第22話 魔物会議

「まず、ロウソク頭のあいつらだけど、あいつら赤毛の塔ってとこにいるらしいわ。……この凍ってた赤い実、冷たくて美味しいわね」


 シズルは怠惰亭で得た情報を話しながら、隠れ家の植木鉢にあった氷の木に成っていた実をつまむ。

 しゃりしゃりしていて冷たく爽やかな甘みが口の中に広がっていく。

 ラナは赤毛の塔という言葉が出てきたことに目を見開く。


「赤毛の塔!? そんな危険なとこにどうして……」


「キケンなのか? アカイロのタカいトウならメテットもミたことあるが」


 ラナからもらった”夜明け“の情報を読んでいたメテットが危険という言葉に反応する。


「はい。この世界で一番危険な場所と言ってもいいかもしれません。メテットさんよく無事でしたね。」


 ラナの言葉を聞いてメテットは段々と不安になってくる。


「もしかして……ミたらシぬのか……? メテット、シぬ……?」


「いやそんなものじゃないです! すみませんメテットさん。驚かせすぎました」


 ラナは塔についてメテットに説明する。


「特に死ぬわけじゃないんですが」


(ほっ)


「近づきすぎると、赤い髪の毛がまとわりついてき

て、一生赤毛の器にされてしまうのです。塔を構成しているのは、赤毛に捕まった魔物達なんですよ。」


ガタガタガタっ!!


 メテットは目に見えて震え出す。


「そんなシがスクいみたいになるのほんとヨくない!!」


一方シズルはサラリと


「怖いところね」


「シズルあっさり。おかしい。」


「でも、そんなところにどうして……あの塔に行ったって赤毛が手に入るくらいなのに……」


「アカゲ? そんなキケンブツとってどうするんだ?」


 メテットは純粋な疑問をぶつける。聞いた限りだと、百害あっても一つの利益にもならないもののようなのに何故取ろうとするのか。


「赤毛は大量にいると襲ってきますが、少量だと、この世界でも最大級の回復手段になるんです。赤い髪は特殊な毛でなんでもくっつけることができ、それで取れた腕とかを繋ぐと問題なく動かせるようになります」


「すごいわね。要は使いようか。……まさか。それじゃない?」


「はい? あの騎士が怪我を気にするとは思えませんが……」


「違うわ、なんでもくっつくって言ってたじゃない。要は塔は今でっかい魔物みたいな状態でしょ? その塔をラナみたいに焼くんじゃないかしら」


「ニエにツカうと? ……ありエそう。ジブンタチにもマホウをかけるレンチュウだし」


「自分達に魔法……? どういうことです?」


「キづいてなかったのか。ラナ。ヤツらはジブンでラナとオナじマホウがかけている。キシがバクハツしたのがそれ」


「ええっ!? あれを、自分自身に!?」


 ラナは驚愕する。それに対してシズルは自らの見解を述べる。


「いや、あいつらに魔法をかけた別の存在がいると私は思う。あんな捨て駒みたいなやり方、そうそう自分にはやらないわよ。」


「そうか? ハジめてあったがあのなんでもやるカンじからミてやりそうじゃないか?」


「……どれも推測ね、まぁ、次の行き先はとりあえず赤毛の塔でいいんじゃない?」


「イくのか……? そんなアブないところ。」


「メテットさん怖いのでしたら窓だけでもお貸しいただければ……」


「メテットヒトリはもっとイヤ」


「とりあえず行き先は決まったわね。次の問題はタフラよ。」


 シズルは意を決して話す。


「……」


 ラナの顔がこわばる。


「……ラナ、ハナすけどいいか?」


「はい。大丈夫です。お願いします」


「……リョウカイした。まずタフラは、やはりモトモトチョウのケンゾクだったようだ。それが、あるマモノにデアってヒトのスガタにカえられた。タフラがイうにムクなるアクのケシンとかなんとか」


