第8話 未来

「…未来」


 ラナはゆっくりと呟いた。


「アナタはホンライならばチチオヤをミて、セイチョウして、そしてジブンでミチをキめていくはずだった。……そのキカイをウバわれた」


「だからアナタにはとてもムズカしいことだとオモう。でも、カンガえないといけない。トりカエしがつかなくなるマエに」


「トウキはアナタにミライをイきることをホウキしてほしくないから」


 その言葉を聞いた時、ラナの頭の中に人形の様なシズルの姿が浮かんだ。

 怨敵を確実に滅ぼすために島唯一の脱出手段を自分で塞いで、

 全てを費やして復讐を果たして、

 何百年もただ生きてきただけの虚しい復讐鬼の姿を。


(ワタシも復讐をすればああなってしまうのかな?大事なものを失って?今の私にとって大事なもの……)


 そう思って浮かぶのは今度は優しいシズルの様子だ。この状況で唯一ラナに味方してくれた。


(今のワタシ、いや、前のワタシでも、力はまるで足りない。シズルさんが如何に強くても、やられてしまうのかもしれない。シズルさんが、消えてしまうかもしれない。)

 

 それは——とても嫌だ。


「えっと、その……」


「……」


 メテットはラナの答えを黙って待つ。しかし、ラナは答えられない。


(でも、あいつらは許せない。あいつらは美しいものをワタシから奪うから)


〈今の状態で綺麗な景色とか見てもきっとつまらなく感じるわよ?〉


〈きっと美しいものをその残った右目に写せるだろうから。〉


 ラナはポロポロと泣き始めた。


(このままだとワタシは綺麗なものを見れない! どうすればいいの? お父さん…)


「ラナ? アナタからデているクロいケムリは—―」


メテットがラナから出ている黒い煙について言及する前に、


どす黒い怒気が二人を貫いた。


「ラナを、泣かせたの?」


シズルはいつの間にか背後に立っておりその形相はラナの今まで見てきたシズルとは思えないほど恐ろしかった。


(フりムけない。トウキにヤドったココロがフりムくことをキョゼツしている……!)


「ねぇ、私はラナと二人で話すことを許したわ。でもそれはラナを泣かせたかったからじゃないのよ?」


 言葉に明確な殺意が宿っている。

 何をしても詰み。どのような選択をしても消滅する。メテットにはその確信があった。


 しかし、メテットは自分の恐怖心を押さえつけて


「メテットもラナをナかせたくない! だがこれはカノジョにヒツヨウなことなんだ!」


 振り向きシズルに正面切って言ってやった。

 その様子を見て少しだけ、シズルの怒りは治まった。


「シズルさん……」


 シズルは今できる限り優しくラナに聞く。


「ラナ、いじめられたわけじゃないのね?」


「はい。メテットさんはワタシの選択肢を広げてくれたんです。でもどうすればいいのかわからなくなってしまって……頭がいっぱいになって……」


「……いいのよラナ。悩みに悩んで泣いてしまうのはよくあることだわ」


 シズルはしゃがんでラナの涙を拭う。その姿はまるで転んだ子供を慰める様な優しさにあふれていた。

 メテットはその様子を見てこう呟いた。


「シズルはシンライデキるオトナであるとハンダンする」


「えっ……」


「ん?」


 二人してメテットを見つめる。


「サキホドはシズルのことをシマのヨウスから、キケンなセイメイタイだとセンニュウカンをモっていた。それはアヤマりだった。ホントウにモウしワケない」


 メテットは深々と頭を下げる。


「……泣かしたくて泣かせたわけじゃないみたいだし、別にいいわよ」


「ジライゲン、ジゲンバクダン、ハンブッシツとオナじとオモってたこともシャザイする。すぐにバクハツするカヤクコのヨウなソンザイだと」


「やっぱ一回ぶっ刺してやろうか?」


「……ラナも、ごめんなさい。メテットがオいツめすぎた」


 メテットはラナの方にも向き頭を下げた。


「いえ、大事なことです。ワタシこそ泣いてしまってごめんなさい」


「そこで、フタリでハナしてキめてもらいたい」


「……二人って、ワタシとシズルさんで?」


「そう。メテ……トウキからラナにハナすことはもうない」


「さっきから一人称ころころ変わるわね」


「そこはイマキにすべきテンではない。シズル。ラナのセンタクのソウダンヤクをしてほしい」


「選択? まぁラナが困っているなら手を貸すわよ」


「では、ラナ。よくハナしアってみて」


「はい。シズルさん実は……」


 ラナは今までメテットと話したことを伝えた。

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