呪災少女の怪異探偵談
ポンコツ醤油
霊媒呪女
第1話 呪災 起
「今日はユリの誕生日だからな。父さん奮発しちゃうぞ。」
「ありがとう。でもあんまり無理しないでよ。父さん。」
「遠慮すんなって。ユリ。」
私はユリ。今年で中学二年生になった。母は私が六歳の時に原因不明の病で死んだ。母が死んだあと、たった一人の兄弟だった兄は母の後を追うかのように事故で死んでしまった。
父は不器用だが、誰よりも情熱的で、男手一つで私を育ててくれた。体育祭の日に私のためにキャラ弁を作っていて仕事に遅刻したこともあった。
私は父とは対称的に面倒臭がりで、勉強も全然できないが、文化祭などの行事のときは人一倍熱心になる。こういうとこは父の血を継いでるのだろう。
今日は私の誕生日なので、父に寿司屋に連れていって貰うことになってる。私は生物は好きじゃないが、寿司屋に行きたいと父に言った。父は寿司が好きだから。
寿司屋の前の信号を渡っているときであった。私と父が渡っている交差点に赤い車が突っ込んできた。
「ユリ! 危ない!」
これが父の言った最期の言葉であった。父は事故に巻き込まれて命を落とした。
しばらく、言葉が出なかった。父が死んだことによる悲しみから。これからどうなるんだという不安から。
警察から色々詳しいことを聞かれた後、運転手の男が私に謝りに来た。四十代ほどで右目の隣に傷がある男だった。
「すまない。本当にすまない。」
男は私に頭を下げてきた。
そして、私の親権は田舎に住む父方の祖父母に渡った。私は長く暮らした小さな家から旅立つことになった。
祖父母の住む、遠吠え村は都心から離れた山の中にある小さな集落であった。私も本当に小さい頃に一回来たことがあるだけであった。
新幹線に乗って、そこからバスで数十分、山道を移動した。そこから更に三時間ほど歩いて私は祖父母の家についた。
「よく来たね。長旅疲れただろ。」
祖父が私を迎えに来た。祖父は昔、大工だったらしい。
「父さんのことは残念だったね。さあ中へお入り。」
祖父は私を家の中にいれた。木造建築で決して広いとは言えないがどこか落ち着く雰囲気の家であった。
「お。ユリちゃん。大きくなったね。」
祖母が台所から出てきた。
「お父さんのことは残念だったね。うん。」
祖母はそっと私を抱き締めた。
「よく、生き残ってくれましたね。あなたは。よかった。本当によかった。あなただけでも生きててくれて。」
祖母は泣いていた。自身の息子が死んだんだ。そりゃ悲しいだろう。なんて冷静なことを考えながら私も気づいたら泣いていた。
「これからは三人で、幸せに暮らしましょう。」
夕食を食べて、私はすぐに自分の部屋に行った。
私の部屋は二階にある三畳ほどの部屋だった。部屋には物はほとんどなく、棚の上にポツンとテレビが置いてあった。
「学校。友達できるかな。」
テレビをつけて、一人でボーッとしていた。
「ユリ。お風呂入りなさいよ。」
「はーい。」
しばらく、部屋で寝転んでいた。気づいたら十一時になっていた。祖父母はもう寝ただろう。そろそろお風呂入ろうかと考えていると下の階から声が聞こえてきた。
「ユリ。君は、来るんだ。こっちへ、さあ来るんだ。ユリ。」
一瞬ビックリしたが、すぐに冷静になった。テレビの音か何かだろう。私はテレビを消した。しかし声はまだ聞こえた。
「来るんだ。ユリ。」
私は恐る恐る声の方に行った。家中を歩いた結果、一階の押し入れから声が聞こえていた。
「誰なの? こんな時間に。」
私は押し入れに向かって話した。押し入れから聞こえる声はどこか聞き覚えのある青年の声だった。
私は押し入れを開けようとした。しかし、何かが引っ掛かって開かなかった。
「何をしているんだ。ユリ。」
押し入れを開けようとした音を聞いて起きた祖父が私に問いかける。
「変な声がここから聞こえてきて。」
「……。大丈夫だよ。ユリ。きっと大丈夫。今日はもう寝なさい。」
「え?」
私は祖父の言葉に困惑しつつもお風呂に入り、布団についた。
「結局、あの押し入れは何だったんだろう。」
その答えについては、まだここで話すことはできない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます