第50話 熱

 シズルが蝋燭で出来た基地内に突入する少し前、


「ハーっ、ハッ、ハァ……ここね。蝋燭で出来てるから分かりやすいわ」


(かなりキョリあったのにあっというマについた……シズル、ホントウにメテットがユビさしたホウにチョクシンして……)


 シズルは本当にメテットの指し示された方向に向かってただまっすぐ走りつづけ、最短距離でラナが囚われているこの場所にたどり着いたのだ。


(トチュウでシズルにマモノがナンタイかいたような気がするけど……ダイジョウブかな?)


 腹部にあいた穴をおさえながらメテットがそんなことを考えていると、シズルはゆっくりと抱えていたメテットを地面に置き、口を開く。


「……今の今までこれが見つけられなかったとはね。腹が立つわ」


 シズルは基地の大きさを見て唇を噛む。シズル達の探していたその場所は大きく、今まで噂も聞かなかったのが不思議なくらいだった。


「いや……おそらくだが、これがデキたのはごくサイキンだとオモう」


「ここが? 言っちゃなんだけどここかなりの規模よ?」


 メテットの考えにシズルは首を傾ける。


「スクなくとも、メテットがシズルタチとアうマエにこんなケンチクブツはミなかった」


「……魔物ならこんなのも一瞬で作れるのね。改めて魔物ってのはすごいのね」


「……あるいはベツジゲンにこのキチをオいていたのかもしれない。あんなクウカンイドウがツカえるのならフカノウなハナシじゃない」


(それにしても……)


 メテットは蝋燭の基地にあったあるものに目を向けた。


(あれは、もしかして? ロウソクでデキているからウゴくのかまではわからないが……)


 メテットがよく見てみるとその基地は今までこの星で見てきたものとは明らかに違っていたが、むしろ、メテットにとっては懐かしさすら感じる景色だった。


 なにせメテットはこのような場所で宇宙に向かって打ち上げられたのだから。


(ここは……ハッシャジョウだ。エイセイやタンサキをウちアげるタメの)


「メテット? 目を見開いてどうしたの? 確かにここ変なものがあちこちにあって目を引くけど……」


(そう。シズルのハンノウがタダしい。このホシのマモノがこんなモノをツクれるワケがない。おそらくあのタダれたオトコはベツのホシから——)


「いや、それどころじゃない……! シズル! あいつはラナを


「え……どういうこと!?」


「クワしくはワからない! だがもしそうだとしたら——サキにイけシズル! マにアわなくなるかもしれない!」


「!」


 間に合わなくなる。その言葉を聞いたシズルは反射的に基地に侵入する。


 当然、基地に侵入したシズルを迎撃する為に蝋燭の地面からモコモコとロウソクの騎士が複数体湧き出てくる。


「退け! 今更あんたらが来たところで——」


 シズルが騎士を蹴散らそうとしたその時、


 基地の真ん中で、眩い光が放たれる。 


「——あれは」


 シズルは感覚でラナの炎だと理解した。

 シズルはその光をまばたきもせず見続けた。シズル目からジュウジュウと、肌からはチリチリと音がしていたのにもかかわらず。


 それは何よりも命令を重視するロウソクの騎士達が『侵入者を撃退する』という命令を遂行するよりも熱源の方を振り向く程の異常事態だった。


(この熱は、駄目——!)


 シズルはその炎はラナには到底耐えきれない程の火力だと悟る。目の前にいた騎士達を瞬く間に釘で串刺しにし、

 そしてかけがえのない友達である少女の名を叫んだ。


「ラナァーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」


————


「あの常識関係無しが!。こんな時に!。」


 男は手をかざし、基地に向かって命令する。


「生まれろ。1万倍蝋人形!。」


「!?」


 シズルは地面からもこもこと生えてきた巨大な手に握りしめられてしまう。巨大な手はそのまま基地の3分の1の蝋を消費して、巨大なロウソク騎士となる。


「この……! 離——」


 シズルは騎士の拘束を解こうとしたが、そうする前に騎士によって地面に叩きつけられた。


パァン!


 何かが破裂するような音が響く。すかさず騎士は叩きつけたところに全体重を乗せて踏みつける。

 虫と人、シズルと騎士にはそれだけの大きさの差があった。なので本来ならこの時点で決着は着く筈である。


 しかし、そうはならない。爛れた男は確信していた。


 その確信は正しく、シズルを踏みつけた騎士の足から12本の巨大な釘が足の内側から突き出され騎士の足は破裂する。

 そして、足があったところからむくりと、


「邪魔だっつってんでしょ……! お前ら最後の最後まで……!」


 怒りに満ちるシズルが起き上がる。


(急げ。これでも長くは持たん。。。!)


 男は懐から堕転した赤毛を取り出す。堕転した物には悪魔の魔力が滲む。それが赤毛の“繋ぐ”特性と組み合わさることで、百鬼魔盗団で見せたような空間と空間を繋いだ転移を可能にしていた。


「“繋がれ”。」


 男の目の前に空間の歪みが発生する。この歪みの先はラナを月へ打ち上げる為の


「早く種火を。。。熱!?。」


(触れられん!?。)


 空間の歪みに燃えているラナを抱えて入ろうとしたが、男はあまりの熱さに触れることもできなかった。


(このままでは。。。いや。待て。今この種火は僕の太陽を全て取り込んでいる。ということは。。。)


「——“起きろ”。太陽」


 男が恐る恐る命令すると、燃え盛るラナの体はゆっくりと起き上がる。無論そこにラナの意思はない。


(やはり。命令が通じる。。。! ならば。)


 男がほくそ笑む。


ズズゥン……!


 それと同時に1万倍ロウソク騎士が崩れる音が響く。

 釘と蝋で出来た山のてっぺんでシズルが男を睨みつける。


「もう逃がさん。あんたが転移するよりも早く串刺しにしてやる」


「それは不可能だ。お前は今から薪となるのだから。」


 男はニヤリと笑いシズルを指差した。その様子を見てシズルは構える。


(ラナを人質にしない? ……何かおかしい。燃えてるラナの様子が——)


「太陽。“あの女を焼き——」


 



 そこから先は少女のみが立っていた。


 男は全身が燃えながら膝を屈していた。

 命令の途中で一瞬でその焼け爛れた体を更に焼かれたから。

 シズルは理解出来ずに地面に倒れていた。

 燃えているラナの体左腕を熱線で撃ち抜かれてしまったから。



『焼き……尽くす……悪を』




 ラナの体を包んでいた業火がラナの焼けた皮膚や服の代替となってラナと一体化していく。

 そして、最終的にラナの体は元通りとなった。

 ある一点を除いて。それは少女の目だ。


 父からも綺麗だと言われた少女の両目が

 今はボウボウと燃えていた。





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