UMAの本懐8

 大変な事がわかったと言いながら突き出して来た俺が先程手渡したメモ帳。

 それを受け取り、書かれている内容を精査する。


 わりかし几帳面そうな字で、佐藤、有藤、伊藤と三ページに渡って、文頭に名前が記してあった。


 まず初めに、佐藤のページから読んで見ることにする。


 大きさ→座って佐藤の腰位の高さ。佐藤の身長は百七十センチだから八十センチくらい?


 色→白っぽかった。一瞬だから白とは断定できない。緑色の模様があったように見えた。


 形→綾が着ていたきぐるみのような体型。寸胴って事?ツチノコ体型。


 続いて有藤。


 大きさ→興奮していたから正しくはわからないけど大きかった。

 これくらいかなと両手を広げて見せてくれた。有藤は佐藤より身長が高い。両手を広げたら百センチくらい?ゴロゴロと転がって行く時にヒィと鳴き声をだしていた。ツチノコって鳴くの!?


 色→やや茶色がかった白。


 形→尻尾は細く、胴が太い。


 最後に伊藤。


 大きさ→胸の高さくらいじゃなかったかとの事。三人の中で伊藤は一番背が低い。胸の高さなら百センチちょいくらい?


 色→白だったと思う。◎三人共通!


 形→尻尾があった。お腹の部分が広かったと思う。◎これも三人共通!


 ここまで読んで推理に視線を向けると、キラキラとした瞳で俺を見ていた。



「ねっ!大変な事がわかったでしょ!?」


 推理の言う大変な事が何なのか俺にはよく分からなかった。

 何か見落としたのかと、もう一度メモ帳に視線を落としてみるも、新しい情報は何も得られない。


「なんの事ですか?」


「目撃情報よ!かなり共通点があると思わない!?」


 まあたしかに共通点はあることにはあるが、サイズ感はバラバラだし、模様があったと発言しているやつもいるわけだが。


「共通していない部分もあるみたいですけど」


「そんな事どうでもいいじゃない!」


 力強く推理は否定する。


「ですけど、確たる証拠って事にはならないですよね。というか推理先輩_____一つ良いですか?」


「なに?」


 推理はそもそもツチノコが居ないことを証明するためにこのイベントにやってきたはずだ。

 それなのに、今の推理の行動や言動を見ていると違和感を覚える。

 これだけは確定させて置かなければならない。


「推理先輩は、ツチノコを見つけたいんですか?存在しない事を証明しにきたんですか?どっちです?」


 推理は俺の質問を馬鹿にするように二ヘラと口元をグニャリと歪めると、俺の両肩を小さな両手で抑えつけてこう言ったのだ。


「そんなの______居たほうが絶対に面白いじゃない!真悟はそう、思わない?」



 _____________________



「綾ー。大丈夫?」


 推理は遠慮なんてものはなしに、ズカズカと古民家の玄関先に上がり込んで行く。


 ここが綾の祖父の家だと知っているから、黙ってついて行っているが、知らなかったら逃げ出している所だ。


「綾ー?」


「橋渡先輩は寝ているんじゃないですか?」


「だとしても、葵木君が一緒にいるでしょう?」


「だったら葵木を呼ぶべきじゃないですか?」


「……それは一理あるわね」


 なんて不毛なやり取りをしていたら、気品の感じられるロングヘアーの女性が廊下からひょっこり顔を出した。歳の頃は三十代半ばと言ったところだろうか。


「あら、推理ちゃん。いらっしゃい。いつもありがとうね。うちの父さんのわがままに付き合って貰って」


「あっ、燿さん久しぶりです。いえいえ。私も好きでやっているので」


 父さん?誰の事を指しているのだろう。小声で誰ですかと推理に尋ねる。


「あー、綾のお母さんよ。橋渡燿はしどひかりさん」


「あ、君がもしかして阿部君?綾から噂は聞いているわ」


「そうです。宜しくお願いします」


 柔らかな笑顔を浮かべる燿には、綾を彷彿とさせる柔和さがあった。


「うん。よろしくね。綾はそっちの部屋で横になってるわ。勝手に上がっちゃって」


「はい。わかりました」


 言うやいなや、推理は靴を揃えて玄関をあがると、綾が寝ている部屋の襖に手をかけた。

 慌てて俺もその後についていく。


「あっ、そうだ推理ちゃん。紡にはもう会った?」


 その言葉をかけられた瞬間、推理はピタリと動きを止め、カラクリ人形みたいなぎこちなさで燿のほうへ振り向いた。


「紡も来てるんですか?」


「うん。二時間くらい前にね。私と一緒に来たのよ」


 燿さんは屈託のない笑顔でコクリと頷く。きっと悪気は一切ない。


「そうなんですか。まだ会ってないです」



「あらあら、あの子は推理ちゃんに会いに来たような物なのにね」


 取ってつけたような作り笑いを浮かべて推理はそう答えた。

 紡さんって人はまだ俺は知らない。だけど推理が苦手なんだろうなと言う事は安易に理解できる。

 きっと綾に似て、燿さんにも少し天然な所があるんだろうと言う事も理解できた。いや、綾が燿さんに似ているのか。


 無言のまま、推理は襖を開くと中へ入っていった。

 燿さんに一瞥してから俺も推理に続いて部屋へ入り、襖を締めた。

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