を惨殺した董卓と呂布も許せん!! 張飛よ!! この公孫瓚と共に呂布を倒そうぞ!!」


 その言葉に張飛も応えて孫堅の弔い合戦を決死する。

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