ゲンゴロウ(コメディ)

昔々、ゲンゴロウという怠け者の若者がおりました。


ゲンゴロウは実家で食わせてもらいながら、日がなダラダラと過ごしていて、ある日道を歩いていると草場の影に小さな太鼓を見つけました。


太鼓を叩いてみると、ゲンゴロウの鼻が高く高く伸びていきます。どうしたものかと慌てて太鼓の反対側を叩くと、逆に低くなり元通りになりました。


――これは面白い。


ゲンゴロウは自分の鼻がどこまで伸びるか試してみたくなり、立て続けに太鼓を叩き続けました。

ゲンゴロウの鼻は山を越え、雲を超え、そして雲の上で建設工事中の鬼の目に留まりました。


「これは丁度良い、柱の代わりに使おう。」


鬼はそう言って、ゲンゴロウの鼻に縄を縛り付け始めます。


何やら鼻に違和感があると思い、ゲンゴロウは慌てて太鼓の反対側を叩いたのですが、時すでに遅し。ゲンゴロウの鼻は天界に縛り付けられた後でした。


そういうわけですから、ゲンゴロウは括り付けられた鼻の先へ向かってどんどん体が上へ上がっていきます。


雲の真下まで来た時、ゲンゴロウは上へ向かって助けを求めました。

慌ててやってきた鬼たち、そして神様にゲンゴロウは


「鼻の戒めを解いて、助けてください。」


と、お願いしました。


ゲンゴロウを見て気に入った神様は、自分の愛人になるというのなら助けよう、と言いました。

ゲンゴロウは二つ返事で承諾し、助かったのです。


ゲンゴロウは八百万の神様たちからたいそう愛され、今でも贅沢三昧の日々を地上にいた頃と変わらず、ダラダラと過ごしているそうです。


神様はゲンゴロウを称える意味で、ある鮒に「ゲンゴロウ」と名付けて琵琶湖に放しました。

それが琵琶湖のゲンゴロウブナの由来だそうです。


またこの話は西へ渡り、ゲンゴロウがガニュメデスと名を変え神話になったのだとか。

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