 ラナは気絶しているタフラを見る。メテットは話を続けた。


「タフラはそこでマモノのゴウマンさにイカり、ヒトになったトキにエたチノウをモチいてニげダした。……そして、そのあとキヅいた」


「ラナのオトウサマのケハイがどこにもないことに。だからノコったラナをタオして、ケンゾクをスベてジブンのものにしようとした。」


「……そうですか」


「ラナ」


 シズルはラナの目を見る。

 ラナは悲しんではいたが、絶望に打ちひしがれてはいなかった。


「予感はありました。お父さんとはもう会えないって。でも、生きてると信じたかった。だから、あの時取り乱しました」


 ラナは下を向いて目を瞑る。


「今も、苦しいです。やっぱり、きついんです」


「非道い話だと思います。だからこそ」


 ラナは前を向いた。



「ワタシはこの非道が許せない」



「もう、美しいもののためだけじゃない。手伝ってくれるシズルさん、メテットさん。そしてお父さんのためにも、ワタシは必ず復讐を果たします」


 シズルとメテットはラナをただ見ていることしかできなかった。

 もう理不尽に踏み躙られた哀れな魔物はどこにもいない。

 しばらくしてシズルが口を開く。


「すごい早さで強くなっていくわね。ラナ」


(……こんなにも眩しくなるだなんて。)


「シズルさん?」


「ラナ、お願いがあるの。これからは私のことをさん抜きでシズルと呼んでくれないかしら?」


「え!?」


 シズルは気恥ずかしそうに話す。


「嫌なら嫌でいいけど……今の貴方にさん付けされるのはちょっと恥ずかしいわ。」


 そして、メテットも、


「それなら、メテットもメテットとヨんでほしい。」


「メテットさんも?」


「メテットはさんヅけでもいいけど、ラナはメテットをナカマとしてミてくれた。ならそっちのホウがメテットはいい。」


 ラナはシズルとメテットの意を汲むことにした。


「……最初は変な感じがするでしょうが、改めてこれからも宜しくお願い致します。えと、シズル。メテット」


「任せて。ラナ」


「おう」


 魔物達は笑い合う。ラナ達は改めて、お互いを助け合う仲間となったのだった。



「いい話風に終われると思うなよ貴様らぁぁあ!」



全く空気を読まない声が部屋に響く。


「タフラ…もうそのままずっと目覚めなければ良かったのに」


「ハァンっ!! 余は貴様らなぞに屈さぬ! 仲間というなら好都合。ラナと共に貴様らも打ち倒してくれる!」


「シズルにイッシュンでやられたおマエがナニをイってるんだ」

 

 メテットは呆れながら言う。

 メテットの言う通り、シズルとタフラの間には絶望的な力の差がある。

 それにもかかわらず、表情が変わらぬまま、タフラは笑う。


「フン! 貴様らが互いを利用するならば、余も他の力を利用するだけよ! 貴様らは気付かなかったのか?」


「なぜ余がこの森に数多の罠を仕掛けられたのか! なぜこの森に余と同志以外の魔物が存在しなかったのかを!」


「……ナニ?」


 この森にはタフラとラナの父エリオスの眷属しかいない。そしてタフラは他の魔物を全て追い出せるような力はない。

 ではなぜいなくなったのか。それは、タフラと眷属以外、別のなにかから逃げたためだ。


「彼奴は余についてる発信機を辿って、!!」


「……ラナ!!隠し扉を!」


 シズルが叫ぶ。

 ラナは扉を、メテットは窓を開けようとする。

 しかし、


「来たぞ! 無垢なる邪悪が! かの魔王を打ち倒した勇者の仲間その一人、」


 全てを呑み込む貪欲の口から逃げるには時間が足りなかった。


「“魔女”がやって来たぞ!」


 4体の魔物は隠れ家ごと、巨大な魔物に呑み込まれてしまった。

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