第6話 呪災 結
私たちは殺されちゃうのか。そう考えていると、誰かが私の手を掴んで走った。能面男の手を振り払い私を連れて走った。
「御巫さん!? どうやって……。」
「私ね。神社の子だからって理由でさ。除霊能力あるとか皆に言いふらしてたの。本当はそんな力ないのに適当なこと言ってちやほやされてたの。」
「それでさ。その時、丁度変な都市伝説があって、誰か人ではないものが住むっていう廃墟があって。」
「でも、私本当は幽霊とかそういう怖いの嫌いでさ。一人だと怖いから、その時一番仲良かった友達をほとんど無理矢理連れてったの。証人がいるとか適当言ってさ。」
能面の男がすぐ後ろにいる。命からがらの全力疾走の中、御巫さんの話しは不思議と大好きな声優さんの話のように耳に入ってきた。
「結局廃墟にいたのは警察から隠れていた性犯罪者でその友達は私のこと庇って捕まっちゃって、でも私怖くて、怖くて。」
御巫さんの顔は震えていた。泣いていた。
「ずっと嫌な音が聞こえていた。卑しい声が。悲鳴が。ツユちゃんは私のために死んだのに、私のせいで死んだのに。私何もできなくてずっと物置で震えていた。」
「次は自分の番かもってずっと怖かった。数日くらいかな。警察が来てくれて、犯人は捕まって私は助かった。でも、ツユちゃんは、」
「……。私はその事について言えることはないけど、その出来事のお陰と言っちゃ何だけど、私は今こうして人として生きる道を歩けている。誰だって間違えるし怖いことはあると思う。それは仕方ない。大事なのは間違えた後どうするかだと思う。」
お父さんがよく言っていた。失敗は成功のもとって。
「ユリちゃん……。ありがとう。私絶対にユリちゃんのこと守るから。絶対に電話を見つけてね。」
御巫さんは私に十円を渡すと能面男の方に走っていった。それと同時にホラ貝の音が鳴る。
「御巫さん!」
駄目だ。戻っちゃ駄目だ。逃げちゃ駄目だ。私は進まないと。走らないと。怖がっちゃ駄目だ。電話を見つけないと。
ホラ貝が鳴り響く中。私は電話を見つけた。電話の周りには無数の五円玉が落ちていた。
「はぁはぁっ。」
私は荒い息を整える間もなく受話器に手を伸ばす。
「ああ。お嬢ちゃん。その電話は故障しててね。使えないんだよ。」
後ろを見るとそこにいたのは警察だった。
「お、お巡りさん!!」
私は全ての事象を話した。パトカーのサイレンと共に、能面男はどこかへ逃げていった。
ひろあきさんは私たち二人を強く抱き締めた。
「俺のために無茶しやがって。駄目だろ。」
まああなたのためじゃないんですけどね。出会って間もないおじさんのために命かけるほど私は聖人じゃないし。
ひろあきさんは事情聴取のために警察に連れていかれた。
「二人も家まで連れていこうか? もう遅いし。」
「大丈夫です。私たちは二人で話したいことがあるので。」
「そうか。気をつけて帰りなよ。」
「……。今日はありがとね。」
御巫さんが私に言う。
「お礼を言うのはこっちの方よ。あなたは私の命の恩人よ。」
「……。ツユちゃん。私、やり直せたよ。」
「……。っていうか御巫さんも怖いの苦手なのね。」
「まあね。あなた程じゃないけど。」
「はぁ? 私だってそんなに怖いの苦手って訳じゃないわ。今日だってあんな怖いトンネルで変な能面男から逃げ切ったし。」
「ふーん。じゃあここに置いてっちゃお。じゃあね。」
御巫さんは走り出した。
「あっ。待ってよ。」
「やっぱ怖いんじゃ~ん。」
「怖くないもん。」
私は御巫さんを追いかけた。行きはあんなに長かった坂道をあっという間に下り、汚く見えた沢の水はとても綺麗に見えた。
何だかずっと憂鬱だったけど。こんなに楽しいのはいつぶりだろう。無邪気な子供のように私と御巫さんは山道を走った。
「くっそ。何で公衆電話に五円玉が入らない。ここはどこだよ。くっそ。」
山道で少し小太りな男が歩いていた。男は私たちを見ると顔をしかめた。
「んだぁ。ガキがこんな時間ほっつき歩きやがって。」
男は懐から刃物を取り出した。
「……。ユリちゃん。走って。」
私は走ろうとした。しかし、怖くてうまく走れなかった。御巫さんは私を庇って男に刺された。
「御巫さん!?」
「ユリちゃん、、生きて……。お願い。」
私は山道を駆け上がった。さっきまであんなにウッキウキで走ってた山道が今度はひどく怖いものに見えた。
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